表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風雲の場所  作者: yunika
第二章
PR
65/79

十六.名もなき山

「あーもうっ! 最悪よ最悪!」


若い女が怒りを振りまきながら村の中を

闊歩している。何がそんなに最悪なのか、

髪から何やら布切れを引きちぎりながら

歩いている。そんな彼女が向かう先には

赤毛の二人組の青年がいた。


その二人の男―――、トージャとアキニスの

兄弟は彼女が何に苛々しているのか察し

途端に顔を見合わせにやりと笑った。


「また髪にリボンを付けられたのか」


弟のアキニスが無造作になった彼女の

髪を眺めながら言ってきた。


「母さんたら、すぐ女らしく―――、とか

 なんとか言うんだから。

 そんなの気にしてたら戦いの練習なんて

 出来っこないでしょ?」


そう言いローズは木刀を手にし、トージャに

突きつけるなり、にこりと笑った。


「ねえ、三人で、野原で打ち合いをしよう。

 最初に息が上がった人の負け」


「はは、いいよ」


トージャは読んでいた書物を閉じると立ち

上がった。兄弟とローズは幼馴染であり

こういった風景は日常茶飯時。そんな

穏やかな日を過ごしていたある日のこと。


その日は朝から空に黒雲が立ち込め、

まるで闇夜の様だった。


「父上、兄さん。北西の空が随分赤い」


見張り台に登っていたアキニスが

緊張した面持ちで村へ駆けてきた。

トージャも落ち着かない様子で腕組みし

顎に手を添え、足を踏み鳴らしていた。


「あそこは海だ。何か他に見えたか?」


アキニスは首を振った。

村長ビッグスの周りには長老達が集まり

未曾有の事態の予測やら防策が練られている。


トージャはアキニスとともに頷き、再度

見張り台に向かうことにし、外に出た。

が、そこで待ち受けていた人物にトージャは

驚き足を止めた。


「ローズ! 自分の家にいろと言っただろう」


そこには武装したローズの姿が。

落ち着かない二人の有り様とは違いローズは

平然と、だがその瞳には強い意思を宿していた。


「あたしも行くよ。何か手伝えるかもしれない」


「――――」


トージャは何かを言いかけたが、そのとき。


「トージャ様!」


若い女がトージャに駆け寄ってきた。

村のはずれに住む油屋の娘だった。

身に香油でも付けているのか、彼女が

起こす風からは仄かに甘い香りがした。


「どうしたアゲハ」


アゲハと呼ばれたその娘は息も絶え絶えに

トージャを見上げた。丁寧に結われた髪には

小奇麗なリボンが巻かれている。


「ち、父が抱える商団が、海の村に行き

 そこで、見たそうです」


膝に手を付きながら途切れ途切れに話す

アゲハの前にトージャは屈みこんだ。


「ゆっくりでいい。話しておくれ」


「あ、あの……、北西の海にある山が

 頂から火を噴いているそうです。

 商団が海際から、はっきり見たとか」


「……海で火を噴く山。そうか。

 今から俺達も海際へ向かってみる」


「わ、私もお供させてください

 場所が分かるかも。

 それに、トージャ様が心配です」


馬を準備しにかかるトージャにすがり付く

様にアゲハは頼んだ。だがそれはローズに

あっけなく却下されてしまった。


「綺麗な格好が台無しになるよ。

 やめときなって」


トージャもやんわりと制す。


「危険だからこそお前は家にいなさい。

 わかったね?」


しぶしぶ頷くアゲハだったが馬に跨る

トージャと、その背に乗ろうとする

ローズをちらりと見、


「ローズはいいのですか?

 彼女も女の子です」


と言った。随分と冷ややかな目であった。

それを聞き、アキニスは笑い飛ばした。


「女の子? そんな柄じゃねえよローズは」


「腕っぷしも気性も男勝りで恐ろしいったら

 ねえが味方にすると頼もしい。

 確かに女だが、ローズは別だ。」


トージャもくすりと笑みを浮かべる。

彼の言葉を聞き、ローズが少しはにかんだ

表情になるのをアゲハは見逃さなかった。

そして三人が出立した後、その方角を睨み

ながら、ぼそりと呟いた。


「ローズは別?

 なら別の馬に乗ればいいじゃない」


この娘アゲハ・サルバトはトージャの許嫁で

あり、彼の後の妻となる人物である。


当初はアゲハがフォルズ家に嫁ぐ予定で

あったが後々トージャがサルバト家に婿入り

することになるのはもう少し先の話。




三人が海際に辿り着いたのは何時だろうか。

こうも真っ暗では時の判断がままならない。

唯一ある光は、海の彼方の燃えるような空。


だが彼らは水平線を眺めるうちに、空を赤く

染め上げる光の源が何であるかに気付いた。


「島が赤く光ってる!」


アキニスは叫んだ。

その様子は裸眼で見えるほどに

はっきりと見てとれた。


空ではいつの間にか稲妻が騒ぎ始めていた。


彼らに何かを伝えようとするかの様に

稲妻の雷光がほとばしる度、島の様子が

さらにはっきりと映し出される。


「あれ、島っていうより山よね。

 あそこ、最近になって突然海に

 現れたんだっけ。

 名前は……、まだなかったよね」


ローズが指さす方向には海面にぽつりと

浮かぶ三角の影。その頂きではぎりぎりと

何かに堰き止められ限界だといわんばかりの

熱の塊が吹き零れていた。


「ちょっと、これやばくない?」


「海の村の者達は避難した様だ」


辺りを見回っていたトージャが二人の

所に戻り、安堵した様に呟いた。


「海面がずいぶんと高い。

 普段、あの山はもっと高いはずだ」


冷静に分析を進めるアキニス。

三人は固唾を飲んで島を見つめた。


「―――――村に戻ろうか」


とトージャが一声放った、その時であった。

地響きとともに山の頂が燃える紅から

目ばゆい程の銀色に変わり発光し始めたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ