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10/10

10 未来の子ども達に大いなる夢を!

再び俺視点に戻ります

 な、なんだ!?

 突如魔王が7色に輝きだしたぞ?


『ククク。アハハハ』


 魔王が肩で笑っている。

 何がおかしいというのだ?

 不思議と声が重なりあって聞こえるような気がする。



『モブジジイよ! もはや貴様に勝ち目などもはや皆無』


「何を根拠にそのようなことが断言できる?」


『今、魔王と死神が融合した。ラスボスと運営陣が力を合わせたんだ。物語の隅にちょこんと登場するモブキャラのキサマなど、軽く瞬殺できるわ』


「なんだと! なぜ、そこまでして俺を葬ろうとするのだ!」


『勇者の活躍の場がなくなるからだ! お前は勇者覚醒の材料として、序盤でササっと殺されてしまわなければ物語が面白くならないからな! 貴様もそう思うだろう? 折角このこのゲームを購入してワクワクしながらプレイしている良い子のみんなは、突如沸いて出て来たモブキャラがどんどん強くなってラスボスまで倒したらゲームが全然面白くないだろ?』


「知るか! 人を召喚しておいて何を勝手なことをほざく!」


『さぁ時間だ! 盛り上げ役として、その生涯を閉じよ! まぁまぁ面白かったぞ、モブジジィ。運営特殊魔法、データフォーマットを試行する。これよりお前のパラメータはすべて1になる』




 くそう。

 


 俺に残された時間は、奴が書き換えるその一瞬のみ。

 魔王と死神が動く前に仕留める事だ。

 

 魔王の目は紫に輝く。

 それよりも早くクイックタイムを詠唱し、風の刃のごとく魔王の心臓へ向かって突撃した。


 野郎が瞬きするよりも速く。

 野郎が息をするよりもしたたかに。

 野郎の鼓動がひとつなるよりも――


 だが。

 それは無限の時に感じた。


 俺たちは心の中で熱い激論を交わしていた。

 言葉にすら変える時間などない、まさにその刹那。

 それは、目と目で、心と心で話し合っていたかのようだった。

 空気抵抗がデタラメに痛ぇ。

 全身が熱い。

 解けるように感覚。


 それと同時に起こった。

 光を速さすら超えた俺の脳髄に、奴らの心がシンクロしてくる。



「魔王と死神よ。なぜそこまでモブの消滅に固執するのだ!?」


『それこそ愚問よ。

 理由などシンプル。良い子のみんなに素晴らしい物語を届けるためだ。

 それが我々、ゲーム運営とラスボスの宿命。

 ラスボスは良い子のみんなにロマンを提供するために、悪に徹し、最後は死す。

 運営もそうだ。

 良い子のみんなに楽しさを提供するために、日々徹夜を繰り返し、最後は死ぬのだ!』


「なるほど……。お前達は死まで覚悟して、夢を届けている……そう言いたいのか……」


『そうだ!

 それをキサマは邪魔をしている。

 だから許せないのだ。

 キサマに勝利を譲る訳にいかぬ。

 命に代えても、抹消してくれるわ!』

 

「ならば、お前たちは間違っている!」


『な、なんだと!?』


「ふ。ふふふ。あははは」

 

『な、何がおかしい、モブジジィ!』

 

「ふふふ。これが笑わずにはいられるか! お前たちは夢を届ける、素晴らしい物語をと言っているが、その言葉はあまりにも軽すぎる。中身のある重たいセリフにまったく聞こえてこない。何故ならお前らは、本当は単に売上が欲しいだけだからだ。図星だろ?」


『キ、キサマ。

 我々を侮辱する気か!

 ジジィが一人で活躍して、良い子のみんなが楽しのか?

 良い子のみんなが応援している勇者をほっぽり出して、脇役のジジィが一人無双して嬉しいのか? お前の存在そのものが間違っているんだよ!』



「違う! 間違っているのはお前達だ。

 確かにそう……、俺は死ぬ運命にあった。

 だが俺は自らの知恵と揺るぎない信念、そして絶え間ない努力をもって運命を切り開き、今、死という絶望的な未来に立ち向かっている。それに引き換えお前たちは、決められたレールを疑いもせず、ただ盲進しているだけ。そのような者達に、未来ある子どもたちに夢を語る資格など皆無だ!」



『待てぃ!

 キサマ! 良いのか!

 もしキサマが勝利したら、このゲームはクソゲに成り下がってしまうんだぞ?

 それでも良いのか!』


「歴史の善悪を決めるのは、時代の英雄ではない。

 後世の人々だ。

 そしてクソゲかどうかを決めるのは、今を生きる俺達キャラクターではない。

 エンディングまで到達したプレーヤーが決めればよいこと!

 俺は俺の信念を曲げるつもりなどない!」



『お、おい。待て! ネットで酷評されるぞ!

 折角6850円も払って買ったのに、モブキャラが勝手に暴走を始めてラスボスを倒して嫁まで奪ったからまったくゲームを楽しめませんでしたって。

 なぜ分からぬのだ! この、バカ野郎おおおおおぉぉぉ!』

 


 その叫び声と同時に、魔王の胴体中心にでかい風穴が空いた。

 そのまま霧となって消滅した。



 俺は倒したのだ。

 ラスボス、そして運営陣を。


 


 心地よい風が、俺の白い長髪を撫でる。



「し、師匠……。よくぞご無事で。ラスボスは死にましたね。これで僕たちの冒険は終わりでしょうか?」


「勇者よ。お前の冒険は、今、終わった。だが俺の冒険はまだ始まったばかりだ」


 

 俺は勇者を置き去りにして、新たな旅へと出発した。


 まだこの物語は続く。

 

 勇者が将来出会い、そして恋に落ちていく美女たちを先にゲットして嫁にしていくというまだ残されたミッションがあるのだ。


 俺はマントをひるがえし、過酷で波乱な未来へと向かって、大いなる大地を歩き出した。



 この物語ゲームがクソゲかどうかは分からない。

 例えモブと言われようが全力で生き抜くだけだ。

 クソゲか否か。

 それは後世の人々(プレーヤー)勝手に語り告げば良いことだから。

 


 俺の願いはただひとつ。

 未来の子ども達に大いなる夢を……



 完

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