表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

1 カミングアウト

拙著『ダンジョンメンタルクリニック』の主人公に焦点を当てたスピンオフです。


本編では、あまり触れていない主人公の過去についてのお話ですので、未見の方は、併せて本編もご覧いただけたら幸いです。

 1

「孝浩、医学部に入ったからって油断するなよ」


 お前の言いなりで医大に合格してやったんだから、たまには子供のことをほめるとかできないのか。


 私は「うん……」と、気のない返事をした。


 父親は、そんな私の気持ちにはお構いなしで、延々と説教臭い人生訓を垂れ流し、唐突に「欲しいものはあるか」と聞いた。


「え……?」


 私は純粋に驚いて聞き返した。子供の誕生日プレゼントに、知育玩具を買い与えるような父親が、私に「欲しいもの」を聞いたのが意外だったのだ。


 父親の真意がわからず、気まずい沈黙がリビングに広がる。テレビでは、昨年S県に出現したというダンジョン『樹界深奥』についてのニュースが流れていた。


「本当に欲しいものを言って…… いいの?」


 私は意を決して沈黙を破る。


「ん? ああ。何が欲しい?」


 私の真剣な様子に、少し戸惑いつつ父親が言った。


 ダメだ、この父親に、私が本当に欲しいものなんて言ってはいけない。


 心の中で、激しい葛藤が生まれる。


 でも、言って楽になりたい。自由になりたい。


「…… おっぱいが……」


 私は、意を決して小さな声で言った。


 父親は「え? なんだって?」と言い、じれたように聞き返した。


「私は…… おっぱいが欲しい」


 こんどは、父親の目を見てはっきりと伝えた。


 父親は、その時はじめてその存在に気付いたかのように、斜め向かいに座っている母親のほうを見た。


 母親は元看護師で、父親と結婚して専業主婦となった今も、医師である父親の世話を献身的に行っている。


 もちろん私の世話もしてくれていたが、それは父親の機嫌を損ねないため、というように思えてならない。


 そのような母親にとって、今の状況は非常にまずい。突然息子が「父親の意に沿わない」ことを言い出し、父親は黙って母親を責めるような目つきで見ている。


「孝浩ちゃん、何言ってるの?」


 父親からの無言のプレッシャーに負け、母親はおろおろしながら、とりあえず言葉をつないだ。もう少しで「頼むから、これ以上父親の機嫌を損ねるようなことを言わないでくれ」という本音が出てしまいそうな勢いだ。


「私は、これまで自分のことを男だと思ったことない」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ