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風雲の場所  作者: yunika
第一章
41/79

四十一.燻し銀

ビャッコは鞘から刀を抜き、

男の太刀を受け止める。


刀男の後方からは小銃を構える男が二人。


さらに後方の鎌男は、武器に鎖をつなげ、

それを頭上でブンブンと振り回し始めた。


「小癪な!」


ビャッコは小銃から放たれた銃弾を二発

連続、さらには後発のもう一発を刀身で

叩き落とすと手首を返し、一歩踏み込んだ。


斜め下より三日月弧を描き振り上げられた

鋭い刃は、刀男の手首を捉えた。


「ぐっ!!」


手首を負傷した男は刀をカラリと

地面に落とし、膝を着く。


「ふふ!

 ほらな……

 余裕を持たないからこうなるんだ」


鎌を構えた男の仲間がけらけらと

笑いながら言った。


「さすが俺達一族の血筋だな。

 いい動きだ。


 ……だが分家は分家。

 冴えねえオッサンだ。

 さっさと片付けちまえ!」


鎌男は、ビャッコの攻撃に恐れおののき

ながら小銃を構える二人に命令を下す。


と、そこで意外なことにリオネルが反論する。


「冴えないオッサン?

 いえ、割とイケオジかと思います。

 少なくとも貴方達の方がいけ好かない。

 ……むしろどん詰まりにイケてない」


「……ふふ。

 お主が私を褒めるとは明日は嵐か。

 だが有難く受け取っておこう!」


ビャッコは言葉の加勢ににやりと白い歯を

見せ、再び構えを取る。だがその表情は、

発する言葉と同等の余裕は感じられない。


「父さん、足に古傷があるんだよね。

 このままじゃいけないな、どうしよう」


と、岩陰からハクア。


そして先程男が落とした刀に目を付けた。


刀を持っていた男は、手首から血を流し

苦しげに喚いて倒れている。


残るは三名。


その敵陣がビャッコを取り囲み、

ハクアのいる岩陰に背を向けた瞬間。


――今だ!


ハクアは一直線に駆け出した。


落ちている刀を拾い、スラリと振ると柄を

自分の手になじませる。


ハクアは滅多に本物の刃を持つ刀を手にする

ことはなかったが、緊迫したこの状況では

慣れないやら刀身が重いやらなどと気にして

いる場合ではない。


「何者だ!」


ハクアに気付いた二者が小銃から弾を放つ。


それを先刻ビャッコがやってのけたのと

同じ様に、だが彼程流麗な動きではない

もののハクアは刀を小気味に操り叩き、

バラバラと落として見せる。


「ハクア!

 どうしてここに!?」


ビャッコは目を真ん丸にむき出した。


「ごめん父さん!

 父さんを付けていたら、アンスル助手が

 どうも怪しくて、それでここを探ろうと

 思ったらこんな事に」


「父さんを付けていただと!?」


ビャッコは信じられない、という顔をした。


鎌を持った男が、手に持つ武器をぶんぶん

振り回しながらハクアに近づいてくる。


「ふふふ。

 お前はビャッコの息子か」


「つまり滝の一族がこの泉を研究していた。


 ……アンスルさんはその研究に

 協力していたってこと?」


ハクアは鎌男から後ずさりしつつも

心ここにあらずで冷静に解釈をすすめる。


前方では不敵に笑う鎌男。


「ふふ。

 親子ともども抹消してくれよう」


「有毒騒ぎになって閉山したら

 研究が続けられない。


 だからアンスルさんに偽りの

 報告をさせたってことか」


「ふふ……」


「あの、うるさい」


ハクアは考えてるのだから黙ってくれ、と

ばかりに冷たく鎌男に言い放つ。


「!!?」


男はいささかショックを受けたのか、

鎌を扱い損ね、ガツンと地面に振り落した。


「で、有害レベルだと発表しようと

 した教授は邪魔だったってことか。


 合ってる? 父さん」


ビャッコはうむむと唸り、

鎌男をぎろりと見やった。


「まさしくその通りであろう。


 もしやこれは、近々起こるであろう

 一族の分裂と関わりがあるのか?」


「分裂抗争? 何それ」


抗争の話が初耳であるハクアは、

ようやくそこで鎌男に向き合う。


男はぎりりと歯ぎしりをしている。


「そんなことお前達に言うとでも

 思っているのか?」


「やっと喋っていいって言ってるのに」


ハクアの言葉に男はまたもショックを

受けたのか表情をハッとさせる。


そのとき、影に隠れていたシルクスが

ずいと姿を現した。


「ふん、愚か者達め」


鋭さを称えるエメラルドの双眸に

一族の男達はしばしたじろぐ。


「銀の角を持つ猫だ!」


「いやコウモリだ!」


シルクスは怒りを露わにし、

男達に向かって吠えた。


「私はシルクスだ!

 それ以外の何者でもない!」


そして自身に銃を向ける一人の兵士に

勢いよく突っ込んで行った。


男を口で掴むなり壁に向け

ブン、と放り投げる。


男は壁にぶつかり、悲鳴を上げる

暇もないままぐったりと地に倒れた。


「おぉ、粋だね。

 滝の一族が分裂するんだって」


ハクアはシルクスに誉め言葉を

贈るも、すぐ何事も無さげに告げる。


「とうとう、か」


シルクスは目を閉じて溜め息をつく。


ハクアは訊ねた。


「昔から仲悪い部族だったの?」


「妬み嫉み、あともろみも多かった」


「もろみって何」


「発酵した酒の原料だ」


大猫はしたり顔だ。


「……」


シルクスも冗談を言うのかと

ハクアが苦笑していると、鎌の男が

呆れたように語りを受ける。


「仕方ない、俺様が説明してやろう。


 我が主に反する者が現れたのは、

 あの日が始まりだった。


 それは我らが地で年に一度

 開かれる武闘大会!


 シニアもといベテラン部門では、

 公爵様が優勝されるのが常!


 だが先の大会ではサルバト様は

 他の戦士に負けちまった!


 坊主!

 そしたら何が起こるか想像つくか!?」


ハクアは顎に手を当て考える。


「求心力が衰えるってことか。

 だけどそれとその泉の毒と、

 一体何の関係があるんだ?」


「ふふ。それはな…」


男はにやりと勿体ぶるも、


「まさに天からの贈り物だったのさ!」


そこへハキハキとした別の声が

突如、話に割って入る。


それはアンスルから発せられたもので

あり、その語り口調は普段の彼とはうって

変わって大層自信に満ち溢れたものだった。

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