未来改変
休日というのもあり、日がな一日、食っては寝てを繰り返す。
貴重な時間を無駄に消化していると思われそうだが、俺の場合はこれもストレス解消となる貴重な時間だ。
その時だ。小さな物が落ちてきたようなトンという軽い音とともに、目の前に何かが降ってきた。
一瞬、目を疑った。それは、現れるべきものではなかったからだ。
「佐藤はじめに間違いないな?」
それは臨戦態勢をとると、俺の名前を確認する。俺は声が出ない。
「答えがないということは間違いなさそうだな。訳あって、お前を殺す」
「待ってくれ。答えられなかったのは驚いたからだ。そして、まさか話すとは思わなかったから。その……ネズミが」
ひげをピクリと動かして、ネズミは俺を睨んだ。丸い黒目では睨んでいるのかもわかりにくいが。
「君は僕を馬鹿にしているのか? 外見で人を判断する下等生物のようだな」
まずは脳内で突っこませてほしい。
ネズミだから馬とも鹿とも思っていないし、人でもないと思うし、下等生物ってどういう判断基準から下等生物と決まるんだ? ネズミは違うのか?
「それに、ネズミが話すのも、殺し屋というのも無理やりつくったネタのようだし……」
心の中の声も言葉にしたくなるというものだ。
「裏設定では、僕はある理由で博士の新発明の実験台となりネズミとなった者。特異なウイルスのせいで人類の九割が滅亡した未来からきた者ということになっている。先程、空中から現れたのは、時空移動をしてここに来たためだ。君の遺伝子は僕にとっては邪魔なのだ。未来のために死んでくれ。そして、説明するには長くなるから、詳しくは同作品の三十三話。望まれぬ発明を読んでくれ」
「いや、さらりと説明されても困るし!」
「これ以上の話は無駄だな。死んでもらおう」
ネズミが背負っていた小刀を手に持って構えた。
ネズミだから持っている刃物は当然ながら小さいが、あたりどころが悪ければ命に関わるはずだ。とにかく、急所だけは刺されないようにしなくては。
そう思って顔を隠し、腹を守るために屈んだ瞬間、鈍い音が響いた。
「離せ、下等生物! こいつは僕の計画の妨げになるのだ」
顔をあげると、うちの猫がネズミを押さえていた。猫にしてみたら、こいつは獲物にしか見えないのだろう。
ネズミが俺を殺そうとして、そのネズミを飼い猫がつかまえるなんて、もう弱肉強食とか主従関係の枠もこえていて、何が何だかわからない。
「こいつの中に、人類の九割を滅亡させるウイルスに対抗する血清があるんだ。こいつをここで殺さないと、汚い人間どものみを世界から排除する計画が台無しになってしまう!
この高貴な計画を、貴様のような猫が――」
ネズミの話が途中なのにも関わらず、うちの猫はネズミの尾をくわえながら窓を開ける。
うちの猫に、いいようにされているネズミは、いつの間にか刃物を落し、振り回されることで目を回しているようだった。
「おい待て、猫! いや、待ってください。ごめんなさい。飼い主を襲おうとしたことは謝ります。お願いだから食べないで!」
断末魔のような声とともにネズミは、うちの猫に翻弄されながら、くわえられた状態で外に消えた。
ネズミのことは、あまり深く考えなくてもいいのだろう。そして、話していたことも。
「理解しがたい話だったな」
とにかく、あのネズミの言うことが本当だったのなら、うちの猫が世界を変えたことになるのだろう。そう考えると偉大な猫になるのか。
いや、もしかしたら未来や運命は変えられないものではなく、現在いる者がはっきりと認識していないだけで、些細なことで変化しているものなのかもしれない。
さて、考える。俺は、これからどうしたらいいのだろうか? 自分の未来のために。




