見えない敵
「なんだ?これ・・・」
治達の前に立ちはだかる化け物。なんの目的でこれは現れたのか?
「こ、こりゃ・・・・なんだ?いったい。」
思わず声にだすものの・・・・さっぱり判らない。
階堂もあまりの事に声も出せずにいたが、
「どうします?」
どうします?の意味が判らなかった治は聞き返す。
「どうしますって?」
「干渉するかしないか?という意味です。」
極めて冷静に戻った階堂の言葉だった。
「助けないの?!!」
当たり前のように治は聞き返す。階堂は・・・・それでも表情を変えずに言った。
「これが組織からの攻撃かどうかは判り兼ねます・・・・・ならば静観する。という選択もありますよ。無事に駆除できるかどうかも危ういですし・・・」
治にはどうしても階堂の提案が適切とは思えなかった。確かに一理ある。だが・・・
「俺は・・・Allendsとしか戦わない訳じゃない。現に、これだけ大量に人が死んでる・・・・助けなきゃ!こういう時にこそ能力を使わないなら、人類の救世主になるって言う・・・・自分に嘘をついた事になる気がする。」
「治さんと同意見です。助けましょう?!」
香奈が同意する。しかし・・・・階堂はまだ説得する。
「・・・・お二人が仰ってることは十分理解出来ますし・・・基本的には同意します。が・・・・しかし、この怪物が組織が我々の能力を完全に掴む為に送りこんだ刺客ではない、という保証はありませんよ?手のうちは出来るだけ隠せていた方が有利です。」
「それでも・・・・それでもだ!俺は目の前で殺されそうな人を、目的の為だから、黙って死んでくれ!なんて、見殺しには出来ない!!」
そこまで聞いて、やがて階堂は仕方ない!という風に苦笑する。
「・・・・止めても無駄でしたか・・・では、まいりましょう。」
最初に香奈が離れた位置から滑空を始める。上空を2〜3回まわってからカマイタチを放つ。
”スパッ”
綺麗に半分に分かれてずり落ちた。しかし、念の為にと、香奈がその後放ったカマイタチの連発で、バラバラになっていった化け物は・・・・事態の悪化を告げた。
30秒程して、バラバラになった緑色の肉片は、それぞれが、もとの形に戻っていき、そして先ほどとは違い、停止状態ではなく、三人が加速している状態で・・・・またもや人間を食べ始めた。(変わりようといえば、トドのサイズがオットセイのサイズになったぐらい。)
「・・・・これ・・・は?!!」
「・・・どうやら、死なないようですね・・・切っても。しかも加速状態になっています。このままでは・・・実際には何秒かで全部喰いつくしてしまうでしょう・・・」
上空で香奈が叫ぶ。
「どうするの!!?まだ切り刻んでみる?!!」
慌てて止める治である。
「だめだ!!・・・・一回戻ってきて!」
「どうするの?切ってもだめじゃあ・・・・あたしの能力じゃどうしようも出来ない。」
戻った香奈は苛立ちを隠さずにそういうものの・・・・治にもどうしたらいいのか、皆目見当がつかない。一人冷静に傍観していた階堂も・・・
「どうやら我々では駆除できないようですね・・・一旦引きますか?」
「なに言ってる!!このまま?こいつらを野放しにしたら、どんな事になるか・・・絶対駄目だ!なんとしても駆除して帰らないと・・・」
そうはいいながらも、解決の糸口すらみつからない。治はタクシー乗り場の案内板を見て、それを右手で持ち上げる。底にコンクリが付いているので武器として使ってみようと思う。
ゆっくりと緑色のオットセイに近づき観察する。
やはり、普段見慣れている生物とは似ても似つかない、腕らしきものと口らしきもの、それ以外に器官は見当たらず、声すら発していない。
とりあえず、一体を振りかぶった案内板で思いっきり潰してみた。
”パシャン”と水風船が弾けるような音と共に、緑色の水溜まりが出来上がる。
・・・・・・・・が・・・・30秒もするとむくむくと再生して、またもやオットセイになって人間に食らいついて行く・・・・・
「くそ!時間稼ぎにもならない。」
その間にも、惨劇は続いて行く。すでに20〜30人は喰われているのでないだろうか?
その時、いきなり一体の緑オットセイが”ボウッ”と音をたてて燃え上がった。
”ジュジューッ”火に包まれながら、溶けて行った。後にはなにも残っていない。
次々にオットセイが燃え上がっていく。その様をみても、とても生物には見えなかった。苦しむこともなく・・・・ただ燃えて溶けていく。
「炎使い・・・・・」
そう治が口にした時、階堂はすでに高倉の姿を捕えていた。
「向こう側に・・・・います。」
テレビ局の入口広場の、ほぼ真ん中に例の化け物達はかたまっていたが・・・そこを挟んで反対側に、高倉は両手を翳して立っていた。
次々と、高倉は化け物を燃やしつくしていく。まるで新聞紙でも燃やすように・・・
『どういう事だ?あの化け物は組織が放ったものじゃないのか?』
「どういうつもりだ!!」
全ての駆除が終わった高倉が、治達三人の前にやってきていきなり言い放つ。
三人はいったい何の話か判らずに黙って立っている。治が質問する。
「お前こそどういうつもりだ?自分達が放した化け物を自ら駆除するなんて・・・」
「貴様・・・何を言っている。この化け物をAllendsが放ったとでも言いたげだが?」
憮然とした顔でそう聞き返す・・・・・高倉はさも当然かのようにたたみかける。
「一人ずつ寄ってたかって組織の人間を襲う、お前たちのやりそうな手口だが?誰の能力だ!大方、無能力を気取る、イレギュラーのお前の仕業だろうと・・・俺は思ったんだがな。」
「ふざけるな!!さっきの騒ぎで何人の犠牲者が出たと思ってるんだ!!人間も含めて救済するっていう俺達がなんでこんな事しなくちゃならない!!」
「・・・・本当に、知らないのか?」
「当たり前だ!!お前たちこそ、統治者と末端で党勢が取れてないみたいじゃないか!さっさと、統治者のところにいって張本人を探しだすんだな!!」
「・・・ふふ、ずいぶんと威勢がいいようだな。面白い、もし今回の騒ぎがお前たの誰かだったら・・・そいつから仕留めてやる。覚悟しておけ。」
そう言った高倉は振り向きざまに右手を思いっきり振り上げた。
”ボウッボボウッ!!!!”
化け物が食い散らかした遺体の残骸を一気に燃えつくさんと大きな炎が上がった。
三人は高倉が去ったあと、それぞれが合掌して頭を下げ、その場を後にした。
そして、解散した後、治は今回の事をアースに聞いてみる。
『アース?聞こえるか?』
『聞こえている。』
『さっそくだけど・・・』
『あの・・・物体の事だな。』
『そうだ!あれは・・・誰かの能力によるものなのか?』
『あんなものを生み出す事が出来るのは・・・・我々か・・・・統治者だけだ。』
『我々?・・・・お前たち神も干渉して来てるって事なのか?』
『・・・・もう忘れたのか・・・・先に協定を破ったのは・・・・こちらだ。』
たしかにそうだ。アースを争いに巻き込んでしまっている。神々の協定を破らせてしまったのは自分なのかもしれない・・・・
『お前は・・・・また勘違いをしているようだな。』
『な、なにが勘違いなんだ?』
『お前が我々を巻き込んだんではない。我々がお前たちを巻き込んだのだ!いらぬ心配はするな!!』
『そうかもしれないけど・・・』
『とにかく、こちらはこちらで調べてみる。お前たちはあの物体をどうすれば倒す事が出来るか・・・・考えてみろ。』
『・・・・・また・・・出てくるって事か?』
『神にせよ、統治者にせよ・・・・あの程度の物なら無限に生み出せる筈だ。』
聞きたくなかった事実を突き付けられ・・・・思い気持ちで家路につく治であった。
化け物は組織と関係がないのか?
だとすると・・・・新たなる敵がやってくるのだろうか?
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