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短編集 ~一息~  作者: つるめぐみ
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居候

 男は一週間前に知り合ったばかりの居候と食事をはじめると、料理を載せた皿を前に、もたついている彼を見ながら深い息を吐いた。

「お前と会った時には、すごく驚いたんだけどな」

 不注意で居候が転がしたグリーンピースを拾うと、ゴミ箱に投げ捨てる。

 見事、ゴミ箱に入ったグリーンピースを見て、居候は興奮したように激しく拍手した。

「別に、拍手することでもないだろう。むしろ俺は、お前が見せてくれた発明品の数々に興奮したよ」

 男が居候を快く受け入れた理由は、彼が持ってきた発明品に魅力を感じたからだった。

 事故や災害から身を守るバリアを張る機械。動物の言葉がわかる翻訳機。どんな未来が待っているのか教えてくれる未来予告機。

 出会った時に見せてくれたのは、現代では生み出せない高度な品物ばかりだったのだ。

 全てが信じられないような発明品だったので、男ははじめ、居候を疑った。

 ところが実演で証明されてしまったのだ。

 まずは、どんな未来が待っているのか教えてくれる未来予告機の性能を確かめた。

 すると、「トラックに轢かれるので今日は外出しないこと」「犬に咬まれるので近づかないこと」と出たのだ。

 では、他の発明品の性能も確かめようということで、男は一人で外出することにした。

 トラックに轢かれそうになったのは、横断歩道を渡っている最中だ。男は青信号で渡っていたのに、トラックの運転手が脇見運転で信号無視をしたのである。

 もう駄目だと思った時、男の目の前にバリアが出現して守ってくれた。

 命が助かったと安心していたところで、尾を振っている犬が鼻声を出して近づいてくるのが見えた。そこで、動物翻訳機が「咬むぞ」と訳したのだ。

 尾を振っている犬が咬むものだろうか? 尾を振るのは嬉しいからではないのか?

 男が尾を振って寄ってきた犬に手を差し出すと、犬は突然、歯を剥きだして咬んできた。

 しかし、男は無傷ですんだ。バリアが守ってくれたからである。

 後で知ったことだが、狼は獲物を狩る時に尾を振るという習性があるらしい。そんな習性が稀に犬にも表れることがあるそうだ。

 そんな恐怖の体験よりも、男は発明品の性能に興奮して、全力疾走で帰宅した。

 帰ってきた男を見て頼み事をする頃合いだと考えたのだろう。

「もっと発明品を見せてあげるから、君の家に住ませてくれないか」と、居候は条件をつきつけてきたのだ。

 そして、「こんなに素晴らしい物を、たくさん見せてくれるのなら喜んで」と、男は二つ返事で了解したのである。

 ところが、一週間も経つと居候の欠点が見えはじめてきた。とにかく何もできない。靴も一人で履けなければ、服を脱ぐことすらもできない。

 例えるなら、赤ん坊と同等に手がかかるのに、大人の体で言葉が話せる二足歩行の人間、としか言いようがなかった。

「出て行ってくれと言っても、そうはいかないんだろうな。だってお前の帰る手段は、なくなってしまったんだろう?」

 居候は首を縦に動かした。遠い目をしながら、庭にあるポンコツの山を見る。

「ああ、タイムマシンは壊れてしまったからね。仲間が助けにくるまでは帰れないわけさ」

「そうだな。お前が未来からきたと聞いて、はじめは信じなかったが、俺は発明品を見て、嘘じゃないと確信したんだ。だけど、何もできないなんて話が違うぞ!」

 言って男は、食事をスプーンの上に載せると、居候が開けた口の中に入れてやる。

 満足そうに食事を飲みこんだ居候は言った。

「だって未来では、起きるところから下の世話まで、みんなロボットがやってくれるんだ。仕事も家事もロボットがみんなやってくれる。僕たち人間は彼らを管理しながら、趣味だけを楽しんで、動く必要もないわけさ」

 動くこともできないほど太った体の居候が、得意そうに言う姿を見ながら男は呟いた。

「じゃあ訊くよ。それって、進化っていうのかい? それとも退化っていうのかい?」

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