教えてやるよ
二人は魔王の城の近くにある、モンスター街へ出向いた。
もちろん、住人は全て、モンスターである。
「いいか?まずは情報収集だ。どうやらこの島に、伝説の武器が隠されているらしいんだ」
「伝説の、武器!」
「ああ。ま、信憑性はいまいちだが…ないよりはあったほうがいいに決まってる」
「ですね。まずは当たってみましょうか」
ひそひそ、と話しながら、二人はモンスターが集まりやすいであろう、酒場へと向かった。
中はガヤガヤと賑わっているようだ。
二人はこっそり入り込むと、隅の薄暗いテーブルについた。
「ふう…侵入成功、だな」
「僕、緊張してきました…」
勇者はキョロキョロと辺りをうかがっている。
「確かに…。さすがにこう、密室でモンスターに囲まれると、くるものがあるな…」
「うう…あそこにいるドラゴンみたいなの、すっごく強そうですねえー…ごくり」
「ああ…しかもこの数だ。勝ち目はないな…」
「バレたら、ゴク。殺されちゃいますかねえ…ゴクゴク」
「ここは慎重に行くべきだな…ところでお前、さっきから何飲んでんだ?」
勇者はいつの間にかグラスを持っていた。
「あ、これですか?僕、緊張のせいか喉が乾いちゃって…。さっきおみせのしとが、もってきてくられしゃ」
「…ん!?」
「お水かにゃとおもたんでしが、なんかちがったみらいれふねえ」
「お、おい、勇者?勇者?」
勇者の様子が、おかしい。
「ありゃー?ぼくのおやゆびどこにいきまひたかねえ?」
「お、おい、おい」
「なんらかきもひがもびるすーつ」
「勇者ー!」
「ざくれろ」
勇者は撃沈した!
「ど、どうすりゃいいんだよ、コラ…」
このろくでなし!
Aは頭を抱えた。
すると。
「おい、なにやってんだあ?」
「!」
Aの前にモンスターがあらわれた!
「ぎゃいぎゃいはしゃいでよお。楽しそうだなあ」
さっき勇者が言っていた、ドラゴン系のモンスターだ。
「酔っぱらっちまったのかあ?」
「あ、い、いや、別になんでも…」
「そうかい。しっかし、さっきから見てたけどよお。お前ら、随分と…」
ずずい、とドラゴンが顔を近づける。
「……へ、へ?」
「人間の言葉が、うめえなあ」
「ーー!」
終わった。Aはそう思った。
「あ、えっと…」
「あれか?お前らも出張、長かったんだろ」
「…は、しゅ、出張…」
「人間界に行ってたんだろ?オレも人間言葉がすっかり移っちまってよお。今じゃすっかり、魔物言葉より慣れちまってなあ」
「!あ、そ、そうなんだよ!」
Aは機転を利かせた。
「ひ、久しぶりに、こっちに帰ってきたもんでさあ」
「やっぱりか!んで?どこに行ってたんだ?」
「!え、えーと…か、カザの、村…」
「おお?そこ、オレの兄貴も行ったぜ!オレに似たやつ、見なかったかあ ?」
「あ、あー、いた、かもな、うん」
「そうかそうかあ!よおし!今日はオレが奢ってやろう!久しぶりの魔界の味を楽しめや!」
どうやらうまくいったようだ。Aは陰でほっと息をついた。
「えーひゃーん、さっきかりゃちーずけーきがおそってきまふ…」
そんなAの努力も知らず、酔いつぶれた勇者はうわ言を繰り返している。
「うう…ぼくはやいてないやつは、だめなんら…べいくど…べいくどして…うぅ…」
「…あれ、お前のツレだよな」
ドラゴンが勇者を指さす。
「……ああ」
違うと言えたらどんなにいいだろうか。
「ま、一応な。…ずっと一緒に仕事しててさ」
「そーかそーか。あいつ、随分強いの飲んだんだなあ。今、酔いざまし持ってこさせるな」
「すまん…」
「いいってことよ。一緒に酒を飲んだら、みーんな友達だあ!」
ドラゴンはAの肩を叩いて笑った。
しばらく、二人はそのまま酒場に居座った。
「いい人、じゃなかった。いいモンスター、ですね」
酔いから回復した勇者が、呟く。
「ああ。でも、なんか複雑だ」
「…ええ」
勇者も、Aと同じ気持ちだった。
「僕、今まで彼らをモンスター、というくくりでしか見ていませんでした。…彼らだって、生きてるんですよね。僕らと同じ。みんな日々を、暮らしている…」
モンスターたちは、人間と同じように酒をのみ、愚痴を言い、笑い、騒いでいる。
「どうして、モンスターは人間と戦ってるんでしょう」
「そりゃ、魔界には食う物が無いからなあ」
さっきのドラゴンが、二人の話に横やりをいれる。
「俺達の世界にはなんにもない。だから、持ってるやつらから、奪う。当然だろ?そうしないと、みーんな死んじまうからな」
ドラゴンは笑いながら、そう言った。
「なあ。魔界には、畑とか、何かを育てることをしないのか?」
Aは不思議そうに、ドラゴンに尋ねた。
「ここにだって土はあるし、気候も悪くなさそうだ。なのに、なんで育てようとしない?」
「…あ?何だ?育てる…?」
「ち、ちょっとAさん…」
勇者がこっそり牽制するも、Aは引かない。
「人間は、長い時間をかけて、生み出してきた。土を耕し、水を引き、病気や災害と戦い、試行錯誤しながら、作物を育ててきたんだ。飢えないように、生きるために…。だのに、お前らは、消費するだけか。消費したいから、その人間たちから、奪うのか!」
「……」
Aの、鬼気迫る、言葉。
Aとドラコンの間に、緊張が走る。
勇者は気付かれないように、そっと懐の小刀に手をかけた。
「力で奪い、食い尽くし。それで、人間が作るのをやめたら?お前ら、今度はどうするんだ?」
「……」
「そうやって無くしていくばかりなら、結局遅かれ早かれお前らだって滅びる!」
「…お前」
ドラゴンは、Aをじっと見つめた。
「なんだよ」
「お前なら、できるのか…?」
「……」
「俺達にも、できる、のか?」
Aは、頷いた。
「…できる」
「!」
「俺がお前らに、教えてやるよ!」