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風雲の場所  作者: yunika
第二章
68/79

十九.銀の髪

「お前一人の力では根は引き抜けないぞ」


せせらぎの清らかな星夜の泉。

ぼんやりと水に浮かぶ銀の角と立派な幹。


そこに立ち入り、水音を立て、幹を

どうにか持ち上げようとする一人の女。


やれやれ、待っていたよ、とばかりに

ニレは幹をトージャに向けて捩らせた。


ローズはニレを逃がしてやろうとしていた

のだ。二人になったところでこの立派な木は

動かせぬ。そもそも根を引っこ抜いた所で

木であるニレは自分の力でで動けるのか。


わかっていた。わかっていたが気付けば

トージャもローズと同じく泉に入り

考えるよりも、理屈で答えを出すよりも

ニレを動かそうと必死になっていた。


「奴ら、この子が狙いなんでしょ」


ローズの頬からは幾筋もの涙が流れる。

それはやがて玉となり泉にぽたりと

落ちた。ニレは首を傾げ、悲しそうな

二人を交互に見た。

まるでどうしたのかと聞いているらしい。


「あんたを狙って盗賊が村に来るんだ。

 あんた、珍しいから皆が欲しがるんだ。

 ここにいちゃ危ないんだよ」


ローズは必死で訴えたがニレの様子は

変わらない。彼女の言葉に、なんだか

機嫌良さそうに葉をふりふりと揺らすと


―――――これでも食べて元気出して。


はっきりと、二人の脳裏に語りかけた。


二人がはっとし、ニレを見上げた。

木はぶるりと震え上がり力を幹から

枝先へと絞り出すように、ひたすら

エネルギーを送り始めた。


二人が何事か、と呆気に取られている

内に、やがてその枝先にぽこりと丸い

実が実った。その実を、ニレは枝を

動かしもぎとり、二人の前に差し出した。


桃の様な、丸くて白い果実。

仄かに甘酸っぱいにおいもしていた。


ローズはそれを手に取り、トージャと

ニレを交互に見た。そして頷くニレを

横目に一口かじり、トージャに差し出すと

彼も同様に実を食べた。


匂いの割に、味はあまりしなかった。

だが二人を励まそうとしてくれたニレの

気持ちが嬉しく、そんな事は言わなかった。


段々と情けないやら、嬉しいやらで様々な

想いが込み上げ、二人はただ泣き泉の中で

励ますように抱き合っていた。


その様子を影から見ている人物がいた。

トージャの婚約者、アゲハである。彼女は

ふん、と鼻で笑うと森へと消えていった。




このまま時間が止まればいいのに――――。


そう思っていたのはどちらであろうか。

それとも双方か。だが悲しみに暮れて

いたはずの二人は突如腕を離し、

顔を見合わせた。


「何か変じゃない?」

「君はいつも変だ」


途端にぽかっと頭をはたく音が響く。

ニレは嬉しそうに葉を揺らしている。


「! トージャ、髪が!」


この村は赤毛の者が多い。赤毛は村の

出身者の証でもあったし彼にとり自慢の

髪でもあった。だがそんな彼の髪は今や

白に近い、闇夜に輝く銀髪に変わろうと

していたのだ。


そしてローズも同様。彼女も髪も茶から

銀にと変わりつつある。そして体内に

湧き出てくる、説明の仕様のない力の

みなぎり。


―――――ニレの実が与えた力だ。

この力で守れということか―――――。


村から火の手が上がり始めた。

ニレは、行きなよ、という風に幹を動かす。


どうなるか分からない、分からないが。

二人は頷き合い、泉を出ると村へと向かった。




「そして、なんと二人でその盗賊の殆どを

 信じられない速さと力で蹴散らしたそうだ」


すっかり語り部が板についてきたらしい

ビャッコは、神妙な顔付きをし聴き手の

反応を伺った。いつのまにやら応接用の

ソファに座ったり壁にもたれたりと其々に

長話に備えた態勢を整えている。


「銀色の髪の二人の伝説はアキニス様に

 よって我らニレ家に伝わったのだ。

 

 対してサルバト家ではトージャ様の

 活躍は伝わるものの、ローズの存在は

 なかったものとされている。


「ええ、何でだよ父さん?」

「納得が行かないわ」


と、眉根を潜めるハクアとカズラ。

自身達の祖先である彼女の活躍は正しく

伝えて欲しいと言わんばかりだった。

対してリオネルは至って冷静に


「私は同じ力を持っても剣では戦いません。

 他の武器で戦いますね」


ときっぱり告げた。ビャッコは面白い、と

ばかりに興味津々で尋ねる。


「ほう? 何で戦う気だ」

「悪口とか」

「お、おう……」


冷や汗なビャッコにカズラは我関せずで


「トージャはサルバトの娘と結婚

 したのよね? 村長の跡継ぎなのに

 どうして婿養子になったのかしら」


と話を引戻した。


「ここからは、彼の不幸の始まりだった。

 二人が口にし、手に入れた力は金属有機体

 の力そのもの。現サルバト達、滝の一族が

 欲してやまなかった力。


 我々が決して打ち明けることのなかった

 秘密が既に紐解かれ出している。

 中にはピンと来た者もいるようだな」


そう言い、ビャッコはソファに座る女性陣に

向け意味ありげな笑みを投げ掛けたのだった。

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