嫌いじゃありません
一番最初にステータスを開けたのは、俺がクラスで、あの三人意外では一番仲がよかったかなー?と思う下駄箱の場所を間違えてしまった蓮見だった。
「流石、元中二病患者だな。中学の頃の黒歴史が役に立ったか?」
「うるっせーぞ元勇者!目の色変わってるし、今はお前の格好の方が中二病の塊だろ!!」
コイツ‥‥ステータス開けたからって調子乗りやがって。
「いいからやり方説明してやれよ『漆黒の暗殺者』クン?」
蓮見がその場でうずくまって叫ぶ。
「やめろー!その名前で呼ぶんじゃねーよ!!」
「なんだよ、中学の時、夏なのに暑そうな真っ黒コート着てきて生活指導の先生に『我は漆黒の暗殺者なり!!』なんて言って校長室行った蓮見クン?」
「マジで勘弁してくれ‥‥うぉお!?ステータスの称号に『漆黒の暗殺者』が追加されたぁ!?」
‥‥マジか。
ハルは『漆黒の暗殺者』(笑)で遊ぶのを止め、蓮見の手を掴む。そして急いでステータスの確認を行うためにボーッと突っ立っていたティナの元へ向かう。
「ティナ!コイツのステータスを表示してくれ!!」
さっきまで大爆笑していたハルが、いきなり血相を変えて飛び込んできたのだ。反射的に引いてしまうティナ。だがそれを逃がすまいと腕を掴んで蓮見に触れさせる。
「早く!ティナ!!!」
「わ、わかったわよ‥‥『我、女神の代行者。汝の力、我に提示せよ。ステータス・オープン』‥‥‥なんで?」
聖女になった者の特権で、女神の代行者と自分を偽り、相手の承認さえあればステータスを他人の目にも見えるよう表示させる事が出来る。聖霊王のやっていた『言霊』がグレードアップしたものだ。まぁ、今はそんな事はどうでもいいとして、問題はコイツのステータスだ。
蓮見 廉太郎
称号 異世界人
漆黒の暗殺者
スキル 異世界言語
魔法 闇魔法初級
まだ此方に来たばかりで、適性属性の検査も何もやっていないから寂しいものだが、蓮見のステータスには称号と魔法が乗っていた。俺も持っていない。いや、それどころか俺の知っている限りでは殆ど居ない闇魔法の使い手。この城の中で使えるのはレラとラフムぐらいの物だ。因みに、この魔法は一万人に一人の割合と言われている。
「何なの?俺何か不味い事した?だとしたら謝りますから。何か喋って下さい‥‥」
泣きそうになりながら話す蓮見‥‥良く見たらティナの他にも色々と集まって来ていた。そりゃ泣きたくもなるよ。
「あ、あぁ。何でもない。別に悪いことじゃないし、大丈夫だ。アイツらにステータスの出し方教えてやってくれ」
まだ不安そうに此方をチラチラと見てくる蓮見を蹴飛ばして、俺は直ぐティナに向き直る。
「なんでいきなり称号と魔法が発現してんだよ?」
「私に分かるわけ無いでしょう?女神様から何か聞いてないの?」
そう言われて女神との会話を思いだす。
『うー‥‥で、では他の皆さんになにかしらの特技みたいなものを‥‥』
言ってましたね。別に特技じゃないけど、『みたいなもの』だからなぁ。称号とかでも可笑しくは無いな。他の奴らにも称号か魔法、叉はその両方が最初から発現してる可能性が出てきたなぁ‥‥頭痛い。力の使い方が分からないのに持たせても危険なだけだろうが‥‥‥
「あぁ、言ってたよ。似たような事を」
「じゃ、別におかしいことじゃ無いのね、なら良いんじゃない?使える戦力は多い方が良いんだし」
まぁ、そうなんだけどさ‥‥自分は苦労して適性魔法じゃない聖魔法と土魔法覚えたのに、アイツらはなんの苦労もなく何かしら一つ持ってると思うと、なんか悔しいんだよなぁ。
「ほら、ハルも行って来なさいよ。何人か出せるようになったみたいだけど、それでもまだ10人も居ないんだから」
ティナの言うとおり、ステータスを開くことが出来たと喜んでいるクラスメートが何人かいた。
「ヘイヘイ。行ってきますよ」
そう言って皆の元へと駆けていく。
途中、視界の端に『私は魔力の流れから教えようと思ったのに、何故それを飛ばすのだ?』と、ブツブツ言っている騎士団長が見えたが、無視する事にした。
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皆がステータスを開き、魔法適性を調べ終わったのは、日が暮れる直前だった。
朝からやってこれかよ‥‥‥
「取りあえず、皆終わったな‥‥こんなに時間掛かるとは思わなかったけど、取りあえずお疲れ様。明日からは本格的な訓練だ!皆、遊べるのは今日までだ。腹一杯食えよ!!乾杯!!!」
『乾杯!!!』
俺の挨拶で夕食が始まる。まず聞かれたのはやっぱり腕と、突然色が変わって戻っていた目のこと。これは少しの説明で済んだ。ユリウス達から俺がどこに行ったか聞いてたみたいだしな。問題はナギだな。もうこれには全員から嵐のような質問責めをされた。日中はクレアが別の所でキナも混ぜて色々と遊んでいたし、コイツらもステータスを開こうと必死だったから何も無かったけど、夕食の前に迎えに言ったら「パパー!!」って言って抱きついてくるから、そこから今まで殆どこの話題だった。ホントに疲れた‥‥‥
ナギが眠くなって、身体がユラユラ揺れ始めた所でクレアとキナが引き取りに来て、そこでナギの話は終わり。そこからはこの世界の事を話したり、ラフムとユリウスが飲み比べをしたり、研究室に籠もっていたレラが新しい魔法の実験と言ってユリウスを連れて行こうとして必死に止めたりと、楽しい夜だった。
その後、ナギが寝る前に「いっしょにねるのっ!!」と言っていたので朝起きたときに居ないと怒るだろうと言われ、キナに寝室へと案内される。が、その前に一つ、やることがあった。
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「キナ、お前の家はダスクか?」
面倒くさい前置きは全部省いて、ハルはキナに、昼間聞きたかった事を聞いた。
「はい。私の家はダスク家ですよ。キナ・ダスクです。父が御世話になったそうで、いつもアナタの事を嬉しそうに話しておりました」
「そうか‥‥元気か?」
「えぇ。五月蝿いくらいです」
「そりゃ良かった‥‥」
ダスクのおっさんは俺が、俺達のパーティーが一番信頼している貴族だ。この国を出るとき娘さんが八人でいて、末の娘は寮が付いてる学校に通っていて今は居ないから残念だって言ってたけど‥‥‥
「お前の事だったんだな。おっさんが、お前は姉妹の中で一番しっかりしてるから、お前に嫁いできた婿殿と、姉妹みんなでこの領地を守ってほしいって言ってたぞ。普通有り得ないよな?末っ子の婿を領主にするって」
「まぁ、家の父や姉達はちょっと、いえ、かなり頭が悪いので、平気でこんな事を頼んでくるんですよね‥‥いい迷惑です」
迷惑なんだ‥‥‥可哀想に、おっさんファイト!
頭が悪いのは俺も同意見だから置いておこう。あの人は奥さん居ないと三十分も机に向かってられないからな‥‥‥よく今まで持ったな?
「ま、まぁそれはいいとして、なんでそんな時期後継者ともよべるお前が、こんな所で付き人やってんだ?」
「父に言われたので。『この国にお前に見合う男は居ない‥‥が、先日陛下から新たな勇者を喚ぶ事にしたと言われてな!そこで私は確信した!!アイツが戻ってくるとな!!!と言うわけで、勇者の付き人にお前を推薦しといた。アイツじゃ無かったら戻ってこい。アイツだったら一緒に世界を見てこい。なぁーに!ちょっとした社会見学だ!!安心して言ってこい!!!』と言われてそのまま放り出され、今に至ります」
「‥‥‥アイツでゴメンナサイ」
なに言ってくれてんの?あの筋肉ダルマ!?どこかに俺が戻るって確信できる様なところあったか!?
「いえ、問題ないですよ。それに、私は家を継ぐ気は無いので。勇者様の、いえ元勇者様の妻にでもなって楽に暮らせないかなーって考えてますので」
「あ、そう。頑張って。聞きたいことは聞いたから、お休みな。送ってくれてサンキュー」
ちょうど部屋の前に着いて、逃げるようにして部屋に入り布団に潜ってナギを抱き締めて目を閉じる。
いきなり何なんだよアイツは、俺が今、どういう状態なのか知ってる癖に。俺はもう、愛する人なんて要らない。居たとしても、守れない‥‥‥
「むぅ、予想以上の反応でしたね。そういう話自体がタブーですか」
部屋の前で考え事をするキナ。そして最後に一言。
「こういうのは直球勝負に限りますね。面白いくらい動揺してました‥‥父に言われたもう一つの任務、必ず果たさせて頂きますよ」
キナの父、グレイからのもう一つの任務。それは‥‥‥
『シルヴィア様を失い、アイツは今人を愛するという心に蓋をしてしまっているだろう。それではこの先楽しくないし、男として成長できない!!だから、それをどうにかしてこい!!!』
会ったこともない男の、女を失った悲しみをどうにかしろとは無理難題を押し付けてくれる。
まったく、困った父だ‥‥まぁ、守ってあげたい。そう感じさせてくれる男の子ですね‥‥‥嫌いじゃありません。