十七.銀の卵
その銀色はまず山自身を照らし、次に海と空。
そして届く限りの範囲すべてを無音の静かな
銀の世界へと一瞬にして染め上げた。
そのあまりの眩しさに三人は目を覆った。
光はしばらく続き、やがて収まるとともに目を
開けた三人の視界にある海には島の姿はもう
映ってはいなかった。
「何が起きたの……」
「わからん。とにかく、村に戻ろう」
トージャ達は再び馬に乗り、村を目指した。
空はいつのまにか闇雲が消え晴れ渡り
真上に太陽が登っていた。
闇が広がっていた先ほどとは違い、森からは
生き物の気配がする。進む道を囲む山々からも
鳥の声が聞こえる。
いつもと変わらぬ様に戻ったか。
そう安堵しかけたトージャであったが―――――
――――だが、何かおかしい。
彼はふと馬の歩みを止めた。
「どうしたの?」
背中から不安げなローズの声が聞こえる。
並んで馬を進めていたアキニスも同様に
彼の様子を窺っている。
「何か、感じないか。……何かがいるんだ」
何処からだ――――、
トージャは鋭い眼力で辺りを見渡し気配を
探った。だがやがて慌てた様に
「村の方へ移動している……!
急ごう!」
その言葉で二頭の馬は山間の大地を再び
駆け出した。そして村の目印となる滝の
付近まで戻ってきたとき、その気配は
さらに確かなものとなっていた。
彼らは見知らぬ何かがここにいる、と
警戒を強める。だがそこでは数人の村人が
ざわざわと騒ぎ立て滝壺を取り囲んでいた。
「どうしたんだ?」
一人の村人がトージャに気付き、近寄ってきた。
「晴れ間が広がったもんで、皆で水を汲みに
ここに来たんです。そしたら急にこんなものが
転がり落ちてきまして」
何だ? と男が指さす方を見ると――――、
そこには得体の知れない何かが泉に浮かんでいた。
それは大人が両手で抱られるかどうか位の大きさの
楕円形の、銀色の輝く物体。それは先ほど銀色に
光った山を彷彿とさせた。
「何だ、この銀色のでっかいのは」
「卵みたいよね……、それとも石?」
口々に感想を漏らすアキニスとローズ。
「気配の正体はこいつだったか」
トージャは呟きながら泉に近づいた。
「トージャ! 危ないわ!」
ローズの制止する声が聞こえる。
だがトージャは何かに憑かれたかのかの様に
無言で泉に手を伸ばしその物体に触れてみた。
するとその銀色の塊は手に反応するかのように
突如ぐにゃりと伸びあがった。
途端に背後で観衆のどよめきが起こる。
銀色の物体は当初トージャに首を傾げるかの
様な形でいたものの、やがて頭を下げ、彼に
挨拶するような格好となった。
その様子から何かを感じ得たのかトージャは
緊張した面持ちから一転、笑みをこぼした。
「礼儀を知っているのか。大したやつだ」
すると再び塊は何のことやらと首を傾け
もう一度変形した。今度は慎重にぐぐっと
その身に力を込めながら。それはやがて泉の
底に根を降ろし、空に向かって枝を広げ。
銀の色はそのままに、小さな苗の形となった。
「あら可愛い」
ローズも笑みを漏らした。
「なんだかその枝……、銀の角に見えないか?」
アキニスの言葉にトージャは笑い
「獣か苗木かはたまたその両方か。
わからんがこいつからは敵意は感じない。
銀に光った山と何か関係がありそうだ、
そっとしておこう」
こうして銀の角を生やした苗木は
フォルズ村の新たな一員となった。
「銀の角の植物、シルクスの仲間かな?」
ハクアは壁に背をもたげ、腕を組んでた。
時刻は昼前。段々と腹が空いてきたが
話に夢中であった。
「おそらくそうだろうな。
そしてその滝は、今は一族の城の中にある。
そこに木の姿はなかったな……。
木に似せたインテリアはあったが」
「インテリアなんですか、あれ」
はあ? とリオネルが反応した。
かつて彼女とビャッコは滝の一族の山城に
赴いたことがある。その大広間の岩肌からは
滝が幾本の筋になって流れていた。その周りの
岩壁に空けられた数個の穴からは、幾本の筋と
なった光が滝壺に向かって射しこみ、そこには
まるで水と光で木を模した様な光景があったのだ。
「それ、なんだか素敵ね」
神秘さを思わせる様子にカズラはうっとりと。
「ええ、ほんまにロマンですわ水脈って」
シュウも違う意味でうっとりとしていた。
「で、彼はその銀の苗木を可愛がったのですね」
リオネルが話を戻す。
「お前が可愛がっていたっていうと、なんかアレだな」
ビャッコはそう言うなり鋭い気を感じたのか
ごほん、と咳払いをひとつ。
「その苗木は短期間で成長し、立派な大木となった。
尖った銀の枝をめいっぱい伸ばし、そこからは
幾つもの枝と葉と、時折花も咲かしたらしい。
訪れる者をその木陰で休ませてやり
見る者に誇りと威厳を思わせる。
立派で美しいニレの木だったそうだ」
そう言ってビャッコはハクアを見て頷いた。
自分たちが「ニレ」と名乗ることになった由縁。
その一端をハクアは感じ取ったのであった。
そしてビャッコは話を続けた。
「彼らにさらなる異変が起こったのは
その数年後のことらしい」




