ねぇ?
「‥‥‥るっ‥‥‥‥きて‥‥ハル‥‥‥起きて、ハルッ!!」
真っ暗で、湿った空間。手と足は動かず、何かで縛られているのか目も見えない。おかしいな、さっきまで街の外にいて、変なロリっ娘に殺されかけてた筈なのに。死んだ?いや、死んだなら女神の所に行くだろう。それに、縛られる理由がわからん。
「あ、起きた。お寝坊さんなのは治ってないのね?ハル」
「‥‥‥‥シル?」
この世界に戻ってから。いや、戻る前から何度も何度もこの声が聴きたくて可笑しくなりかけた。甘く、そして優しい暖かさに包まれた愛しい人の声。もう二度と聴くことの出来ない声。
なのに何故、耳元でこの声が聞こえてる?‥‥‥なんでも良い。
もう一度聴けるなら、その姿を見ることが出来るなら、抱き締めることが出来るなら、何でも良いから。この縛りを解いてくれ。
そして、もう二度と離れていかないでくれ。その為だったら何でもするから。だから‥‥‥
「でもゴメンね?もう一緒にはいられない。だって‥‥‥」
―――私はもう、死んでるんだもん―――
「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああっぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁああああっぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっっっ!!!」
目が見える。今度こそ完全な覚醒。日本に戻るまで、毎日似たような夢を見ていた。戻ってからも一回見たが、その後は見ていなかった。しかし、また見てしまった。
耳に残る甘く、気持ち悪い感覚。身体中がビチャビチャで服が肌に貼り付く嫌な感覚。全てが懐かしく思え、そして絶望のどん底に叩き落とされる。
彼女が、シルが居る夢から現実世界に戻ってきた事を身体中で思い知らされる。
あぁ、最悪だ。あのロリっ娘の魔法を防ぐ為に全魔力を使った辺りから記憶が無い。あの後ギルバはどうなった?冒険者は、タイト達は逃げ切れたのだろうか?
「ようやくお目覚めか。目覚めは最悪みたいだな?ハル」
先ほど、共に死線を潜り抜けた親友の声が斜め上から落ちてくる。そこでようやく、辺りに目を向けることができた。
夢と同じように両手足を縛られ、暗くジメジメとした空間に閉じ込められている。夢と違うのは目が見える事と、両手足を縛るのに使われている枷の冷たさが分かることか。ご丁寧に魔力を封じる特注だ。
「あぁ、服がビチョビチョだ。着替えたいんだがな。コレ、外してくれよ」
「フン、軽口叩いている余裕があるなら問題無い。これから鬼が来る。そんな余裕も今に続かなくなるだろうな」
は?鬼?なにをバカな事を言っているんだろうこの皇子様(笑)は。そんなアホな事言ってる暇が合ったら服を乾かして欲しいんだが。
「鬼とは誰の事かしらお兄様?まさか私の事じゃ無いわよね。ねぇ?」
鬼がいた。
ユリウス様は嘘を付いていなかった。いや、ある意味では嘘なのかもしれない。だって、鬼が可愛くみえるぐらいの恐さだ。本当に人間なのだろうか?この怒気と殺気を背に抱えている少女は。
「ハル、いい加減にしないと殺すわよ?」
「マジすんません」
即答である。
本気の殺気を浴びせられ、反射的に謝ってしまった。ここは強く出るべきだったのだ。流れを持って行かれないようにふんぞり返るべきだった。まぁ、もう縮こまってしまったので遅いが。
ティナに気を取られていたが、他にもこの牢獄(のような場所)に入ってきた者が光の当たるところまで歩み出てきた。
その姿に絶句してしまう。本来、此処に居るのは可笑しいのだ。何故なら、彼女はいま、迷宮都市にいないといけないのだから。黒髪に黒目。まだ年は5歳前後で将来は美人になること間違い無しの可愛らしい少女。そして、先代勇者が絶対に敵わない相手現在ナンバーワンの美少女。
「パパ‥‥‥お話、しよ?」
2-Dのアイドル、ハルの愛娘であるナギ本人だった。
勇者、捕獲完了
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時は少し戻り、ハルが全力の『終末』を放った直後。ロリっ娘と呼称された少女は、宙に浮いたままブスッとした顔でふてくされていた。
「ちぇー、あとちょっと魔力込めとけば良かったかなぁ。まさか、あんな魔力量で対抗してくるなんてって思ったけど‥‥防いだ上に街に被害が行かないように包み込むとか。どんだけ魔力制御巧いのよ腹立つわー」
少女が呟いたように、ハルとユリウスの全力の終末』は、自分達と『ギルバの都』の両方を無傷で守りきっていた。まぁ、守りきっただけで少女の方は無傷で尚且つ余裕はまだまだ有るという点も含めると大敗北な訳だが。
「全く、魔力量はワタシが勝ってたのに、どーして相殺されたのよ‥‥くーやーしーいーっ!!」
宙に浮いたまま地団駄を踏む様は少し、いやかなり奇妙に見えたが、幸いにも周囲に人はいない。ハルとユリウスも余波で吹き飛ばされて近くに姿はない。が、例外はあった。
ハルに投げ飛ばされ地面に突き刺さっていた黒い霧を纏った男は、霧の自動防衛が働いて突き刺さったまま余波から逃れていた。
「あ、『適応者』生きてんじゃーん。良かった良かった。改良点も見えたし、死んでたら怒られてたよ。いやー、危なかったわー」
『‥‥ギリギリだったぞ。自動防衛が働いて居なかったら消し飛んだか、『先代勇者』と『剣聖』のように余波に巻き込まれて行方知れずになっていた。もう少し考えて行動しろ」
「あ、あらー。近くに居たのですか?それならそうと言ってくれればいいのに。オホホホ‥‥」
地面に降りて『適応者』を引っこ抜いていると、どこからか男の声が聞こえてきた。姿は見えず、気配も感じないが、間違い無く近くにいる。
外見相応の話し方を辞め、大人の女性(?)のような喋り方に切り替える少女は、小さい子が大人の女性に憧れて無理やり変えている歪さを感じた。もっとも、此処にそれを指摘する者はいない。彼女の仲間内では、この件に関しては気付かない振りを続けるという暗黙の了解が出来上がっている。勿論、少女はそんなこと全く知らない。
男も、気づいてないという風を装い話を続ける。
『目的は災厄の一族の末裔の女と、『適応者』の能力確認だった筈。何故こんな所で油を売っている。『適応者』は良いとして、女はどうした。もう捕らえている‥‥ようには見えないが?』
「オ、オホホホ‥‥ちょ、ちょっと予定外の事が起きて、用意した魔物が全部死んじゃったんだよね。着いたときには肉塊に変わってたし」
口調が年相応に戻っているのにも気付かずに言い訳を並べ始める少女は、先生に怒られて言い訳をしている小学生のように見えた。こんなのが自分よりも強く、歳を食っていることに頭を抱えているような声で溜め息をつく男にビクッと震える少女を見て、また溜め息をつく。
『ハァ、まったく‥‥この状況で女を連れ帰るのは不可能だ。『あの方』の血を継ぐ方々が女の近くにいる。傷付けずに女だけを連れ帰るのは骨が折れる。第一に、我々は彼等に姿を見られる訳にはいかん。此処は、一旦出直すぞ』
「えー、サッと行ってパッと連れてくれば大丈夫じゃない?」
『駄目だ。帰還する』
そう言って、男の声は途絶えた。恐らく、空間魔法で帰還したのだろう。少女は、一度だけ街の方を見やると、
「先代は潰しときたかったけど‥‥まぁ、あの程度なら何時でもいっか。ワタシも帰ろーっと」
感想欄で、交互更新とか生意気な事書きましたが無理でした。本当に申し訳ありません。
これからも、書き上がった物をドンドン載せていこうかと思います(物凄く遅いですが)。
有言実行しない作者フザケンナ。と思うかもしれませんがご了承下さい。
見てくれる方がおりましたら、よろしくお願いします