相互理解
「…マチルダ、今日ルビーを寝かしつけたら話したいことがある。」
なんてことない学校のある日、昼休みにためらいがちに声がかかる。
ここしばらく深く悩み込んでいるような、心ここにあらずのような浮かない表情をしていることが多かった。
まさか、そのことなのかな?
「お疲れ、マチルダ。」
ルビーを寝かしつけてリビングへ顔を出すと、マグカップを差し出される。
いつも飲んでる紅茶の甘い香りがする。
一口飲んで、本題が示された。
「…実は、ストーカーに追われてるみたいで。」
ためらいがちに、シンさんに相談をしてから話していると伝えられる。
山田さんのメモリー投影で彼の生い立ちを知らされた。
彼はルビーと同じ捨て子から被験者となり、高等教育都市へ入り、今ここにいる。
未来のルビーの選択肢の一つを見せられているようだったというくらい特筆すべき点はない生い立ちだと思う。
仮親のほとんどがこの道を通ることが多い典型例と言えるとも思う。
「それで?この生い立ちにあなたの素性や国との契約を脅かす人物は見当たらないけど?」
山田さんが投影するホロ写真。ある一点を指して言う。
彼女、仮親のリルさん…。
深くため息をつき、どう話すかを逡巡する。
「俺が6歳になる少し前、仮親の2人は仮親の枠を超えるくらい親密で、でも入っていけなくて。」
仮親の関係性がProjectの核となる。
仮親と被験者との関係性は比較的良好な関係を築きやすい一面で、仮親同士はいきなりの初対面からの関係構築になるために相互の行き違いも多々あることが現状課題として挙げられていた。
「仮親の二人からはProject完結後も一緒に居たいと望まれていたんだけど。」
違和感が拭えないなかで世界政府は未来通知を送ってきた。
高等教育都市へ進む道を示すそれに、違和感から逃れる術を見いだした。
「お二人には何も話さずに育英都市を離れた。
そして、マチルダと同じように高等教育都市ダイアログで教育を受けて今ここに居る。」
ルーの生育の過程は断片的な言葉やルビーに重ねている節があったために少しは理解していた。
その上で、今回ルーに迫っているのがルーの仮親、マザーたるリルさんなわけで。
私も今後ルビーがその道を選んだとして果たして大人しく身を引けるのだろうか?と少し首をひねってみる。
「なるほど。ある程度は理解できた。
リルさんは子離れできなかったんだね…。」
少し寂しそうな横顔に、マチルダとルビーの関係に思いを馳せて重ねているのだろうかと考える。
作戦に大切なことはマチルダの理解と協力。
お互いに理解ができた今なら助け合えることもあるんじゃないだろうか___。




