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縁鬼乱舞  作者: ひろゆき


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 第4章  6  ――  長  ――

 第五十話目。

 牢屋は暗い。

                    

            6



 やはり別人なんかではなく、鉄柵越しに会ったのは間違いなくランス本人。

 不思議と確信ができた。

 最初はよそよそしく話をしていたけれど、途中から乱暴な口調になっていく様は、あいつなんだ、と。

 ただわからない。なぜ、あんなによそよそしく接してきたのか。

 翌日の朝、殺風景な天井を眺めながらも、不快感はどうしても拭えずにいた。


「まったく。この街は人をなんだと思ってんのよ。ちゃんと朝食を頂戴っていうのよ」


 時間的に陽は昇っているのだろうけれど、誰も様子を見に来ない対応に、アカネの文句は一向に静まらない。

 そういえば、ランス以外は様子を伺いに来た者はいないよな。


「このまま餓死させるとか」

「何それ。私らに人権ってないのっ」


 半ば冗談でふざけたけれど、アカネが予想以上に怒り、苛立ちを存分にぶつけてくる。

 多少ふざけないと気持ちがもちそうになく、苦笑いしていたけれど、ふと真顔になってしまう。

 静かで薄暗い通路を眺めていた。

 冗談抜きで、このままでは本当に餓死させられそうなほど、人の気配はない。


「ね、なんだったら脱走でもしてみる?」


 冗談かと思えば、アカネの目はすわっているじゃないか。冗談に聞こえないのだから、怖い。

 勢いに任せて動きそうなアカネを制した。


「どうやら、餓死はなさそうだぞ」


 と、興奮するアカネの横で、鉄柵を指差した。遠くから人影が近づいていた。

 足音が次第に近づいてくると警戒心も高まり、両手を握り締めてしまう。

 アカネも武器はないながらも、身構えている。いや、朝食がないことへの腹いせとも取れた。

 鉄柵の前に現れた人影は1人の男。背が高く、色白な男。目の細いスッキリとした男であった。


「ユラ殿ですね」


 鋭い眼光で問われ、なぜか体が竦んでしまった。言葉をかけられただけなのに、不思議な緊張感に襲われる。


「ちょっと、私のことはっ」


 名前を呼ばれなかったのが悔しいのか、鉄柵越しに怒鳴るアカネ。それでも男は動じず、僕を見据える。


「あなた方には街の長に会っていただきたい」

「――長?」



 どうも、逆らう隙を与えてもらえなかった。逆らえば、それこそ身が危険になってしまいそうな予感がし、渋々男に従うことにした。

 またアカネも渋々ながら同行していた。

 そもそも、何かがおかしかった。

  



 牢屋があったこの屋敷の上階。その一室に連れられた。

 しばらくお待ちを、と僕らを部屋にあったソファーを勧められ、腰を下ろしていた。

 部屋は応接間となっているのか、中央に装飾されたテーブルとソファー。

 部屋には歴代の長なのか、数人の肖像画が壁に飾られ、部屋の隅には花瓶に花も添えられている。

 どうも、身丈に合わない部屋に思えてしまい、ソファーに座りながらもどこか緊張がほぐれてくれない。

 気持ちを緩めようにも、扉付近では先ほどの男が立ち、待機している。彼は屋敷の執事あろうか、黒い服装に白い手袋をしていた。


 重い空気に支配され、ずっと背中を伸ばしていると、部屋の扉がノックされた。

 音に誘われ振り向くと、ちょうど扉は開き、外から2人の男が姿を現した。

 1人は老人の男。

 白髪交じりの髪は短い。細身で腰が曲がり、足が悪いのか両手で杖を持ち、体を支えていた。

 もう1人は対照的に背が高く、屈服のいい男。先ほどの男と同様の服装からか、この人物も執事に見えた。

 老人はこちらの視線を気にせず部屋を進むと、僕らの向かいのソファーに腰を下ろした。

 2人の男はソファーの後ろに立ち、後ろ手に腕を組み、こちらを伺っている。目つきからして、どこか監視されているみたいで、緊張は解けない。


「これまでの非礼、お詫びいたします。私はこの街の長を務めておりますバンジョウと申します。後ろの2人はツルミとタカセ。私の身の回りの世話をしていただいております」


 名を紹介され、続けて頭を下げる2人。牢屋に訪れたのがツルミ。屈服のいい男がタカセらしい。

 さて。どれだけ罵倒されるのか。

 隣りでは、これまでの対応に不満を抱くアカネが足を組み、横暴な態度で迎えるなか、僕は覚悟を決めた。


 どれだけ罵倒されるのか。

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