王たちの進軍
いざ行かん! 進軍の時よ!
我らが進むは覇王の路
我らが望みは世界の変革
我らが目指すはこの世の頂点
導きたまえ我らが王!
守りたまえ我らが王!
陽は落ち、深海のような青い闇の中。
集いし兵士達は繰り返し唱う。
悲願の成就と軍勢の頂点たる王を讃える歌を。
「わあすっげぇ、みんなアルスの事言ってるよー、恥ずかしいねー」
屋敷の上から集っている民衆を眺めているロゼイルは隣にいるアルゼリータを見る。
当の本人は、民衆に背中を向け、両手の平を見つめながらぶるぶる震えている。
「お前らァ……」
低く呟き、直後怒鳴り声をあげた。
「人の腕ん中でイチャイチャすんじゃねー!」
「うえええ! どうした! 君の腕がどうした!」
両手の平に向かって叫ぶアルゼリータを心底驚いたのか、ロゼイルはアルゼリータの腕を掴む。
「んあ? ああ……お前も聞くか?」
アルゼリータはおもむろに両手でロゼイルの耳を塞いだ。そして聞こえてくる……2つの男女声。
「もうすぐ開戦。あたしの足引っ張るんじゃないわよイルグ」
「バカ。足手まといはお前だろエレニア。前髪気にしてる暇あったら集中しろ」
「なっ何よ! 髪は乙女の命なのよ!」
「だから、前髪なんて気にしてもお前の可愛さは変わらないんだから、ちゃんとオレの方見てろ」
「んっああ! もうイルグったら!」
「…………ああ~……」
腕に宿る2体の精霊の声を直に聞き、虚空を見るような遠い目をするロゼイル。
「だろ? そうなるだろ? こんな会話毎日聞こえてくんだぜ?」
「あちゃー、よりによって……。だからアルスの性根がこんなにもネジ曲がっちゃったのか……」
突如、火柱があがる。アルゼリータの腕から発火される火が、暗い夜を煌々と照らす。
遠くにいる姉王にも解るように、出来るだけ派手に、派手に。
「待たせたな! 我が連盟の国民よ! これから得るもの失うもの、天のみが知る運命! その運命すら! 私は従えて見せよう! 我ら名は国民連盟! さぁ! オレに続けェ!」
屋敷を飛び出し、先陣を切るアルゼリータとロゼイル。王のいる城へ真っ直ぐ騎馬と歩兵を進ませる。
道中敵は少なく、城に近づいていくと、チラチラと反射する無数の光が見えた。
「弓矢か、随分歓迎されているなぁ! 」
思わず笑ってしまう。
だって、ずっと願い続けた瞬間が今まさに叶いつつあるからだ。
バシュッ
放たれた矢が一斉に飛んでくる。
王族が抱える精鋭な兵士達だ。狂いなく真っ直ぐに敵を、国民連盟を狙っている。
「るらぁぁぁぁぁ!! アルスァぁぁぁ!!」
「うっせぇなおらぁ!」
情けなく絶叫するロゼイル。そんな側近を後目にアルゼリータは右手を大きく広げ炎の幕を広げた。
「あぶねっ! っっぶねーーー!」
「ああもう! ちょっと黙れねぇかな!?」
矢といっても木で出来た量産品だ。無理矢理燃やして無力化させるのは造作もなかった。
矢尻だけとなり、力無く地面へ落ちていく。
「さて、次はこちらの番かな」
次は左手を掲げる。
大気を覆う冷気の嵐は無数の氷を生み出し、鋭く先を尖らせる。それを弓兵がいた城のバルコニーにぶつけていく。頑丈な城が音を立て崩れていく。
さらに風穴をあけようと再び氷の矢を生み出す。そして放とうとしたとき、兵士とは違う人影が見えた。
戦場にはあまりに不似合いな可憐で品位溢れる金の髪。その姿にアルゼリータは思わず手を止めた。
その美しい女性は崩れかけたバルコニーに堂々とたち、アルゼリータに向かって叫んだ。
「私の運命の敵王よ。貴方の御名は知っています。だからこそ、知らぬ顔はできません。我が弟ハヴィラル、我が城に賓客として迎えます!」
女王スティエラ。
民衆を導く為の声は美しく力強く逞しい。誰もがその声に耳を傾けた。ただ一人除いて。
アルゼリータは目を細めた。のこのこ城にいけば何らかの策に嵌まるのは目に見えていた。
「ご機嫌麗しゅう女王陛下。折角ですが、そのお誘い丁重にお断り致します……っ」
止めていた左手が動く。
アルゼリータには既に姉の声は聞こえていなかった。
鋭い氷の矢を、容赦なく残酷に姉の胸へ突き立てた。




