第1話 グランド・エイデン・オンライン
これは少し先の出来事。
――空が、たわんだ。
蒼天を泳ぐ青銅色の辰。
その瞳が、地上を見下ろす。
【冠する者――『群雄』のシーアッシュプ 堕ち至る】
次の瞬間。
視線を合わせたわけでもない。
だが、確かにその眼に「引き寄せられた」。
ここにいる全プレイヤーの体が、同時に白く発光し。
次いで、ステータスウィンドウが勝手に開き、数字が乱れ始める。
「……え? スキル欄が——無い」
「ステ下がった!?」
「 いや、俺は逆に上がって……?」
「魔法が使えない! 詠唱が全部無意味になる!」
「は? 俺、STRがバカみたいに下がってる!」
叫びが飛び交う中、ひとりが震える声で叫んだ。
「……これ、ステータスを均されたんだよ!!」
理解が走る。
——この場にいる全員のステータスが、
《《完全に同じ数値に統一された》》。
私達はシーアッシュプが、
群雄の名を持つ理由を、その身をもって思い知らされることになる。
「うそでしょ」
「群雄ってそういう意味ね……」
ここから始まるのはレイドじゃない。
ただの――蹂躙だ。
★
鋭い風が吹き荒れる戦場。
仲間は倒れ、ただ一人、私は剣を握っていた。
だが、その刃は届かない。
「己を知れ。我は貴様を打ち滅ぼす」
放たれた一太刀が、私の意識を断ち切る。
――そして。
「……っ!」
目を覚ますと、そこは見慣れた現代の部屋だった。
あの戦いは夢ではない。私はかつて異世界で死に、ここに転生した。
アルリューゼ・ヴィーニッカ。
それが、私の名前だ。
★
大学を終え、帰宅した私はいつものようにゲームを起動する。
西洋のコロッセオを舞台にした、銃と剣を駆使して対戦する格闘ゲーム、「バトルアリーナ:クロスウェポン」通称バトクロ。
けれどその日、長く遊び続けてきたゲームは、静かに終わりを迎えた。
最後のログイン。
見慣れたプレイヤーたちが集まり、他愛もない会話を交わす。
そして――
《この度『バトルアリーナ:クロスウェポン』はサービス終了いたしました。これまでのプレイ誠にありがとうございました。またゴールドの払い戻しについては公式Xをご確認ください》
これで、すべてが終わった。
「……終わった、か」
通話越しに、聞き慣れた声が響く。
「ついに終わっちゃったな」
チュニドラだ。
「ついに終わっちゃったわね……」
「ま、発売から随分経って。同接なんて200人いったらいい方のゲーム。サ終も当然だろ」
「じゃあ、私は何すればいいのよ」
「私はバトクロより面白いゲーム見つけたからな。もうやってない」
「くっ……こいつ」
「何なら、アルヴィもやる?グランド・エイデン・オンライン略してGEO」
「GEO……?名前だけは聞いた事あるけどMMOだっけ」
正直今までMMORPGは避けてきた、前世と同じような世界観。
今までどこか遠慮してきたゲームジャンルだ。
「まあ、見てみろよ」
チュニドラはそう言ってGEOのリンクを送ってきた。
私はしばらくその画面を見つめたまま動けずにいた。
画面に映るGEOのタイトルロゴを見つめながら、私はそっとリンクをクリックした。
「ふむ……」
GEOの公式サイトを開くと、美麗なファンタジーの世界が広がっていた。
広大なフィールド、荘厳な城塞、空を駆ける竜の姿。
剣と魔法が交錯する戦場。戦場……。
その言葉に、心のどこかがざわついた。
どことなく前世を、失った物を思い出してしまうから。
だからMMORPGは避けていた。
でも、バトクロが終わってしまった今、何か何でもいい穴を埋めたい。
「やるか?」
少しだけ、ほんの少しだけ興味が湧いた。
この手のゲームには手を出さないつもりだった。
けれど、バトクロの代わりを探さなきゃいけないのも事実。
「やってあげるから、感謝しなさい」
私はダウンロードボタンをクリックした。
★
その後チュニドラはGEOに戻り通話も切った。
ゲームのダウンロードバーがじわじわと進むのを眺めながら、私は椅子の背もたれに体を預けた。『グランド・エイデン・オンライン』通称GEO、もしくはグラエデ。売上本数は数千万本を超える買い切り大作MMORPG。
圧倒的な自由度と高難易度コンテンツが売りで、特に高レベル帯のコンテンツはやりごたえがあると評判だ。公式サイトには、多くのプレイヤーが活動しており、動画サイトにもプレイ動画が上げられている。
舞台は広大な大陸と浮遊島で構成される異世界「ルミナリア」。世界には無数の国家や都市が存在し、プレイヤーは「冒険者」として活動。かつて神々が創造し、放棄されたこの世界では、封印された遺物や強大な敵が眠っている。
プレイヤーはこの世界で自由に冒険し、戦い、歴史の謎を解き明かしていくと言うのがメインストーリーらしい。
一通りウィキペディアを読み終わったところでダウンロードが終わり、ゲームを起動すると、美しいオープニングムービーが流れ始めた。
幻想的な世界が広がり、剣士や魔法使いが戦い、巨大なドラゴンが空を舞う。
ゲームとはいえ、圧倒的なグラフィックと演出に目を奪われる。
《『グランド・エイデン・オンライン』へようこそ。まず初めにアバターを作成して下さい》
システムボイスと共に、目の前に鏡が現れる。
「キャラメイクね……」
映ったのは、自分の姿。
少しだけ考えてから、私は肩をすくめた。
「……せっかくだし、前世の私にしてみようかな」
薄赤の髪に、紫紺の瞳。
かつての自分をなぞるように、外見を整えていく。
まあ大して変わっていないのだが。
《キャラクターメイキングが完了しました》
続いて表示されたのは職業選択。
いくつかの選択肢を流し見しながら、指を止める。
《挑戦者》
「……なにこれ、職業?」
思わず呟く。
《挑戦者》――武器を用いた戦いだけでなく、体術やカウンターを駆使する独特なスタイルを持つ。 回避と攻撃を両立し、高い機動力で戦場を支配する近接戦闘のスペシャリスト。
「まあ、これでいいか。悪くなさそうだし」
《職業が選択されました》
《『グランド・エイデン・オンライン』へようこそ》




