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風雲の場所  作者: yunika
第二章
75/79

二十六.翼を持つ者

スイレンの上空は風が強い。

気流の流れに乗ったシルクスは

じろりとワットを睨んでいた。


「なぜ二人も乗っているんだ」


ハクアは人見知りなシルクスを宥める。


「だってあの状況じゃ乗るしかなかったし。

 ところでラウルスは?」


「腹が減ったと言って帰った」



シルクスは腑抜けめ、と言い舌打ちをした。

ラウルスの腑抜け癖はもはや恋愛云々では

ないのではないかとハクアは苦笑し、

大猫のデコデコした角に視線を移した。


「それ、どうしてそんなことに?」


シルクスは少しばかりはにかみ


「これには深い理由がある」


と仕方なさそうに話し出した。




―――――数十分前。


「これでシルクス達の仲間を

 探すことが出来るでしょう。

 試しに、ほら」


教授は磁性菌イルミナージュスティックと

金属有機体を掛け合わせたものを応用し

角獣を探すコンパスを見事に作り上げた。


金色の丸い縁取りに嵌められている

透明のガラス球。その球体の中には

不思議な液体が満ちているらしく

透明の水の中に一筋の銀色の筋が

うねうねと揺らめいていた。


それはときおりピン、と針金の様に

直線状になり、シルクスの角へと

向かっていく。その様子を見て、


「まっすぐシルクスを指しているね」


とラウルス。シルクスは当然、と


「コンパスから一番近く

 一番強い者が私だからな」


と誇らしげににんまりとした。

だが、それでは角を失い力を弱らせている

トカゲの角獣を探すことが出来ない。

ヴィヴィアンは、困りましたね、と思案し


「……じゃあこれでどうでしょうか?」


と、シルクスの両側の角にそれぞれ

どこから持ってきたのかパーティー用の

三角帽子を被せてみた。


「……だめだわ、まだ反応してる。

 絶縁体の方が良さそうね」


そう言って教授はビニールのテープで

角をぐるぐると巻き始めた。


「あ、針が動いた。

 でも次は僕を指しているよ」


とラウルスが言うとヴィヴィアンは


「じゃあ貴方の角にもこのテープを

 巻いていて頂戴。だけどなんだか……。

 ちょっとお洒落に欠けるわね。

 少しの間、待っていてくれるかしら」


と言うなり、瞬く間に女子生徒達を集め

とにかくデコってあげてと指示を飛ばした。


「きゃーかわいいー!」


「白猫ちゃんにはピンクが似合うわよ!」


「ムササビちゃんには紫ね!」


やる気満々、デコる気満々の生徒達。

彼女らはそれぞれ手にリボンやら

ラインストーン、接着剤を持参し

職人気質に意気込み始めた。


こうしてシルクス達の角は、凝りに凝って

きらきらと飾られたのであった。そして

一部始終を聞いたハクアは神妙な顔に。


「それは……、ご苦労様。

 だけどさっきから僕を指してるんだけど」


だが当のシルクスは意外にも御機嫌そうに

角をふりふりと振り回していた。


「そりゃお主の体の中にも金属有機体は

 あるからな。だが磁力の強さでいうと

 我らの方が段違いに強い。


 角を持つ仲間がいれば自然とそちらに

 向くだろうから、適当に飛んでみて

 反応した方に飛んでみるとしよう」


そう言っている間に、銀色の筋が

一方向へと一直線に伸びていった。


「あっ、針になったよ。

 南西に向かって伸びているね」


「南西? いやな予感がする」


思い当る節でもあるのか、シルクスは

苦い顔をしながらも飛んで行った。

そして、大猫の予感は的中した。


それが指す方向は南西の街、ロゼナ。

そして段々と向きを変え、今は海辺で

はしゃぐ小さな女の子を指している。

まさしく、赤毛のフォルカであった。


シルクスは上空からそれを眺めたまま、

背でぽかんとするハクアに告げた。


「あの娘が先刻話した子どもだ。この距離

 でも金属有機体の匂いがぷんぷんする。


 しかも誰かに匿われているような様子。

 その上あの毛色、何かを思い出す上

 ビャッコ殿は事情を知っているようだ」


 「父さんが……?

  そうなんだ……」


ハクアはその少女を見つめた。

海の反射光で表情はよく見えなかったが

確かに少女もふと、こちらを見上げた。


―――――お兄ちゃん、それ、いいな。


背筋に寒気が走った。

ハクアはぶるりと身震いし

少女から視線を逸らす。


「ここじゃない。ここじゃないよ。

 探しているのは角があるトカゲだ。

 シルクス。もっと東に移動してみよう」


ハクアは逃げるようにその場を後にした。




―――――その頃、スイレンのとある部屋では。


「ちょっと~、誰かいてる~?」


シュウがまたしても通気口を巧みに移動し

とある部屋にやってきていた。


「俺の消しゴム、見当たらへんのやけど

どこかに転がってないかなーって」


「わかってる、わかってんねんけど

探してるもんがほかにもあるねん」


誰もいないはずの部屋でシュウの

なまり言葉がむなしく響く。

シュウは棚に手をかけると、がさごそと

何かを漁りだした。


「やーっぱりな、ここにあったか。

それに……、このままじゃあかん。

よし、行くか」


シュウの後で、黒い影がこくりと頷いた。




東へ西へ、北へ南へと右往左往していた

ハクア達であったが.手のひらにある

球体の指針がようやく強く直線になり

ハクアはシルクスへ方向転換を指示した。


「ハクア、こっちは海だよ?」


ワットが不安げに言う。

シルクスも訝っている。

ハクアは平然としていた。


「海中だったらどうする気だ」


「水中モードとか」


「そんなものはない」


とにかく行ってみよう、とラニッジ鉱山の

南側かつロゼナの南東側に位置する海上を

何かないかとうろうろするうち、ハクアは

太陽の光に反射して煌めく何かを見つけた。


「あそこに、岩が突き出ているだろ?

 その横の海面から、何か突き出ているよ」


「ほんとだ。もう少し近づいてみよう」


そこにはシルクスやラウルスと同じく

銀の角と思わしき鋭利な物体。だが

その横にはさらに鋭く長く伸びた

白銀色の物。角ではない。

だが、その形状にハクアは見覚えがあった。


「刀の柄が突き刺さっているのか……?」


それを見たシルクスは目をかっと見開き

その生物の名を叫んだ。


「グリップス!」


グリップスと呼ばれたその物体はぴくりと

角を震わせると岩をずるずると降り、

海面へと潜り始めてしまう。


姿を隠す気でいるグリップすにハクアも

呼びかけようとした、そのとき。


「今だ、刀を奪え!」


突然、誰も意図しない声が響いた。

ハクアはゆっくりと後ろを振り返る。


声の主はワットであった。

ハクアが首を傾げていると、突如。


最初は空に浮かぶ黒雲のような

塊が彼の目に飛び込んできた。


だがその正体はカラスの大群の様で

だが鳥ではなく、紛れなく人間であった。


それも、背から翼が生えた、人間。


「翼人!?」


世間を騒がすサルバト一味の兵士達は

そう呼ばれていた。ハクアは初めて

目にするその姿に驚愕した。


だが、刀を奪わんとし岩の上を旋回する

彼らの狙いに気付くなり


「ワット!? どういうことだ!?」


と怒りを滲ませた。だがワットは

シルクスからするりと飛び降りると

その黒い影に抱えられ、不敵に笑った。


「俺は滝の一族、サルバト一派の忍びの者。

 どこかの誰かと違ってべらべら秘密を

 話すような隠密ではない。ずっとお前を

 見張っていた。授業のときも、寮でも!


 おかげで念願だった刀が手に入りそうだ。

 これが存在すると危険だからな。


 なんせサルバト遺伝子と金属有機体の

 遺伝子結合による進化型の精鋭衆、

 『翼人』。彼らは屈強な肉体に翼を

 手に入れたんだ。普通の刀じゃ斬れない、

 とてつもなく屈強な体をな……!」


ハクアはワットをぎり、と睨みつける。


「どいつもこいつもおしゃべりか。


 その話は既に筒抜け情報だ。つまり

 この刀がお前達の弱点ってことだろ」


「ち、ち、ちがうからな!」


どうやらそうらしかった。

ヴィヴィアンが誰か研究を覗こうと

している者がいる、と言っていたのに。

ハクアはすっかり油断していたことを

後悔し、また武器をひとつも持たずに

この場に来たことに焦りを感じつつ

岩場をちらりと見た。


件のグリップス、という刀を所持する

生物は今や完全に水中に身を潜めていた。

だがその周りを翼を持ったサルバト一派の

兵士達が囲み、引きずり出そうとしている。


「……シルクス、蹴散らそう」


大猫はニヤリと牙を見せつける。


「言われなくても」


大猫は鳴き声をあげると空中で急旋回し

勢いを付けて降下すると岩場に群がる

サルバト兵、翼人を角で凪ぎ払った。

ハクアは岩場付近に向かって叫ぶ。


「グリップス、刀を俺に貸して!

 こいつらをやっつけるのが先だ!」


彼の声は果たして届いたのだろうか。

だがグリップスがいるはずの海には

姿を見せる所か何の変化も起きない。


その様子を見た翼人達はふん、と笑い

狙いの矛先をハクア達に変えた。


「刀が手に入ったら、その大猫の

 角ももらって帰ろう」


ワットがにやりと笑った。七、八人もの

翼人が羽音を立てハクア達に向かって

まっしぐらに飛んで来る。


万事休す、と思ったそのとき。

突如、ハクアは何物かの気配を感じた。


―――――何か来る!


「ああああああああああ!」


少し離れた空から、叫び声が聞こえてきた。

それは段々と大きくなり、近づいてくる―――。



「ほら、そこに岩が出てるやろ!

 そこに止まれ! 蝉のように!」



聞き馴れた話し方と、声。そして。


―――――べちん!


岩に何かが衝突した。


「痛いよう~」

「ラウルス! シュウ、ジーン!」


岩に衝突したラウルスの背に

見慣れた仲間達が乗っていた、

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