いざ、対決
『マタ来タカ、人間メ…』
祠の番人、黒煙が勇者たちに襲いかかる!
「よし!いけ勇者!」
「はい!」
待ってましたとばかりに、勇者は笛を取りだし、吹いた!
「……」
「……」
しかし音が鳴らない!
「…あれ?」
「おい、早くしろよ」
勇者は笛を吹いた!
しかし音が鳴らない!
「……」
「え?あれ?おかしいな?」
「……」
「……あれ?」
「いやいやいやいや」
Aは焦りだした!
「何やってんだよ!早く吹けよあいつ待ってるだろ!」
「いやそれが吹いても音が鳴らないんですよ!」
「あ!?」
勇者は笛を吹いた!
しかし音が鳴らない!
「ほら!」
「マジか!」
「ど、どどどどどうしましょう?」
「お、おおおおお落ち着け!とにかくなんとかしろ!」
「なんとかってどうするんですか!だってこれ鳴らないんですよ!」
勇者たちはこんらんしている!
『話ハ終ワッタカ?』
「!」
二人がぎゃいぎゃいやっている間に、黒煙がこちらに向かってくる。
「「ぎゃー!」」
「ミィーッ!」
コロが鋭く鳴き、黒煙めがけて飛んだ。
『!?』
コロのたいあたり!
黒煙はひるんだ!
「コロ!」
「よし!この隙に逃げよう!」
「はいー!」
勇者たちは逃げ出した。
「あ、危なかったですね…」
冷や汗を拭き拭き勇者が言った。
「笛が鳴らないとは…。事前に試しておけばよかったですね」
「いや、だってまさか、キーになるアイテムが使えないなんて思わないだろ…」
「…もしかして、この笛を吹くには、何らかのスキルが必要なのかも…」
「それがお前には無い、と?」
「みたいですね。あはは…」
Aはがっくりと肩を落とした。
「お前ってやつは…」
「すみません。僕、昔から楽器の類いはからっきしで…。あ、Aさんはどうですか」
「…駄目だろ。だって俺、村人だぞ」
「駄目ですかねえ…」
「ミー…」
はあ、と同時にため息がでる。
「…精霊の笛ねえ…。まあ、綺麗な笛だよなあ」
Aが笛を手に取る。
それはしっとりと濡れたように黒く、妖しい光を放っていた。
「そうだAさん。試しに吹いてみませんか?」
「ああ?」
「試せることはなんでも試せって、Aさんが言ったんじゃないですか」
「あー。まあ、いいか。ここが吹き口か?」
Aは笛を吹いた!
不思議な音色があたりに響く!
「えっ」
「えっ」
「……」
Aは笛を吹いた!
不思議な音色があたりに響く!
「……」
「……」
「…マジか!」
「やってみるものですね!」
『マタカ…人間…』
黒煙が現れた!心なしかうんざり顔のようだ!
「ふっふふ…今度はそうはいきませんよ」
「……」
「さあ!Aさんどうぞ!」
「……お、おお」
Aは笛を吹いた!
不思議な音色があたりに響く!
「さあ!どうだ!」
『マ、マサカ…ソレハ…!』
黒煙は耳を塞いで、苦しみだした。効果があるようだ。
「そう。精霊の笛だ!お前には効果てきめんだろう!」
『グ、ググウ……』
「さあ!その祠から、出ていってもらいましょうか!」
『ウ、ウウ…ウワアアアアア……』
黒煙は断末魔をあげ、ゆっくりと消えていった。
勇者たちは戦闘に勝利した!
「やった!やりましたよAさん!」
「…お、おう…」
Aは複雑な顔をしている!
「なんですか?」
「…お前、今回何もしてないのに、なんか今までで一番、勇者っぽかったな」
勇者が、祠を開く。
中には兜がひとつ、どん、と置いてあった。
「お、おお…これが…」
なんとも言い難い、厳ついフォルムだ。
「これはなんとも、強そうですね…」
「……」
「さあ…Aさん」
「…うむ」
Aは兜を手に取ると、恐る恐る頭に被った。
Aは兜を装備した!
「!」
「Aさん!装備できましたね!」
「……」
「…Aさん?」
「……」
「どうしました?」
「…抜けねえ」
「!?」
「…これ、呪いの兜だ……」
Aは呪われてしまった!
その後。宿屋にて。
ーえ、なに、あの人…
ーこわ…
ヒソヒソヒソヒソ…
視線が痛い。気まずい空気が二人の間を流れる。
「……」
「……」
「…あの、Aさん」
「……」
「だ、大丈夫ですよ」
「…何が」
「その、兜。か、かっこいい、ですよ…」
「……」
「……」
「呪われてるのに?」
「……あ、えっと、迫力が、あるっていうか…」
「へえ……」
ーうわ、なにあの兜。
ー変なのー!
クスクスクスクス…
「あの、後で、何かの役に立つかも…」
「…例えば」
「え、えっと…」
「……」
「……」
「しにたい」
「すみませんでした」
その後、神父にバカ高いお布施を払って呪いを解いてもらうまで、Aはその姿で日々を過ごしたのだった。