第42話 雄大と使命と龍王の歩み
それは――三人がログアウトして、すぐのことだった。
不意に。
世界の上空から、音が降りてくる。
ノイズも、前触れもない。
ただそこに在るものとして。
《——全プレイヤーへ告ぐ》
ざわめきが、各地で広がった。
「……なんだ?」
「ワールドアナウンス?」
戦闘中の者も、街にいる者も。
その全ての耳に、等しく届く。
《冠する者『不孵化』『可孵化』及び『風化刹命』のジャガモース 討伐完了により》
誰もが、息を呑む。
《戴冠の試練【風化刹命】は、これをもって踏破された》
《討伐者》
《プレイヤー名——『アルヴィ』『マイン』『チュニドラ』》
名前が、刻まれるように響く。
誰もが、それを聞いた。
《冠する者の撃破により、ワールドストーリーが進行》
《加えて》
《【戴冠者】が誕生した》
間。そして。
《加え——》
《世界に、変化が訪れた》
沈黙は、一瞬だった。
次の瞬間。
声が、爆ぜた。
「は――?」
「ちょ、待て待て待て」
「今、なんつった!?」
各地で、声が上がる。
街の広場。
ダンジョンの最奥ですら。
プレイヤー達は、一様に動きを止めていた。
「冠する者……倒した?」
「いやいやいや、あれだろ。あの群雄のシーアッシュプと同じ冠する者だろ」
「イベントボスじゃねえのかよ……」
ざわめきは、収まらない。
むしろ、広がる。
「しかも三人って言ったか?」
「いやそれより、戴冠者って何だよ」
情報が、追いつかない。
理解が、拒絶する。だが。
一つだけ。
全員が、同時に反応した名前があった。
「……マイン?」
空気が、変わる。
「おい、今のマインって」
「まさか、あの【命黎巫女】の……?」
ざわめきの質が、変質する。
疑念から、確信へ。
「……いや、確定だろ」
「あいつしかいねえ」
「ユニークジョブならありえるのかよ」
畏怖が、混じる。同時に。
理解する。
「じゃあ残りの二人は誰だよ」
静まり返る。
「……聞いたこと、あるか?」
「いや、ねえ」
「アルヴィ……チュニドラ……?」
無名。
完全な、未知。
「……やばくね?」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「マインと組んで、冠する者落としたってことは」
「同格……いや、それ以上か?」
想像が、膨らむ。
「いや、キャリーだろ。聞いた事ねえし」
「だとしても洒落になんねえよ」
ざわめきは止まらない。
むしろ、加速する。
世界に、波が立つ。
それが、戴冠の試練踏破の夜だった。
そして――
新たな伝説が、生まれた夜でもあった。
★
目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。
スマホを手探りで探し、画面をつける。
午前3時02分。
「……うわ」
変な時間に寝たせいで、最悪な時間に目が覚めた。
喉が渇いてる。
身体も少し重い。
けど、一度起きたらすぐには寝られなさそうだった。
「まあ……水でも飲むか」
そう呟きながら、なんとなくスマホを開く。
そのまま手癖でSNSを起動した。
いつも通りの情報の海。
ニュース。
誰かの愚痴。
Vの切り抜き。
猫。飯テロ。
意味のわからないおすすめ投稿。
でも――
今日は、明らかに違った。
トレンド欄。
そこに並んでいたのは。
トレンド
1位 戴冠の試練
2位 マイン
3位 誰だよアルヴィ
4位 誰だよチュニドラ
5位 戴冠者
7位 ジャガモース
9位 世界に変化
「……ハハ」
何があった?
まあ、考えは付くけれど。
大方、ワールドアナウンスなんかで流れたんだろう。
それ以外に、こんな綺麗に名前が並ぶ理由がない。
一気に有名になっちゃった。
面倒なことになる。
絶対的な確信だ。
★
――黎明、至る時か。
創造主の命に従うことに、我は一片の疑いも抱かない。
それが我が在る理由であり、存在する意味そのものだ。
だが――
何故、今なのだ。
何故、此処まで世界が歪み、綻び、軋むまで。
我を目覚めさせなかったのか。
答えはない。
それを知ることもまた、我に許された役目ではないのだろう。
ならば、問う必要もない。
我が為すべきことは、ただ一つ。
――救うべき者を、探すこと。
それこそが。
星の守護を託された我、
「機亀バジュール」に与えられた役割なのだから。
★
一方その頃。
ルミナリアの何処かで――
もう一つの【戴冠の試練】が、
静かに、その幕を上げようとしていた。
空間に、無機質な声が響く。
《【戴冠の試練】――【龍王の開花】を開始します》
その声を前にしてもなお、
少女は一歩も退かなかった。
まっすぐ前を見据え、
小さく、けれど確かな意志を宿した声で呟く。
「……待っててね、ソノル」
その言葉を合図にするように。
新たな試練が――
今、始まる。




