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シナモンロールの鉢合わせ 1

お疲れさまです!

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

50話目です。読んでくださる皆様のおかげで、続けられました。

改めてありがとうございます!


「あー目が痛い」


 目の前にいる、片割れが何度も瞬きを繰り返す。

 魔法薬を使った瞳は海の青に染められ、さらさらとした短い金髪を無造作にかき上げる。普段の印象とはまるで別人である。とはいえ、自分も先日の最悪のバカンス以来、茶のかかったブロンズに琥珀色の瞳だ。金髪と青い目は鬼門だった。


「アルジェン、文句を言うだけなら帰れ」

「いやだな、オーロ兄さん、護衛を追い出しちゃ駄目だよ」


 公務の息抜きに来ているのか、護衛にきているのか。聞かないふりをして、マルカに書類を渡す。


「マルカ、この商会の近年収支を」


 テアドア商会の会頭室、執務机の前で眼鏡を上げるとオーロこと、ヴィンセントは不貞腐れたように顔を上げた。


「叔父上がまだもどらない。書簡を見れば大方、職人の引き抜きと香辛料の買い付けも上手くいったようだが、国から出るのが厳しいらしい。夜会に間に合うといいが…」


 あれから、一月は経つのに出国の目途はついても、海が荒れ長期の船が出せないと聞く、最悪船を使うことを最短にし、十日はかかる陸路を使うしか戻る術がない。時間の許すかぎり、自分が立ち上げた商会に顔をだすことをしていたが、今は戻れない叔父の商会も監督をしているせいか、やることも多い。


「ハバル商会はわたくしがみましょう。義父となる方の商会です。しっかり守ってみせます」

 

 ふんす!とばかりにマルカが言うが、叔父の持っている商会は二つある。早々に海が治まるのを祈るばかりだ。


「その考え方いいな。よし、今日は俺がカフェを奢ってやろう」


 そう言ってアルジェンこと、シルヴァンがポットを持って立ち上がる。


「シナモンロールもだ。甘い物が食べたい」


 甘い物は嫌いじゃない。


「わかった。ここから出るなよ」

「忙しすぎて、トイレにもいけませんよ」


 マルカが困ったように笑った。

 

*  *  *


 三階建てのレンガ作りの建物を出る。一階は店舗、二階は倉庫と事務所、三階に会頭室と応接室になっている。叔父が治めているハバル領の者と兄上の文官を雇っていること、変装と偽名が功を奏してか、まだ兄上と俺の出自はばれていなかった。副会頭は叔父上だし、せいぜい、ハバル領主の遠縁が商会を起こしている程度の認識であった。

 事務所で頼めば、カフェくらいはいれてもらえるが、事務員であっても、仕事の手を止めるのが嫌な兄上は良しとせず、カフェをポットで買いに行く。

 すっかり馴染みとなった、パン屋でポットにカフェをいれてもらい、シナモンロールと焼き菓子をたっぷりと買い込み、馬車道を横切った時だった。


「やっと見つけたわよ!!」


 女の甲高い声がして、ひどく乱暴に馬車が止まった。


「なんだ?」


 自分とは関係がないと、足を速めた時だった、馬車から転がるように降りた女が、俺に向かって走ってくる。どう見ても知らない女だ、王都内では珍しい原色のドレスと派手な化粧。


「どうして、こんなところにいるのよ!」


 どうしても何も俺の国だ。

 爪を赤く染めた手が俺を掴もうとした時、すっと後ろに下がる。何の用かは知らないが、臨戦するなら距離をとる。


「人違いじゃないか?俺はあんたを知らないが」

「忘れたの?カルナラよ、アスパーニャで会ったでしょう!」


 アスパーニャ、カルナラ…ああ、兄上が迷惑を被った元凶の女だ。ここまで追いかけてきたのか、すげぇ根性。どうやら変装をした俺と、兄上を見間違えたらしい。情熱的なわりには、人違いをしている。


「行ったこともないな。どいてくれカフェが冷める」

「そんなはずがないわ、その顔も青い瞳も、髪…切ったの?綺麗だったのに」

「最初からこの長さだが、仕事中なんだ。これ以上留めるようなら、騎士団を呼ぶ」

「仕事?話をしましょう、アスパーニャで会ったわよね」


 埒が明かない。街回りの騎士団がいないか、見回したときだった。


「カルナラ、本当にご存じないみたいよ」


 止められた馬車から黒髪の女が降りてくる。値踏みをするような目で俺を見た。


「うちの妹がごめんなさいね。でも、本当に知らないの?妹はあなたに会いたくて、陸路を十日もかけてきたのよ」

「知らないと言っている」

「そう。カルナラ、この方は本当に知らなそうだわ。諦めて先に王城へご挨拶にいきましょう」

「だって、本当に似ているもの!声だって…声?」


 兄上は表に出さないほうが良いな。声でばれる。


「他人の空似だろ」


 相手が他国の王族だろうと、今の俺はアルジェン・ハバルだ。女を避けテアドア商会の前まで戻る。撒いてしまっても良かったが、その方が後々面倒がありそうで嫌だ。堂々と職場に戻るとしよう。


「ここで働いているの?」


 正気か?この女、付いてきた。


「いいかげんにしろ、本当に警備団を呼ぶぞ」

「ねぇ、名前教えなさい。お前の顔、気に入ったわ」


 前言撤回だ。正気じゃない。


「……」


 護衛なら、商会に害がありそうなヤツは潰してもいいよなぁ?シナモンロールを待ってる雛鳥たちのためにもさぁ。一歩踏み出して、まずはこの女の記憶を失くしてやろう。それから、値踏みを止めない黒髪女も、力の差を読めない女の護衛らしき男共も。


 一台の馬車がテアドア商会の前に止まる。シンプルだが車輪の音が滑らかだ、馬も手入れされている。

 御者席から、見知った男が降りた。俺の剣呑な空気を読んだのか目を眇めた。


「は…っ?」


 男はヘンリー・レイバー、アイシュアの従者だった。


「おいおい、店前で揉め事か?」


 使いで来たとは思えないが、周りを見回し俺に話かける。


「中に入れるのか?」

「っ…いらっしゃいませ。やってますよ」


 頷くと、俺を見ている。


「……」

「どうぞ、店員を呼びますか」

「いや、客は俺じゃない」


 そう言って、静かに扉を開けると、これも見知った侍女が出てくる。ああ、侍女の買い物に付き合ったのか…と思ったら、終わりじゃなかった。

 恭しく手を差し出す先に、ストロベリーブロンドを揺らし、きょろきょろと物珍そうに新緑の瞳を輝かせたマリアベルが降り立った。

 俺と目が合うとにこりと笑う。控えめに言っても可愛い。続いて降りたのは、銀髪のリュミエール嬢だった。一線を越えた美しさだ。

 兄上を呼びたいがこの女がいる…横目で伺うと、どうやら、二人に飲まれたかのように凝視をしていて動かない。


「先触れはいれてある」

「承りました。中へ」


 女を無視し、商会の扉を開ける。

 小さくお辞儀をし二人を招きいれた。店員に特別室へとだけ告げ、俺は三階に上がる。

 扉を派手に開けると、呆れたようにマルカが顔を上げた。兄上に至っては、書類から顔さえ上げなかった。情報が渋滞している。まずは、アスパーニャで兄上に絡んだ女に絡まれた話から、付き纏われそうになったところへ、マリアベルとリュミエール嬢が、テアドア商会に買い物に来たところまで。


「なんとまあ…呼び込みましたね。アルジェン様」


 マルカが半目になってぼそりと言う。


「俺じゃない、いや、兄上の顔が、同じか」

「とにかく、二人は特別室へ通したんだな。護衛はヘンリーがいるなら大丈夫だろうが、カルナラを入れないように言わなくては…しかし何を買いにきたんだ…」


 ノックの音がする。支配人だった、レイクツリー公爵令嬢が欲しい買い物内容のメモと、店前で騒ぐ女達への対応をどうするかを聞きにきたらしい。


「ミミーズリィの皮…ですか、なぜこんな物を…」

「アスパーニャに対しては、王立騎士団を呼んで対応をさせてくれ。適当なホテルにでも入れておくように。間違えても王城に居を取らせるな。レイクツリー公爵令嬢にはミミーズリィの皮の在庫を、好きなだけ出してやってくれ。ああ、粉末も付けてやるといい、あれは薬剤としても有用だ。エアリルが喜ぶ」


 支配人は兄付の文官なので、素性は知っている。頷くと洗練されたお辞儀をして部屋を出て行った。

 冷めたカフェを飲みながら、一息つく。


「顔、見に行きたい」

「駄目だ。今のお前は?」

「アルジェン・ハバル」


 兄上は神妙に頷くと、二つ目のシナモンロールに手を伸ばした。




せっかくの50話に、なぜこんな慌ただしい話に…w

でも、シルヴァが書けて嬉しい。

偽名のオーロは金でアルジェンは銀でした。

わかりやすっw

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