正しい嘘
「…あれ?寒く、ない…?」
「戻ったか!」
ユウが目を覚ました。
閉じ込めていた時が、動き出したのだ。
「どうなって…?あれ、滝が戻ってる…!」
Aは、今さっきの出来事をユウに話してやった。
「そんなことが…滝の、神が…」
少なからずショックを受けた様子だ。それもそうだろう。今まで豊穣の神として祀っていたものが、昔、自分達の祖先に迫害され自ら命をたった少女だったと聞かされたのだから。
「…とにかく、一旦村に戻ろうぜ。お前の母ちゃんが起きてるかどうか、確かめにいかないと」
「…はい!」
勇者一行は、ユウと共にミーヤ村へと向かった。
「ー!」
「…一体、私は…」
村人が徐々に目を覚ましていく。
「よかった…本当に、戻ったんだ!」
動き出す村の景色を見て、三人はほっと息をついた。
「よかったですねえ」
「ほら、さっさと母ちゃんのとこ、行こうぜ!」
ユウが、そろそろと家の扉を開けると。
「あら、ユウ。もう帰ってきたの?」
ユウの母が、出迎えてくれた。
「どうしたんだい?あら、お客さんまで連れて…」
「母さん…!」
ユウは母に抱きついた。
「よかった…母さんが起きてる…よかったあ…っ」
「あれあれなんだいこの子は…」
ユウの母は、困ったように笑った。
「ではまず、村長のところへ行きましょう」
ユウは二人を村長の家へ案内した。
「村長!村を救ってくれた勇者さま方をお連れしました」
「……」
だが、村長は苦々しい顔で、勇者とAを睨み付けた。
「村長?」
「…外の者が、こんな山奥に何の用で、立ち寄ったと?」
明らかに、二人を怪しんでいる様子だ。
「えっと…僕達、精霊の笛を探していまして…」
「精霊の笛、ねえ…」
視線がぎっと鋭くなる。
「そんな話、どこで聞いたのです?」
「?あの…?」
「…滝の神が呪われた女だっただと?くだらない」
村長は吐き捨てるように言った。
「そ、村長!この人たちは、この村を助けてくれたんだよ!」
「お前は黙っていなさい」
村長はユウをピシャリとはね除けた。
「よくもまあ、上手にたらしこんだもんだ。余程手慣れていると見える」
「は…?」
「全部、あんたらが仕込んだことでしょう」
「「…!?」」
「盗人め。神だけでなく、我らの祖先まで侮辱しおって…!田舎者だとバカにしているのか!」
村長は激昂し、勇者たちを罵った。その大声を聞いた村人も集まってくる。
「お前たち!こいつらだ!こいつらが、村に呪いをかけたんだ!大方、魔法かなにかだろう。このままでは全て奪われるぞ!早く追い出せ!」
「何…!」
村人たちの顔色がさっと変わった。
「そうか…だから、急に体が動かなくなって…」
「私たちの、財産を狙って…!」
あっという間に、村中にざわざわと殺気が満ちていく。
「違うんだ!村の時を止めたのは、滝の神様で…!」
ユウが必死で訂正しようとするも、村人は聞く耳を持たない。
険しい顔つきで、勇者とAへにじり寄ってくる。
二人は、窮地に立たされた。
そしてー
「…ふん。バレちまったらしょうがねえなあ!」
「!?」
Aはすっくと立ち上がり、叫んだ。
「そうだ俺たちゃ泥棒だ!お前らを眠らせてそのうちに盗みにはいるつもりだったんだが失敗だったようだな!」
「ちょ、Aさん…!?」
「そうと決まればとっとと逃げるぜ!子分よ!ついてこい!」
「えっ、ちょっと…うわあああ!」
Aは勇者の襟を掴むと、バタバタと走り去った。
Aと勇者は逃げ出した!
「……」
「……」
「…Aさん」
「あ?」
「なぜ、あんな嘘を…?」
心配そうに二人を見るコロを抱き上げ、勇者は訊ねた。
「きちんと話せば、わかってもらえたのでは…」
「……」
「これじゃ僕ら、まるで極悪人じゃないですか…」
「…仕方ねえのさ」
Aは、足元の石をこつんと蹴った。
「あの人たちが、聞くはずねえんだ。だって俺たちの言うことを信じたら、今まで積み上げてきたものが全部、ひっくりかえっちまうだろう?」
「……」
「呪われた少女も、それを恐れた祖先も。あいつらにとっては、受け入れがたい事実だったんだよ。だから、今のままでいいんだ。災いは全部外からの物。村人はこれまで通り、滝の神を敬い、崇める。…その方が、滝の神も喜ぶだろ」
「なるほど…。そう、ですね」
勇者は何も言えなかった。
ただ、去り際に聞こえた、ユウの呟き。
『そんな…勇者さま…!』
彼の気持ちを考えると、胸がちくりと痛んだ。
「さあて。じゃああの祠のレアアイテムとやらは忘れて、次の街に行こうぜ」
「…、そう、ですね!着いたら、美味しいものでも食べましょう。コロも飛べるようになったことだし、お祝いに!」
「ミー、ミー」
「お、そうだったな!まったく。コロ、お前はほんとに出来たやつだぜ」
「ミー!」
「うんうん。お前、どっかの勇者さまよりよっぽど優秀だ」
「まだそれ言いますか!」
みんな、努めて明るく振る舞った。そこへ。
…さまー!
「?」
「勇者さまーっ!」
何者か、叫びながらこちらへ駆け寄ってくる。
「あ、あれは…」
「勇者さまー!待ってください!」
「ユウ!」
ユウが息を切らせて、勇者たちを追いかけてきたのだ。
「ユウくん、どうして…」
「はあ、はあ…。こ、これを…」
ユウは、勇者に小さな笛を、差し出した。
「これ、精霊の、笛、です…!」
「!」
「持っていってください!」
勇者とAは驚いた。
「でも…い、いいのかい…?」
「はい。母さんに全部話したら、宝物庫のカギの場所、教えてくれて… 。こっそり、すり替えてきたんです!これ、探してたんですよね!どうぞ持っていってください!」
ユウは笛を手渡すと、頭を下げた。
「俺、みんなを説得できなくて…すいません…。でも、俺、俺と母さんは、本当のことを、伝えていきます!何年かかっても、必ず真実を伝えていきます!勇者さま、Aさん!あと、翼竜の子も…。本当に、村を救って頂いて、ありがとうございました!」
「…!」
ユウの言葉に、Aは目頭が熱くなった。
「ユウ…」
その、まだ若い彼の心意気に、胸を打たれたのだ。涙が出そうだったが、なんとか耐えた。男が泣くのは、カッコ悪いだろう。
ふと隣を見ると、勇者はハナを垂らして号泣していた。




