終局の兆しへ
ロゼイルが目を覚ましたのは、解毒治療後三日目の朝だった。髪はボサボサで目は泣いた後のように腫れている。隣にいたアルゼリータは、起き抜けのロゼイルに声をかけた。
「よお、生きて帰ってきたか」
「お陰様でー、毒より水で苦しみました」
解毒のために無理矢理多量の水を飲まされたので、ロゼイルは苦しそうだった。ゲホゲホと咳き込んでいる。
「お前、オレに何か言うことはないか?」
「……この度は、お騒がせ致しました」
ロゼイルは素直に謝罪した。その様子にアルゼリータは、鼻をふんと鳴らし向き直る。
「ちなみに、富豪戦争はコンフィートの圧勝だったそうだ。全く恐ろしいな、金の力は」
ため息混じりの報告は、金の魔力の恐ろしさを物語るものだった。
「そーかい、オレはちょっと寝るよ。アルス、静かにしててね」
そう言ってごろんとベッドに横になる。
「さんざん寝てたくせにまだ寝る気か! まあいいか、起きたら質問攻めだからな」
元気そうなので、部屋を後にするアルゼリータ。バタンと扉が閉まる音を確認すると、むくりと起き上がるロゼイル。そして、長い袖を捲し上げた。今まで肘までだった火傷の呪いが、肩まで広がっている。
『バレて……無いよな?』
ロゼイルの右腕は、腕としての機能を失っていた。もう動くことも感じることもなく、ただ力なくダランとぶら下がっているだけだった。
ここまで広がるのに四年かかっている。ゆっくりゆっくり、目立たない進行だが、確実に身体を蝕んでいく。
「これを知ったら、あいつどう思うんかな」
動かない右腕を左手で掴み、ぷらぷらと振ってみる。掴まれているという感覚がないので、自分のだという実感がなかった。
「これからも、いて、くれるよな?」
もう、誰も目の前から失いたくなかった。
そして起こしていた身体を倒し、涙で若干潤んだ目を閉じ眠りについた。
自室に向かう途中で、何度目か分からないため息をつく。
日常化していく平和な時間。良いことには変わりないのだが、アルゼリータにとっては望んでいた事ではなかった。彼は戦争が好きなのではなく、復讐するのではなく、ただ思い知らせることが目的なのだ。
自分を野に放す、という事がどういう事なのかを──
今までゴタゴタに付き合わされて忘れていたが、最大の目的は王族を絶やすことだ。自分を追い出した自分の一族を。
それを今回、剣を持ったことで思い出した。戦ったことで思い出した。
『オレも、平和ボケしてたか……』
ふらふら歩いていると、二人の兵士が慌ただしく近づいてくる。監視巡回ではなさそうで、息を切らしてアルゼリータの前で止まる。
「アルゼリータ様、緊急でお伝えしたいことが……!」
「お父上、ハングリット陛下が崩御されました」
「それと、もう一つ……」
「姉姫、スティエラ様が即位されたそうです!」
交互に伝えられる報告になんとなく耳を傾けていたアルゼリータだが、姉の女王即位には目を見開いた。
「父上が死……姉さんが女王……?」
明らかに動揺していた。金の瞳が揺れる。
それを隠すように兵士たちに背中を向ける。
「皆に伝えろ」
声は震えてはいない、あくまで平静を装う。
「明日の夜、兵を進ませる」
王の命令は絶対だ。この伝令は連盟に属する民に早急に伝えられた。




