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風雲の場所  作者: yunika
第二章
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八.初任務

ハクアはヴィヴィアンの言われるまま

顕微鏡の中を覗き込んだ。


「これがイルミナージュ・スティックか 」


そこには『スティック』と名称付けられる

だけあって、杖のような細い棒状の菌が数体

震えるように動いているのが目にとれた。


「見ていて、何か気付きませんか?」


ヴィヴィアンの問いかけにハクアは

目を凝らし、細菌を観察した。

細菌はゆらゆらと小さく動きながら、

だがどこかを目指しているように見えた。


「何か……、こう、動きに決まりがある?」


ヴィヴィアンは満足げに微笑んだ。


「ええ。その通りです。

 イルミナージュ・スティックは様々な

 金属粒子を体内に取り込むことが出来る。

 鉄、銅、金。そして人の遺伝子に組込める

 性質を持っています。


 そこでアンスルは珍獣の角、金属有機体と

 呼ばれる物質のDNAをこの細菌に取入れ

 人体に組込めるエキスを開発しましたね」


「金属有機体の持つ効果は肉体が強化され、

 武力が上がることだそうですね」


ハクアが認識を確認し合うように相槌を打ち、

ヴィヴィアンは話を続けた。


「今この菌に取り込ませているのは銀です。

 わたくしが言った面白いもの、とは

 まさにこの様子でして。


 この細菌は、内に取り込んだものと

 同じ物質を求めて動くらしいのです」


そう言ってヴィヴィアンは顕微鏡の近くに

置いてあったケースを手に持ち、中身を

取り出した。

それは銀で出来たネックレスの様だった。


「もう一度。

 覗いてみてください」


ハクアが顕微鏡をのぞくと、確かにその

古代細菌は先程と向かう方向を変え、

今は女史の手にあるネックレスの方へと

じりじりと近づくように動いていた。


「もし、私の予想が正しければ」


ヴィヴィアンは一呼吸置き、

ハクアに切り出した。


「この古代細菌に、かの金属有機体を

 取り込ませたら他の金属有機体を探す

 コンパスが作れると思いませんか?」


ハクアは驚いてヴィヴィアンを見上げた。


「それはつまり銀の角を生やした珍獣――――、

 シルクスやラウルスの仲間を探すコンパス

 ということですか? 何のために?」


「私の予想ではおそらく彼ら、アンスルや

 サルバト一派、もしくはレッド一派らは

 これから――――、いえ、

 もう動き始めているかもしれない。


 金属有機体である銀の角を持つ生物を

 その手にしようと探し求めることかと」


「シルクス達の仲間を?

 それはまた何故ですか?」

 

ハクアの問いにヴィヴィアンは

憶測ではありますが、と前置きし


「彼らが元々抱えていた問題とは、所有する

 金属有機体が枯れかけ、その効力が失われ

 かけていたことにありました。

 昔から彼らは金属有機体である珍獣の角を

 酒に漬込み、染みだした成分を飲んでいた。


 これが飛び抜けた武力を有する彼らの

 理由ということでしたね。


 ですが頼みの金属有機体は枯れてしまった。

 困った末にサルバト公は金属有機体の

 DNAを嫡男カールの遺伝子に組み込む

 という驚くべき行動に出たわけですが。

 

 そして政府に務める妹からの情報ですが、

 最近そんなサルバト卿に困った出来事が

 あったそうで。

 なんとサルバト公の秘密を知る隠密、

 カルオがレッド派に寝返ったそうです」


「あの鎌男、サルバト卿を裏切ったんですか?

 サルバト卿にかなり恩感じていた風なのに」


ラニッジ鉱山で対峙した際、感慨に耽りながら

サルバト卿への恩を語る鎌使いカルオの様子を

思い出し、ハクアは疑問に首を傾げた。

ヴィヴィアンも同じように首を傾げ、


「いきさつは存じません。ここで重要に

 なってくるのは彼のお喋りな性格です。

 ハクア君は彼がエキスの秘密を話してない

 と果たして思いますか?」


ハクアはきっぱりと否定した。


「全く思いません。つまりレッド一派は

 カルオの情報から、アンスルが作り出した

 エキスの秘密を知り自分達も銀の角を

 手に入れようと動くかもしれないと?」


「ええ。そして何よりカルオは貴方の角猫、

 シルクスと洞窟で対峙した。

 金属有機体な角を持つ生物が伝説でなく

 顕在であることをその目にしたわけです。


 そして心配すべきはサルバト卿側も。


 猜疑心の高い彼がレッド一派の行動を

 大人しく観察するとは思いませんし

 さらに新たな角を入手しようと企むと

 容易に予想されます」


ハクアは不安げに尋ねた。


「では、サルバト卿とレッド卿がシルクスの

 仲間を探して激突する可能性すらあると?」


「ええ。肝心の角を持つ生物を探す方法は

 まだ私達しか思い付いていないと信じたい

 所ですが、アンスルがいつ気づくやら。


 そして我々はレッド卿に付くのならば

 サルバト卿に生物を見つけられては困る。


 よって、彼らより先に生物達を発見し

 保護することが必然となるのです。


 それもなるべく、目立たず、秘密裏に」


ヴィヴィアンはそこまで言い終えると

ハクアをじっと見据え、やがて何かを

決意したかのように口を開いた。


「そしてハクア君。

 もうわかっていますね?

 貴方にしか頼めないことです。


 政府高官の妹も同様の意見であり、

 書状も預かっています」


「書状?」


政府高官から差し出される書状となると

つまりは政府からの拝命書であろう。


秘密任務の命令はきっと厳かかつ

綿密な文章で書かれているに違いない。

ハクアは初任務だ、と気持ちを引き締め

ヴィヴィアンが差し出した封筒を丁寧に開き

中から取り出した白い上等紙を開くと――――、


『やれ』とだけ、でかでかと記してあった。


「リオネルさんらしいですね……」


期待を裏切られたハクアは毒蝮な上に

大雑把すぎる女高官リオネルを思い出し

苦笑いを浮かべた。


だがヴィヴィアンは対して


「妹はこういったことには几帳面ですから」


と愛妹を思い笑顔を浮かべた。


几帳面の意味をご存知ですか、と

ハクアは問いかけようとしたが

地雷の匂いを察知したのでやめておいた。


「コンパスを作るにはあなたの翼猫シルクスか

 熊ムササビ、ラウルスの角の成分が必要です。

 人語が通じるとのことですし、貴方から

 頼んでみてはくれませんか」


ハクアは強情な二匹が応じるだろうかと

自信なさげにしつつも


「わかりました。聞いてみます」


と返事をした。




寮に帰ると、ハクアの部屋にはシュウ、

そしてヴィヴィアンの授業で出会った少年

ワットの二人ががトランプをして遊んでいた。


「おー! おかえりハクア!」

「お邪魔してるよ」


「こいつな、同じ寮やったらしいわ。

 俺らのいっこ下の階」

「へえー。そうなんだ。

 あ、昼間はありがとね」


「ところでヴィヴィアン教授の手伝いって

 何やったん?」


女史に、デートと言われたことはさておき

彼らを厄介事には巻き込みたくないと、

ラボで話した内容は黙っておいた方が

良いとハクアは判断し、咄嗟に誤魔化した。


「大変だったよ。本の並べ替えとか

 散々手伝わされてさ」


「まじかー。

 それでもええから手伝ってみたいわ」


シュウはそれ以上気にするそぶりは見せず

ワットに至っては鼻から興味なさげだったので

ハクアはやれやれと思いトランプに参加した。

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