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エピローグ

 軽い振動を受けながら電車のシートに腰掛けていた。大きな不安からまともに正面を見ることができずに俯いてしまう。このまま目的に着かなければいいという考えが頭を過る。

 それでも、電車は予定通りに駅に到着する。自動で開くドアをくぐりホームへとやってきた。利用する機会がなかったので、あまり昔を思い出さない。


 改札口を抜けて駅の表に出る。

 もう秋だというのに日差しが強くつい右手でひさしを作って、輝く太陽の光を遮る。

 はじめてこの地に立った時も、同じようなことを気がする。家から持ってきたキャリーバックを引きずって歩き出す。道のりはもうわかっているので、今は地図ではなく写真を握っている。


 駅前の商店街は半年前と変わらずシャッターの下りた店ばかりだ。そう思ったが、見知らぬ店が新たに開店していた。何の店かはあまり興味がないのでスルーした。


 商店街を抜けるとすぐに辺りは住宅街になっていた。この辺りは見覚えがあって、相変わらずといった感じだった。

 街路樹として植えられている桜の木は、葉がすべて落ちてしまってどこどなく寂しい気分になる。あの頃、希望を抱いて歩いていた時は随分と変わってしまった。


 軽い傾斜を上り始めて足が止まった。

 ここまで来て意気地のない事だと胸の内で笑ってしまう。

 もう少し歩けば木造の塀が見えてくるはずだ。そこは目的地であり、再び暮らす事になるはずの寮だった。だけど、怖くて足が竦んでしまっていた。


【どうした? 進まないのか?】


 脳内に直接語りかける声が聞こえる。その声は耳を塞ごうが、遮ることができない。今までもたまに聞こえてきたがずっと無視している。

 私が何もできないでいると、遠くから喋り声が聞こえてきた。


「ここは私が先頭に立つべきかと」

「何を抜け駆けしてるのよ。ここは私って決まっているわ」

「あ? お前らはもっと後ろでいいだろ。別に友達でもねーし」

「何を言うのですか! 唯様といえば、私。私といえば、唯様。と相場は決まっています」

「なっ! 私が抜けてるわ」

「別に全員一列に並べはいいじゃないっスか」

「おいおい、友達がいのない事言うんじゃねーよ」

「みんな分かってないわね。なんと言っても私は唯ちゃんの初めての友達なんだから先頭に決まってる」

「順番なんて関係ありませぬ」

「初めて会ったのは、私たちだわ」


 聞いたことのある声が聞こえてくる。声が大きくてこんなところまで響いてくる。その声が私を臆病にさせる。

 本当にこのまま先に進んでいいのか、疑問が渦巻いてきた。

『この中に混ざってもいいの?』『また同じことが起こったら?』と決意が鈍ってくる。


「それにしても、いい天気ねー。絶好のお迎え日和かしらー」

「早く来ないですかね。お祝いのためにビールを冷やしてあるんですよ」

「……また、お酒……? もう辞めたほうが……」

「ふふふ、大丈夫よー。今日は私も一緒に飲むからねー」

「そうだな。たまには酒もいいものだ」

「で、なんで調停者さんがここにいるんですか? 貴方は全然役に立たなかったじゃないですか」

「私に役が回ってこないというのはいいことさ」

「……言い訳が……苦しい……」


 楽し気な声が増えていく。本当にこの中に入っていく気なのか、と自問する。どの面を下げてみんなに会えというのだろうか。今この瞬間、みんなが楽しそうなら、それだけ知れてよかったじゃないか。


 ちらりと手に握った写真を覗く。

 みんなの笑顔が写っていた。スペースを埋めて欲しいと訴えかけるその写真が胸に刺さる。このスペースを埋めるために自分はここにいるのではないか。


 右足を一歩踏み出す。すると、自然と左足が前に出る。歩き出した足は徐々に速くなっていく。どんな後悔があったとしても、もう足を止められない。走り出すとバックが邪魔だったので放り出す。


 斜面を駆け上がると、徐々にみんなの笑顔が見えてくる。自然と涙が溢れてきて、視界が歪んでみんなの顔が見えなくなった。

 見えなくてもよかった。みんなが作ってくれたスペースに飛び込むだけだから。


『ようこそ! ジンガイ荘へ!』


 待ちわびていた声が私を迎えてくれた。

ジンガイ荘、これにて完結です。

ご愛読ありがとうございました。


現実のカレンダーと同期した話を定期的に作っていきたかったのですが、諦めました。(視聴数的に)

いつか人気シリーズを作って実現させたいですね。

次回作も製作中なのでよろしくお願いします。

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