視点
舞台は全国駅伝大会。寒風が強くなってきた山道の登り坂で、男たちは競い合っていた。
一年間の練習の成果を見せようと、鍛えあげた体を武器に争いが繰り広げられる。前走車に乗って指示する監督の声で、選手は更に奮いたつ。
白い息を吐きながら山道を登っていた彼は、目の前にいる男たちを標的に捉えていた。ここまでで八人抜きをしている。区間新記録間違いないというスピードだ。
目の前にいる相手が見えても、彼は焦らずに自分のペースを守り続けていた。
頂点に居続けている彼にとって、相手は相手であってライバルは自分だけなのだ。
あっという間に距離をつめて一人抜き去る。更にもう一人。
彼は自分のペースを確認するために時計を見た。残り距離は一キロ。体力にはまだ余裕がある。これならまだいけると彼は判断し、更に速度をあげた。
区間新記録は間違いない。それでも彼は貪欲に記録をのばすことを選んだ。
目の前に優勝候補とされたチームの選手が見えた。その相手を見て、彼は様子がおかしいとすぐにわかった。ふらついていたのだ。
ぶつからないよう距離を取って抜く。ほぼ同時にその選手が、路肩に倒れこんだ。
それでも今は競技中だ。彼は倒れた選手には目もくれずに走る。通り抜ける度に湧きおこる応援客の歓声。その歓声を背に彼は山を登っていった。
倒れこんだ選手は、自分を抜き去っていったライバルの背中を睨み続けていた。
聞こえる応援客の声は、「頑張れ」という懇願にも似た言葉だ。
彼は自由が利かなくなりはじめた足を思いきり叩くと立ちあがった。タスキは途切れさせない。ゴールまではあと一キロ。やれるだけやってやろう。
母が渡してくれたお守りを取り出す。中には弟たちが書いてくれた応援メッセージがあった。
同じ優勝を目指す友のため、自分を信頼してくれた指導者のために、そして誰よりも支えてくれた家族のために彼は走る。
ここまで彼がきた道には、凡人には知り得ないほどの辛い経験があった。
落ちこんでいた時期に優秀な指導者と出会ったのだ。それが前の監督だった。
監督のお蔭で走ることが彼の生き甲斐となった。走ることをやめてしまうと彼の存在価値がなくなる。それほど練習に打ちこみ、監督に恩を返そうと必死になった。
それなのに――。
作者が視点を間違えたことによって、ドラマ性のある彼の物語は詳細に書かれず、ここで幕を閉じようとしている。
あの、いろいろと御免なさい。この作品、改編したほうがいいでしょうか?
「文字数制限あるなら、はじめからこっち視点で書けよ! アホ作者!」
そして、叫んだ彼が今後のマラソン界の歴史に名を刻む有名選手になるということは、作者と読者さまのみが知る予告ということで――了。




