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マリアベルの邂逅 2

もう一本投稿、いけました!

 四阿で、メイドにサーブされたお茶とケーキをはさみリュミと向かいあう。

 お互いの付き人は少し離れたところに控えさせ、人払いも頼む。


「もう殿下たちへのご挨拶はお済みですか?」

「はい。両親とお兄様と早々に…リュミエール様も」

「ええ、着いてすぐに済ませましたわ」


 四阿からでも殿下たちのいらっしゃるテーブルがわかる位に賑わっている。ファンディスクだとそのテーブルに陣取っていたのは、私たちであった。

 牽制と、お為ごかしの化かし合いであろうその場にいなくて本当に良かった。

 私の視線に気がついたのか、リュミが視線をテーブルに向ける。


「よろしかったのですか?」

「参加する気はありませんでしたから」

「…わたくしも…です」


 何から話せば良いのか、いきなりカミングアウトは有りなのか、意を決して顔を上げると、その紫水晶のような瞳からポロポロと涙があふれている。


「リュミエール様!?」

 

 思わず前の席から、隣に移るとその肩を寄せた。

 リュミの方が背も高いし、身体も大きいから手は回りきらなかった。

 でも、寄り添いたかった。


「わたくし…本当に怖かったんです。気がついたら知らない場所、知らない名前。家族も…」

 

 差し出したハンカチでその涙を拭って差し上げると、リュミは小さく微笑んだ。


「リュミエール様はおいくつの時に、その…気がつかれたんですの?わたくしは五歳でしたわ」

「二歳です」


 二歳、それは怖かっただろう、赤ん坊の体に大人の意識。

 知らない人間の間に置かれた、動けない人任せの体と、紡げない言葉。

 

 ゲームの中でリュミエールの幼い頃は、エアリル様の体が弱かったために、両親にも屋敷内にも甘えられる人がいなくて、寂しい幼少期を過ごしたキャラだった。

 両親に褒めてもらいたいがために、勉強と淑女教育をひたすらに頑張っていたはず。そんな中で、姉弟仲は冷え切っていってしまうのだ。

 しかし、先ほど見たかぎりでは、リュミとエアリル様の仲はすこぶる良好に思える。 


「ごめんなさい。とてもホッとしてしまって、私の頭がおかしくなってしまったのではないかと…」 

「わかります!朝起きる度に、夢じゃないんだって!」

「そうです。現実なのだと…」


 知らない間に手を取り合っていた私たちは、お互いの状況を話し合う。私だけではなく、リュミも悪役令嬢を回避すべく、努力を続けていたのだ。


「リュミエールは感情を表に出さない無口な娘でしたので、両親にもたくさん話しかけて、自分の気持ちを伝えました。エアルが生まれてからは、とにかく可愛がりましたわ。元々はとても素直な子なので、よく懐いてくれて…わたくしは王都の幼年院には通わず、エアルの領地療養には、母の代わりにエアルに付き添って行ったり…マリアベル様は?」

「私は、とにかく癇癪持ちの我が儘娘だったから、良い子に!」

「まぁ…」

 

 くすくすと手を添えて微笑うリュミは、ヒロインになった時のリュミそのものだった。可愛い。

 私が『三人の悪役令嬢』で遊ぶ時のヒロインは必ずリュミだった。

 その事を話すと、リュミは照れながらも「わたくしはマリアベルでしたわ。そのご容姿も大好きでしたが、いつもまっすぐで攻略キャラに向かっていく姿が、とても愛らしかったのです」と伝えてくれた。

 どうしよう、ヒロインと両想いだよ…ヒロイン…。

 ハッとひとつの疑念に気がつく。リュミは可愛いから、もちろん、そうであったなら、邪魔はしないけど…確認をしておきたいことが一つだけあった。 


「…リュミエール様はヒロインになりたいですか…」


 リュミは首をぶんぶんと振った。


「全く、その気はありません!あ、マリアベル様は…」

「ないです。でも、ひとつだけ確認させて下さい」

「何ですか?」


 同担拒否はしないよ、でも、でもね。


「リュミエール様の推しは、アイシュアお兄様では…」


 目をまん丸にして、リュミエールが申し訳なさそうに言った。


「違います。あの…マリアベル様の推しはアイシュア様でしたの?とても仲が良さそうに見えましたけど…」

「ええ。お兄様に嫌われていると思った時に、記憶が戻りました」

「そうですか…魔力合致は…」

「同じ炎です。第二属性も同じ風でした」

「ああ…」

 

 今世は兄弟同士の結婚は認められる。尊い血を繋ぐためとされているが、近年、両親が同じ場合は良しとはされなくなった。魔力血統が近い方が危ないから。

 子はできにくく、魔力過多だったり加護を受けられない場合もそれなりに多い。


「残念でしたわね…せっかく…」


 同じ世界に生まれたのに。

 でも、アイシュアお兄様の尊さを繋げない方が悲しい。あんなに素敵な人はいない。

「良いのです。一番近くでアイシュアお兄様を推せます!それに初恋を捧げて、刺繍をしたポケットチーフを差し上げましたから、お兄様の一番のレディは今のところわたくしですわ!」


『初恋の刺繍』はゲームの中では、一人にしか贈れない親密度アップのキーアイテムである。

 親密度なんてもちろん見えないけど、贈りたかった。

 そっと、私の頭をリュミが撫でてくれる。


「アイシュア様は果報者です。わたくしが思っていたとおりのマリアベル様で嬉しい」


 ぐっと我慢していた何かが切れた。涙の決壊です。

 リュミエールは「あらあら」と言いながらも、ずっと撫でていてくれた。

 その後、迎えにきてくれたアイシュアお兄様とエアリル様が私の様子を見てびっくりしていたが「リュミエール様とお友達になれてう゛れしいのぉぉ」と再び泣いてしまった。

 

 それから、私たちはお互いの家を行き来するくらいに仲良くなった。目的が一緒と言うのも大きい。

 脱悪役令嬢!目指せ平穏無事な一生。

 コリンヌ・マイオニー、あなたが誰を選ぼうと…できれば、アイシュア兄様とエアリル様は止めてほしいけど、邪魔はしない。

 でも、私たちを巻き込むのは許さない。

 その辺は覚悟して。


「マリア、魔力が揺れていらしてよ」

 

 出会った時と変わらない、親友の美しい紫水晶のような瞳が私を見つめていた。


「あら、武者震いかしら?リュミもね」


 そう言って、私はにんまりと笑う。

 ふっと零れるように、私に微笑んだリュミの扇はもう震えていなかった。

読んでくださる方がいたようで、嬉しい。ありがとうございます。




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