少女
遅くなり申し訳ありません。
言い訳をするようですが、大学受験に向けて執筆をお休みさせて頂きました。無事に終わりましたので、またゆっくりと更新していく予定です。
まだ見てくれる方がおりましたら、これからもよろしくお願いします。
「なっ、なんだ、今の威力は‥‥‥」
二つの魔力を束ね、一つにし放出するのではなく、わざと暴走させその威力を何倍にもして広範囲に撃ち出す。それがハルから聞いていた『終末』だ。だが、今のこれは、六年前の物の比ではなかった。
範囲こそ抑えられていたが、本来暴走させて周囲に放つ物を、暴させたまま制御し、更に範囲を指先と言う極小の範囲に抑えた物だった。しかも、範囲を指先に抑えた為に射程があり得ない程に伸び(ハルも想定外)山をも切り崩してしまった。
これはもう、ユリウスが話に聞いていた『終末』では無い。
放心状態のユリウスの横で冷や汗をダラダラと垂らしているハル。自分の予想では魔物達だけのつもりだったのだ。それが、何でこんな事に‥‥と、頭を抱えている。
「‥‥‥ッ!!」
そんな二人を放っておいて、黒い霧を纏った男が無言で走り出す。明らかに勝てない相手だとわかり、その場から逃げ出そとしたようだ。が、そんな事をさせるはずもなく、
「どこに行こうとしてるのかなぁ?」
「まだ話を始めてもいないだろう。ゆっくりと話そうじゃないか。な?」
ニッコリと笑っているハルとユリウスが、こんな時だけ息を合わせて男を捕獲する。聞きたい事は山ほどあった。
男の頭を鷲掴みにし、無理矢理地面に座らせる。魔物達の死体処理や冒険者達は後回し。逃げるだけの知能がある男から出来るだけの情報を集める事が最優先だ。
「さて、この霧はどこで手に入れたのかな?あと、できれば貰った奴の特徴を」
「もう逃げるなんて考えるなよ?コイツは元勇者だ。下手な抵抗は無駄に血を流すことになる」
「ヒッ!?」
剣聖と元勇者の威圧で、声が出なくなってしまったようだ。さっきから思っていたが、やはり黒い霧を持っているだけの一般人。全くと言っていい程に、戦えるような感じはしない。
「オ、オレモ何デコンナところニイルノカワカラナイんだ。気ガついたらココにイテ、眠ッてタのにムリやりオコされタヨウナ‥‥‥」
男はゆっくりとだが、自分の置かれた状況を話し始めてくれた。が、大した情報は無かった。唯一解った事と言えば、
「精神系の複合魔法。いや、エルフの使える古式精霊術か」
「あぁ、だがおかしい。確かに古式精霊術の反応はあるが、魔術を使った時に感じる、魔素から魔力に変換された魔力の感じも僅かだがする。これどうなってんだ?」
「僕が知る訳無いだろう」
お忘れかもしれないが、今現在魔術が使えるのは世界でハルだけである。精霊術に関しては皐月も使えるので、世界で唯一ではなくなっているが。
「さて、ユリウス、お前コイツ連れて後ろ下がれよ。俺は‥‥‥そこに隠れてる奴の相手しなきゃだからさ」
「いやいや、お前が下がれ。そして子爵邸で正座してろ」
「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」
二人で見つめ合い、お互いニッコリと笑みを受けべる。面白い事言うユリウス君には、ちょっとお仕置きが必要ですね。
「だったら二人とも下がってて貰えません?」
『終末』の範囲から逃れ、木影に隠れていた奴が、ようやく姿を表した。投げられたら短剣はオマケだ。
短剣を叩き落として相手を見つめる。すると、そこにいたのは10歳前後の女の子だった。ただ、見かけに反して内包している魔力はユリウスを軽く越えている。
「ユリウス、おまえ邪魔」
「なっ!?おま
「え」と、言わせる前に後方にぶん投げる。ついでに、黒い霧を纏った男も投げておいた。『適応者』なのだから、ある程度は頑丈なのだろう。ユリウスは知らん。
「あれ、1人で私の相手をするんですか?‥‥見た目で判断してるならガッカリです。勇し「うるせぇ」‥‥ブッ!?」
目の前で余裕そうにしてバカにしてきた少女の顔面を躊躇わずにぶん殴る。これに反応出来ず魔物の死骸の山に一直線で突っ込んで行くのを見ると一言。
「さて、逃げるか!!」
この男、いざという時はヘタレる癖に、こういう時だけは思い切りが良いクズ野郎である。
「くっそ‥‥‥あのバカハルめ、容赦なく投げおって‥‥‥」
ハルに邪魔だと言われ冒険者達がいる前線まで高速で投げ飛ばされたユリウスは無傷でそこに立っていた。『適応者』である男もユリウスから少し離れた場所に頭から突っ込んでいるが、足がピクピクと動いているので問題なさそうだ。そう判断し回収は後回しに決める。
「私はフィルニール皇国第一皇子 ユリウス・フォン・フィルニールである!!指揮官は何処だ!?」
息をスゥッと吸い込み、思い切り叫ぶ。近くにいた冒険者は思わず耳を押さえ直には動けそうになかった。そんな中から、1人の男が耳が傷むのか少し苦しそうな表情を浮かべながらユリウスの前に跪く。
「此処の指揮を預かるドゥールと申します。此処には何故‥‥?」
「そんな事は今はどうでも良い!!今すぐに全員後退させろ、此処に居られては邪魔だッ!!」
「は?いや、しかし‥‥‥」
「今は貴様と話している暇は無いっ、サッサと下げろ!!」
「‥‥‥全員、門の前まで下がれッ!!今すぐにだ!!」
温厚と聞いていた皇子の、鬼気迫る様子を見てドゥ―ルは言いかけていた言葉を飲む込み後退の指示を出す。
本当なら、今すぐに前に突っ込み、山を崩した相手が味方か敵か調べ、魔物の残党が居ないか確かめなければならないのだが‥‥‥勇者パーティーの一員であり、『剣聖』の称号を持つユリウスが吹き飛ばされた事を考え、後退する決断を下す。
が、その決断は少し遅かったようだ。ドゥールが分かったのは『何か』が飛んできて、自分が宙に浮いている。これだけだった。
「うがぁぁぁっ!!くっそ、なんなんだよアイツ!?吹き飛ばして逃げたのになんで俺の前にいやがる!?」
あと、一人だけ地面に接し尻餅をついている、黒髪で片腕が義手の少年の姿。
その姿は、五年前、此処がまだ帝国で、そして帝国崩壊の日。目の前に広がる草原で行軍していた兵士五万人を一瞬で塵に変え、城にいた王族を皆殺しにした『勇者』と同じ容姿をしていた。
「ハルッ!?」
皇子が驚愕を隠さずに零したその愛称は、自分達の知る勇者のものだった。
まだ近くにいた冒険者や、周囲の部下たちは一瞬、静まり返り‥‥
「ウワァァッ!?」
「勇者だぁーっ!?」
「逃げろ、塵にされるぞぉー!!」
「ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!?」
「許してくれぇっ!まだ死にたくないっ!!」
パニックに陥り、一目散に逃げていった。そしてその逃走は瞬く間に広がり、僅か五分でハルとユリウス。地面―――に突き刺さったままの男以外は周囲に居らず、伝令よりも先に街へと走っていく後ろ姿が見えた。
「‥‥お前、怖がられすぎだろう」
「うるせぇよ」
尻餅を着いていたハルが服に着いた汚れを落としながらゆっくりと立ち上がると、それを待っていたかのようにユリウスが駆け寄ってくる。
「お前、どこから飛ばされてきた?あの少女を吹き飛ばしていたのは見えてたんだぞ?その後、お前が飛んできた方に逃げて行った所もな」
「全部見てたのか。つか、見れたのか‥‥飛んでった方になんでか知らんが吹っ飛ばした筈のロリッ娘がいて、逆に吹っ飛ばされた」
邪魔と言って吹っ飛ばしたユリウスは一部始終を全て見ていたようだ。普通は空中で体勢を変えるなんて事はできない筈なのだが、これもハルを捕らえる為の執念か。それとも、少女から感じた尋常ならざる魔力のせいか。前者だった場合、ハルは此処から一刻も早く逃げ出したいものである。
「なんでアタシがアンタの前に居たかって?そんなの転移したからに決まってんじゃん‥‥っ!!」
「‥‥ッ!?」
考える暇もなく、突如目の前に現れた少女に今一度吹き飛ばされるハルとユリウス。左右にそれぞれ吹き飛ばされるが、ユリウスはすぐに体勢を立て直す事ができた。それはなぜか?答えは簡単。少女はユリウスには目もくれず、ハルに向かって一直線に駆け出したからだ。
当然、吹き飛ばされて体勢を立て直す余裕すら無かったハルは頭上に現れた少女からの拳を何の構えも無く腹に食らう。
「ガハッ‥‥!?」
「勇者はアイツに一度勝ったって聞いてたんですが‥‥ガッカリです。まぁ、もう『勇者』を持っていないのですから、こんなものですか」
「ハルッ!?」
吹き飛ばされて距離が離れた所からユリウスの声が響く。が、それに返事を返す余裕は今のハルには無い。腹の痛みを堪え、アイテムボックスから出した魔導剣で二撃目を繰り出そうとしている少女に向かって横凪に振る。が、
「そんな苦し紛れの攻撃、当たる訳が無いでしょう?」
ハァ、と溜め息を尽きながら楽々と避けた少女の蹴りが横腹に決まり、ゴロゴロと転がっていくハル。そんなハルに少女は追撃せず、冷めた目を向ける。
「チッ、『聖魔融合』‥‥ッ!!」
この少女は魔力が高く、実現不可能と思われていた魔法陣無しでの転移を難なくこなしていた為、魔法主体の戦闘スタイルという考えを捨て、最初から切り札の『聖魔融合』で勝負を付けると決めるが、少女の姿は目の前には無かった。
「ハッ!?どこ行きやがったアイツ!!
「後ろですよ」
「‥‥‥ブッ!?」
声が聞こえた瞬間振り向いたが、防御は間に合わず顔面に思いっきり右ストレートが決まる。そのまま吹き飛ばされ、地面を転がる所をユリウスが抱き留める。間一髪、と思ったのも束の間、ユリウスに礼をいう前に少女の魔力が一気に膨れ上がる。
「ハァッ!?」
「なんだ、あの魔力は‥‥‥ッ!?」
「もう良いです。全く、魔王城ごと魔王のクソガキを吹き飛ばしたと聞いていたのですがね。本当に期待外れですよ、勇者。‥‥死んで下さい」
先のハルが使った『終末』の二倍から三倍の魔力が込められた超巨大な初級魔法、『ファイヤボール』がハルとユリウスを照らす。正確に魔力が計れない子供が見たとしても、ここら一帯を吹き飛ばす程の威力があるのは分かるだろう。ましてや、『勇者』と『剣聖』程の実力者は、ここら一帯どころかギルバの都が半分は無くなる威力で有ることが分かっていた。そして、ファイヤボールの落下地点にいる二人が、当たったら骨も残らないなど分からない筈もない。
‥‥当たったら、の話だが。
「ユリウスッ、魔力全部寄越せっ!『終末』で対抗するっ!!」
今度は指先ではなく、空に掲げた両手に目一杯の魔力を注ぎ込んでいくハル。それに何も言わずに魔力を渡していくユリウスも、どちらも必死の形相。これを防ぐ、または消滅させる事が出来なければ自分たちとギルバの都にいる住民達、まだ街に入ったばかりであろう冒険者達は皆死んでしまうのだ。此処で必死にならず何時なるのか。
そんな様子を見てニヤニヤと笑う少女が、面白がってハルの準備が整うのを待ってからファイヤボールを振り下ろす。
「ッッ――――――――――ッ!!」




