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風雲の場所  作者: yunika
第一章
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四十.夜目

同日、夜八時。


ラニッジ鉱山に灯されていた

明かりがふっと消えた。


しばらくストライキを起こしていた

従業員達は既に採掘場へ復帰しており、

ちょうど帰路に就く頃であった。


そんな坑道の入口を見渡せる茂みに影を

潜めていたのはハクアとシルクス。


「従業員の皆が帰った。行こう」


ハクアはアンスルが何の為に鉱山内の

洞窟へ来ていたのか、現場を調べて

探ろうとしていたのだ。


だが、ハクアの目の端に動くものが

ちら、と姿を覗かせる。


「ちょっと待って、誰か来る!」


咄嗟に人の気配を感じ、ハクアは再び茂み

へ引っ込み様子を窺うことにした。


視線の先には山影の裾を怪しく這う影達。


ハクアは目を凝らすが、日が沈んだ闇夜と

あっては何者なのか見定めがつかない。


その人影は現坑道のリフトをよじ登り、

やがて鉱山内へと姿を消した。


「誰だろうね。見に行こう、シルクス」


「ふむ。興味深い」


首を傾げるハクアに対しシルクスはどういう

わけか、ニヤリとだが敵意に満ちた眼差しで

その影が消えた方を見つめていた。


ハクア達は洞窟の中を進んでいくも、先程の

人影はどこにも見当たらない。




ハクア達はやがて、彼らが最初に出会った

洞窟へと行きついていた。


水音だけが聞こえる、静まり返った洞窟。

天井に空いた穴からは柔らかい絹のベール

のような月明かりが射し、昼間見た景色とは

また違った美しさがそこにはあった。


「やっぱり誰もいないな……」


と、後ろから足音が聞こえてきた。

またもハクア達は陰に隠れる。


姿を現した足音の正体は大柄な男が四人。


どこかの兵士だろうか、彼らはポケットが

沢山ついた黒い軍事作戦用のベストを着、

脇に何やら大きな袋や箱を抱えていた。


その後ろにはワカメのような髪を持つ白衣

の男が一人。


「アンスルさんだ」


ハクアはシルクスにささやく。


アンスルは泉から水を採取し始め、男達に

問いかける。


「これで最後だな……

 しかし勿体ない。本当にやるのか?」


一人の男が冷たく返す。


「あんたが勘づかれたせいだ。

 仕方あるまい。

 それに研究が完成した今、

 ここにもう用はなかろう」


身を潜め、声を潜めハクアは男達の

会話に聞き耳を立てる。


――研究が完成? 何のことだろう。


そして男達は脇に抱えていた荷物を

静かに地へと降ろした。


その一つは男達が着込んだベストと似て、

黒い布で包まれた、箱の様なもの。


ハクアにはそれが何なのか見当がつかな

かった。


もう一つは長細く、だが横幅もしっかりと

幅をとった、何かが包まれている銀の袋。


ハクアはそれには見覚えがあった。

キャンプのときに使う寝袋のような形だ。


――もしかして。


ハクアは背筋をぞくりとさせた。


あの中はきっと人だ、と。

そして、それはおそらく、あの人。

無事であるといいが、と。


「ここで最後だな?」


男は言うなり、四角い箱の包みを開け

ようとする。


そのとき。


「待て! そこまでだ!」


洞窟内に新たな声が響いた。


男達が、ハクア達がそちらに振り返る。


その声に、ハクアは思わず

声を上げるところであった。


――父さん!?


姿を現した声の主。その正体は

何とハクアの父、ビャッコであった。


白い軍服の腰に帯刀した姿は、ハクアの

幼き記憶の中に残る、まさに現役の大将姿

そのものである。


「お主たちは、滝の一族の戦士だな!?」


ビャッコは険しい目で男達を睨み上げる。


父親の洞察に驚き、えっ、そうなの、と

小声を洩らしそうになるハクアに対し、

シルクスはふん、と鼻を鳴らした。


「気付いていたの?」


ハクアはひそひそ声でシルクスに問う。


シルクスは彼独特のしたり顔をハクアに

向ける。察するに、どうやら外で見た時点で

彼があまり、というよりは決して好印象を

抱いてはいない滝の一族の存在に気付いて

いたらしい。


猫の夜目とは便利だな。


ハクアはそう感心しつつ、再び視線を

父親へと向ける。


ビャッコの隣には失踪したヴィヴィアン女史

の妹にしてジオリブ政府高官、リオネルの姿

もあった。


「その袋の中を見せていただきたい!」


リオネルは声をわなわなと震わせ、男達に

叫ぶ。男達はそんなリオネルを嘲るように

鼻で笑うと、袋のジッパーを開けた。


袋の中から姿を覗かせたのはハクアが予想

した通り、気を失い横たわったヴィヴィアン

教授であった。


「お姉様! なぜこんなひどいことを!」


リオネルはいきり立ち男達を責め立てる。

そんなリオネルの姿を嘲るように、背中に

大きな鎌を背負った一人の男が語りだす。


「ハッ! 『なぜ』だ? 決まってるだろ。

 そりゃこの女がここの毒を『有害レベル』

 だって発表しようとしたからさ。

 それは俺達にとっちゃ、ちょい都合が

 悪かったんでね」


次はビャッコが責めるように問う。


「何と……。

 ではやはりここの毒は有害なものだった

 のだな! この洞窟への隠し道を作った

 のもお主達か!?」


しかし刀を持った別の兵士が、先程から事情を

べらべらと喋る鎌男を諫める。


「これは極秘の任務だぞ。

 うかつに答えるな、馬鹿者め」


だが鎌男は止まる気が無いらしい。


「いいじゃねえか。最後に教えてやろうぜ。

 ここの泉の毒は俺達一族――、というより

 サルバト様の極秘かつ、しかしご執心な

 研究に使われていてね。

 だけどもう用済みだ。何だって、研究は

 成功したからな……!

 俺達は報酬がたんまり貰えるぜ!」


鎌男はけらけらと笑い出した。


刀男はそれにチッ、と舌打ちしつつ、


「だがそれは極秘事項。

 秘密は全部消さねば!」


無論、それを知った人間もな! と威勢よく

脇差しを抜刀するなり、ビャッコに切り

かかってきたのである。

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