隻腕ライトイールようやく戦う
城への道をひた走るアルゼリータとロゼイル。その最中、一頭の馬が二人の前に現れた。二人はその馬に見覚えがあった。
アリシュタイン――――マルイスの愛馬であった。
主を探すように首を左右に動かす馬を見て、ロゼイルは思わず足を止めた。
「あ、おい……」
アルゼリータの制止も聞かずに馬に近付くロゼイル。
「ごめんな、君の主はもういないんだ……」
そう語りながら馬に触れようとしたとき、銀の閃きが視界に入った。剣が、ロゼイルと馬の間に差し込まれたのである。
「触るな。逆賊めが」
ガルツァーであった。その声は怒りで震えている。ロゼイルに剣を向けながら睨み付ける。
「王子はどうした。いや、聞くまでもないか。殺ったのはお前らだな?」
仕える主を失い、怒りと悲しみで全身を震わせている。そんな彼を挑発するようにアルゼリータは答えた。
「ああ、そうだよ。あいつを殺したのはこのオレだ」
口元は歪んでいる。
かかってくるならお前も殺す、と氷剣を精製する。
ガルツァーも、アルゼリータに対し剣を構えた。
「アルス待って! オレが相手する!」
ロゼイルが、二人の間に割って入った。
「はぁ、何言ってんだ。邪魔だ。第一、お前は片腕しか無いんだ。まともに戦えないだろ」
アルゼリータが苦言を呈す。が、ロゼイルも負けじと。
「オレだってシラルガン。両利きに矯正されてるし片腕で戦う訓練だってしてる。だからお願い。ここはオレに任せて欲しい」
しばらく沈黙がよぎる。そして。
「わかった、手ぇ抜いたらブチ殺すからな」
そう言って、アルゼリータは城へ向かって行った。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも戦うんだよ。ガルツァー」
兄、とつけずに名前を呼ぶ。敵として戦うという覚悟。
「お前じゃオレに勝てない。無駄死にするだけだ。オレはあの男を追う」
ガルツァーは身を翻しアルゼリータを追おうとする。が、ロゼイルは背後から首元に剣を突き付けた。
「正気か?」
「オレが行かせない。オレはあの人の側近。守るのが役目だ」
「その腕でか」
「そのために……後をついて生きてきた」
ガルツァーはそうか、と一言だけ呟くと、振り向きざまに剣を横一閃に振り抜いた。
金属音を響かせながら一閃を受け止めるロゼイル。
「くっ……!」
圧されながらも弾き返すと、一歩踏み出しながら上段から斬りかかる。が、それを軽くいなされる。
斬る、いなす。斬る、いなす。攻めと防ぎに交互に繰り返しながら剣戟を響かせていく。
やがて千を越える頃、二人は距離を取り、息を整える。疲労は限界まで溜まっていた。
それでも戦う事は止められない。
生涯仕えると決めた主の仇を討つため。
生涯一緒にいると決めた主の復讐の果てを見届けるため。
「正直、ここまで出来ると思ってなかった」
荒々しく呼吸を繰り返すガルツァーは、同じく苦しそうなロゼイルに向かって。
「隻腕で良くやった。だが、終わりだ」
土を踏む足音が近付いてくる。が、ロゼイルは剣を構えることが出来ない。もう限界だった。
やがてロゼイルの前で止まり、無言で剣を振り上げ斬り込もうとしたとき、突然制止の声が響いた。
「ガルツァー待って! 殺さないで!」
その声に、二人は大きく目を見開いた。
だってあり得ない。恐る恐る声のする方向を振り返る。
愛らしい顔立ちに大きな瞳。戦場に不釣り合いな顔の少年。
――――マルイスが、二人の許に駆け寄って来たのだ。
「殺してはダメだガルツァー。それより早くお兄様の所に行かないと」
幻覚だと思った。主を喪った悲しみが見せている錯覚だと思った。
ロゼイルも心底驚いていた。だってこの王子は、アルゼリータが首を落とし殺しているはずだからだ。
「おうじ……おうじなのか?」
「僕以外なんなんだ。ほら早く、ボーッとしてないで。これは貴方たちシラルガンの問題でもあるんだから」
呆けてるガルツァーとロゼイルを急かすようにマルイスは背中を押した。確かな感触が背中に伝わり、本物だとようやく実感した。
「どうして、王子様はアルスが殺したはずじゃ」
「あれは身代わりというか……。ああ、あの人死んだんですか」
冷静に答えるマルイスに、ガルツァーはその場で膝を折った。安堵感が全身に駆け巡り、立っていられなくなったのだ。
「王子……、無事で……良かった……」
「落ち着けガルツァー。第一、グランシア兄上が僕を前線に送り込む作戦なんて立てる訳無いんだから、少しは疑いなさい。動揺した時点でお前は敗北です」
王子からの説教に項垂れるガルツァー。
そのやり取りを見て、ロゼイルは少し笑みがこぼれた。この戦いが始まる前はアルゼリータとこんな風に楽しく過ごしていたと懐かしく感じたからだ。
「ところで王子。シラルガンに関係しているというのは……」
「お前たちは青のシラルガンは知っているよな」
青――ブラウの名のシラルガン一族。赤のシラルガンに次ぐ戦闘緑内障を誇り、繁栄を続けている。今は王家に仕えているとブラウの1人が言っていたが――――。
「もうブラウなんて存在していない。滅ぼされたんだ。赤のシラルガンに。それも、真っ先に襲撃されたのがブラウの一族だったんだ」
それはロゼイルたちロゼやベルデより先に滅ぼされたということだった。
「そんなバカな! あり得ない! そんな簡単にブラウが殺られるものか」
「何が起きたのかは分からない。でも、あのマナというブラウはその事実を許せずロゼやベルデの残党狩りを徹底的にしている。手段は選んでないよ。スティエラ姉様やお兄様を殺してでも君たちを探して殺しに来る。死んでしまっては何もかも手遅れだ。そうなる前にマナの暴走を止めないと!」
王子に促され、三人は城に向かい走り出した。
「あーあ、どっちにしろ殺されそうだなぁ」
「大丈夫だライトイール。骨は拾っといてやるからな」




