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第1話 グランド・エイデン・オンライン

《これは少し先の出来事》



――空が、たわんだ。

蒼天を泳ぐ青銅色の辰。

その瞳が、地上を見下ろす。

【冠する者――『群雄』のシーアッシュプ 堕ち至る】

次の瞬間。

この場にいる全プレイヤーの体が白く発光した。

ステータスウィンドウが強制展開。

数字が乱れ、そして――止まる。


全員、同じ数値。

トップ層も、初心者も。

レベルも、努力も、装備も。

すべてが均された。

「群雄って、そういう意味ね…」


ここから始まるのはレイドじゃない。

ただの――蹂躙だ。



                 ★


鋭い風が肌を切り裂くような戦場だった。空は赤く燃え、共に戦った仲間は地に倒れ、既に息絶えている。

私の剣は無数の敵の猛攻を受け、刃こぼれが目立つ。それでも、この刃を振るう手は止められない。

しかし、この刃が何を斬ろうと、あの男には届かない――いや、届く前に私は倒される。



その瞳は冷酷で、全てを見透かしているかのようだ。まるで、化け物そのもの。


「己を知り、限界を見据えろ。我は貴様を打ち滅ぼす」


 この戦いは、いつものクエストの一環だった。敵もただの強力なモンスターだと侮っていた。だが――違った。

無敵を誇ったこのパーティーが、この男には全く歯が立たなかったのだ。


「限界ね……そういうの、私……大嫌いなの」


戦闘は既に最終局面。スキルのほとんどがCT(クールタイム)中で頼れる技は少ない。



銃弾も底が見え、ウェポンスキルも再使用できない。

それでも諦めるわけにはいかない。私は地面を蹴り、飛び上がった。空中で全身の力を込め、斬撃を繰り出す。

だが――その一撃を、怪物は軽々と避けた。

簡単に避けるな、化け物め。



地上に降り立った私の体勢を整える隙もなく、彼が刀を振り上げる気配を感じた。


「威信をかけ、森羅をも滅殺せん。天割り下すこの一太刀、受けるがいい!」


私は剣を構える間もなく。

それを見た。


「【武天鳳来】」


閃光のように煌めく刃が迫り、避ける間もなく私の意識を切り裂いた。耳鳴りが消え、世界が暗転する。

ああ、死ぬのは怖い……



「!!」

 ベッドから跳ね起きた。激しい胸の鼓動が止まらない。汗で背中がじっとりと濡れ、荒い呼吸を繰り返す。


「……夢?」


周囲を見渡すと、そこにはいつもの部屋があった。白い天井と薄明るい朝の光が、現実感を少しずつ取り戻させる。


「また、あの夢……」


これで何度目だろうか。あの戦場の光景、あの男の冷たい目、そして刃の感触――ただの悪夢ではない。

胸に残る違和感と、何かを予感させるその刃の感触が、どうしても消えない。



 ベッドから降りると、カーテンを引き開ける。朝日が部屋を優しく照らし、暖かさが手に伝わる。

ただの夢じゃない……これは、私が実際に体験したこと――

かつての異世界で、私は死んだ。そして、ここ日本で転生した。

私は、アルリューゼ・ヴィーニッカ。

冒険者だった私は、赤ん坊としてこの地で新たな人生を与えられたのだ――あの日を境にして。




「十時ね……確か必修の一限は、九時半からだっけ」


 スマホの画面には、無慈悲にも現在時刻「10:01」が表示されていた。


「……やっちゃったわね」

「はぁ……朝っぱらから気が重くなるわよ」


 そう呟きながら、身支度を整え、家を出た。

最寄りの駅から電車に飛び乗ると、いつもより遅い電車で大学に向かう。

急ぎ足でキャンパスへ駆け込んだときには、すでに講義室の扉が閉まっていた。気まずい思いでノックし、教員の視線を一身に受けながら教室の後方に滑り込む。



             ★



 大学が終わり、家に帰れば私がやる事はそうゲームだ。

余所行き服を脱ぎ捨てて ヘッドギアとアームギアを取り出す。

腕を通していき、ヘッドギアをかぶりゲームを起動する。

TVゲームなどの画面を見てコントローラーで操作するゲームは私が五歳のころには廃れていた。

現在主流となっているのは、完全没入型のVRゲームだ。

私が起動したのは、西洋のコロッセオを舞台にした、銃と剣を駆使して対戦する格闘ゲーム、「バトルアリーナ:クロスウェポン」通称バトクロ。



 昔で言う3D格闘ゲームだが、完全没入型のVRで繰り広げられるその世界は、実際に自分が闘技場で戦っているかのような臨場感を味わえる。

このゲームは、プレイヤーが多種多様な武器や戦闘スタイルを選び、競技場での1対1の決闘やチーム戦を行うものだ。

リアルな武器操作と戦術的な駆け引きが特徴で、私の大好きなゲームだ。いや、だった。


「……はぁ」


ログインの準備を終え、タイトル画面を見て深く長いため息が漏れた。

タイトル画面には、いつもとは違う通知が表示されていた。



『【重要】《「バトルアリーナ:クロスウェポン」は本日17:59をもってサービスを終了いたします。これまでのご愛顧、誠にありがとうございました。またゴールドの払い戻しについては公式Xをご確認ください》』


「……ついに今日ね」


 心のどこかで、まだ信じたくなかったのかもしれない。

バトクロは単なるゲームではなかった。ストレス発散にもなったし、何より戦える場所だった。私は、過去の自分を捨てきれている訳ではない。

剣を振るい、命を削り合い、戦いの中で生きてきた。

それが私の一つで、楽しいと思ってたのも事実。それを体験していたこのゲームを失ってしまう。

コンティニューを選択し意識を深く沈める。


《ダイブ開始》


一瞬の浮遊感のあと、視界が闘技場の中心へと切り替わった。そこには、いつも通りの景色が広がっていた。

大理石の床、吹き抜ける風、遠くで鳴る歓声のSE。だけど、そのどれもが、今日で終わる。


「アルヴィ!来ないかと思ったぜ!」


懐かしいフレンドの声。いつものロビーで、仲間たちが手を振っていた。

彼らもまた、最後を見届けるためにログインしてきたのだ。


「んな訳ないでしょ、ランキング一位の私が来ないで、誰がくるのよ」


「……でチュニドラは?」


「来てねえみたいだな、まあもう二か月もバトクロでは見かけてねえし、完全に引退したんだろうさ」


ログインしてきた仲間たちが次々に集まる中、どこかぽっかりと空いたような虚無感が胸に広がる。


あいつとは、どれだけ戦って、どれだけ煽り合って、どれだけ笑っただろうか。


「……待ってて」


私は連絡を取ることにした。

少し前までは毎晩のように通話していた、あのサーバーに。

アルヴィ:

《チュニドラ、今日ってバトクロ最終日なんだけど。来ないの?》

少しして、返信が返ってくる。

チュニドラ:

《パス……今GEOやってんだよ》


「……は?」


思わず声が漏れた。



その勢いのままに通話をかける。


「何だよアルヴィ……こちとら今素材集めで忙し」


「こないなら、どうなるか分かってる?」


「あー……はいはい分かった。すぐinするから」


チュニドラが渋々といった様子で承諾する。



 その後チュニドラも加わり1000人程度は集まっただろうか。

普段100人前後の同接で回っていたゲームだからか、随分とにぎやかに感じる。

最後の対戦をやっている人たち、ロビーでわちゃわちゃしている人たち。

でも最後の十分になると皆ロビーに集まり、最後の時間を待っていた。

そして……ついにその時が来た。

《この度『バトルアリーナ:クロスウェポン』はサービス終了いたしました。これまでのプレイ誠にありがとうございました。またゴールドの払い戻しについては公式Xをご確認ください》



「ついに終わっちゃたわね……」


「ま、発売から随分たって。同接なんて200人いったらいい方のゲーム。サ終も当然だろ」


「じゃあ、私は何すればいいのよ」


「私はバトクロより面白いゲーム見つけたからな。もうやってない」


「くっ……こいつ」


「何なら、アルヴィもやる?グランド・エイデン・オンライン略してGEO」


「GEO……?名前だけは聞いた事あるけどMMOだっけ」


正直今までMMORPGは避けてきた、前世と同じような世界観。

今までどこか遠慮してきたゲームジャンルだ。


「まあ、見て見ろよ」


 チュニドラはそう言ってGEOのリンクを送ってきた。

私はしばらくその画面を見つめたまま動けずにいた。

画面に映るGEOのタイトルロゴを見つめながら、私はそっとリンクをクリックした。


「ふむ……」


 GEOの公式サイトを開くと、美麗なファンタジーの世界が広がっていた。

広大なフィールド、荘厳な城塞、空を駆ける竜の姿。

剣と魔法が交錯する戦場。戦場……。

その言葉に、心のどこかがざわついた。

どことなく前世を、失った物を思い出してしまうから

だからMMORPGは避けていた。

でも、バトクロが終わってしまった今、何か何でもいい穴を埋めたい。


「やるか?」


少しだけ、ほんの少しだけ興味が湧いた。

この手のゲームには手を出さないつもりだった。

けれど、バトクロの代わりを探さなきゃいけないのも事実。


「やってあげるから、感謝しなさい」


私はダウンロードボタンをクリックした。


              ★


 その後チュニドラはGEOに戻り通話も切った。

ゲームのダウンロードバーがじわじわと進むのを眺めながら、私は椅子の背もたれに体を預けた。『グランド・エイデン・オンライン』通称GEO、もしくはグラエデ。売上本数は1000万本を超える買い切り大作MMORPG。


圧倒的な自由度と高難易度コンテンツが売りで、特に高レベル帯のコンテンツはやりごたえがあると評判だ。公式サイトには、多くのプレイヤーが活動しており、動画サイトにもプレイ動画が上げられている。


舞台は広大な大陸と浮遊島で構成される異世界「ルミナリア」。世界には無数の国家や都市が存在し、プレイヤーは「冒険者」として活動。かつて神々が創造し、放棄されたこの世界では、封印された遺物や強大な敵が眠っている。


プレイヤーはこの世界で自由に冒険し、戦い、歴史の謎を解き明かしていくとうのがメインストーリーらしい。

一通りウィキペディアを読み終わったところでダウンロードが終わり、ゲームを起動すると、美しいオープニングムービーが流れ始めた。


幻想的な世界が広がり、剣士や魔法使いが戦い、巨大なドラゴンが空を舞う。

ゲームとはいえ、圧倒的なグラフィックと演出に目を奪われる。


《『グランド・エイデン・オンライン』へようこそ。まず初めに貴方の分身となるアバターを決めて下さい》


システムボイスが響き、目の前にキャラクター作成の画面が現れた。


「キャラメイクね……」


 画面をタッチすると、目の前に大きな鏡が現れる。

確かにそれは自分の姿であった。どうやらここから細部を変更したり、一からアバターを作ることも可能なようだ。


「ふむ、せっかくだし、前世の私に似せてみようかな」


 冗談めかして呟いたものの、意外と悪くない考えだった。異世界にいた頃の私、アルリューゼ・ヴィーニッカ。彼女の姿でこの世界を戦ってみるのも一興かもしれない。薄赤髪に、紫紺の瞳。高身長で引き締まった体つき。……大して変わってないのね。


《キャラクターメイキングが終了しました。次に職業を選択して下さい》


「職業選択か……」


GEOの職業システムは、プレイヤーの戦闘スタイルを大きく左右する重要な要素だ。基本職から上級職への転職が可能で、組み合わせによって無限の戦略が生まれる……と公式HPには書いてあった。


画面には、現在選択可能な職業が並んでいた。


《戦士》《騎士》《魔法使い》

《弓使い》《盗賊》《格闘家》《召喚士》

 etc……


GEOには「複合職」や「ユニーク職」が存在するが、最初から選べるのは基本職のみ。職業によって変化するのはスキルツリーとステータス。職業によって、成長に補正がかかるとのことだ。


(どれを選ぶべきか……)


異世界での私は、剣士として戦っていた。

となれば、選択肢は「戦士」か「騎士」だろう。

(けど……単純な剣士では面白くないわね)

私は画面をスクロールさせ、説明文をじっくりと読む。

すると、一つの職業が目に留まった。


《挑戦者》――武器を用いた戦いだけでなく、体術やカウンターを駆使する独特なスタイルを持つ。

回避と攻撃を両立し、高い機動力で戦場を支配する近接戦闘のスペシャリスト。

「挑戦者って職業じゃないでしょ……」

説明文をざっと読んだだけだが、あまりにも尖った職業だった。

しかし、この職業が私の琴線に触れた。


「面白い、決めたわ」


私は迷わずに選択した。

《職業が選択されました》


《『グランド・エイデン・オンライン』へようこそ。それでは、貴方だけの冒険をお楽しみ下さい》




――――――――――――――――――――――――――――――

アルリューゼ・ヴィーニッカ

【性別】:女性

【年齢】:19歳

【背景】

 異世界での死を経て、この日本へと転生した。

かつてアルリューゼは異世界で冒険者として生き、その実力は一流だった。数々の戦場で名を馳せ、多くの冒険者たちから尊敬と名声を集めていた。

最後の戦場で彼女は、「【武天鳳来】」という絶技を受け、命を落とした。

だが、神は彼女をどうしたいのか記憶を持たせたまま。この日本で新たな生命を授けた。


 異世界の戦士としての記憶を保持したまま、彼女は日本という異なる文化や生活に適応することを余儀なくされた。

だが、それは19年という時間によって解決された。

彼女は幼いころからフルダイブ型VRゲームをプレイしすっかりゲーマーと成っておりその実力はセンスと経験に後押しされとても高いと言える。


【容姿】

瞳: 美しい紫色の瞳は異世界的な神秘性を帯びており、見る者に非現実的な感覚を抱かせる。

髪: 長く艶やかな黒髪が肩を覆う。プライベートではシンプルなロングヘアで控えめな印象を保っている。

スタイル: 高身長で引き締まった体型。

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