演ずる
「はじめまして。私はルーさんの妻のマチルダと言います。」
今日のために髪色を染めて瞳の色もカラーコンタクトで誤魔化した。
今の容姿よりも地味に見えるように。
「今はルーさんとルビーと一緒に育英都市で暮らしています。
ルーさんと協力をして学生業と家庭の両立がようやく取れてきたところですね。」
ありきたりな生活感を言葉から演出する。
馴れ初めは二人で考えた設定をもとに。
1割の真実に残り、9割の嘘。
嘘をつくことが得意な私だから平然としていられる。
「ルーさんには不満は1つしかありません。」
こうしてご両親に、会う機会をなかなか作ってくれなかったことです。
今日、その不満もなくなってしまったので、理想的な家族ですね。
笑顔でカイルさんを笑わせにかかる彼女、プロである。
「…どうしたんだ?リル?ルーがせっかく妻子を伴ってくれたというのに。浮かない顔をして。」
両親への顔合わせも、両家への顔合わせもなしに結婚を決めたことを重箱の隙をつつくように話しだした。
ああ、このくらいならかわせる。もっときつい言葉のイビリだって何度もお芝居でやってきた。
「私に…気を使ってくれていたせいなんです…。」
私には両親が居ないから。
多分、それで気を使ってくれていた。
だから、今日までご両親に私達のことを黙っていたんでしょう?
マチルダの迫真の演技に頷くしかない。
「…っ。」
流石にリルさんもマチルダの言葉に返す言葉もない。
ルーには最終的に帰る家があるけれど、マチルダにはそれがない。
それを理由に出されては納得するしかない。
その後のことは覚えていない。
ただ、和やかな茶会があったことだけだろうか。
「ありがとう。マチルダ。」
マチルダの両親がいないとの言葉以降、リルさんの責めた言葉はなく事は丸く収まった状況になった。
マチルダの言葉は本心なのか、嘘なのか分からないけれど。
「…なぁ。マチルダ。どうやったら上手に嘘をつける?」
夕暮れの色を映す瞳はどこか遠くを見つめる。
たくさんの嘘をついても、たった1つだけでも真実があるのなら嘘にはならない。
尊敬する女優の言葉なのだと語る。
「始めてドラマの子役として出た時に主演をしていた女優さんの受け売りなのよ。」
演ずることはたった1つの真実を輝かせて周りの嘘を本当に思える錯覚を起こさせること。
見る人がお芝居と理解しててでもお芝居と思わせないこと。
だから、嘘をつくことではないと。
「彼女の演者としてのプライドと意地を知って、私もこうなれたらって追いかけ続けた存在かな。」
マチルダがそんなふうに言う人を訪ねてみたら、今でも演者として第一線の大物女優であったことは後に知ることである___。




