#90 持つべきものは強力すぎる仲間
「それじゃあ、お邪魔させてもらうわね」
放課後、今日は帰路に仲間が一人加わった。
「邪魔なんて……花森先輩のおかげで助かりました!」
腕をぶんぶんと振りながら、熱弁する小野寺。
「私はあなた達のクラスに顔を出しただけよ?」
謙遜したように言う花森先輩だったが、俺も小野寺と同じ意見だ。
花森先輩の予想通り、弥勒寺先輩はクラスまで迎えにきた。しかし――
『あら、弥勒寺先輩。……誰にご用ですか?』
『……穂乃果か。ちょっとな……』
『――私と同じで小野寺さんに用があったり?』
『なっ……!』
図星を突かれ、弥勒寺先輩は一瞬取り乱した表情を見せる。そして、教室内――小野寺と並ぶ俺に気付くと、鋭い視線を飛ばして退散していったのだ。
これを花森先輩の活躍と言わずしてなんと言うか。
「あの時の弥勒寺先輩の顔、今でも鮮明に思い出せますよ」
「間宮君も意外と言うのね」
「今朝やられっぱなしだったっていうのもあって、ちょっとスカッとしたんです」
「で、でも……! 昇降口で私の前に立ってくれた光君、格好良かったよ!」
「そ、そうか……」
さっき花森先輩に向けたのと同等の熱で迫られ、思わずたじろぐ。
俺にとって、あれは負け戦だったし不甲斐ない出来事の一つだ。だからこそ、花森先輩が撃退した時に自分のことみたいに爽快な気分になったわけだし。
それをこうして小野寺から格好良かったと称されると、むず痒いというかなんというか、負けることが恥ずべきことではないんじゃないかと思えてくる。
「二人ともお熱いのね。あったな、私達にもそんな頃が……」
「ちょ、ちょっと花森先輩……!」
目線が遠くに行くにつれて、どんどんと光を失う花森先輩の時間旅行を慌てて止める。
「……あ、ごめんなさい。私ったら、青春の輝きを見て気が動転したみたい」
……おいおい、大丈夫かよ。
この時初めて、俺は花森先輩に対して不安を感じた。
「そんなことはさておき、間宮君は平気なの?」
「何がですか?」
「帰る直前の弥勒寺先輩に睨まれてたじゃない」
「え! 光君、そうだったの?」
「今朝の件もあるし、きっと顔も覚えられちゃったわよね……」
「あー……」
俺としては、あの意識のされ方を前向きに捉えていた。ここは二人の杞憂を払拭する為、説明した方が良さそうだ。
「あれくらい俺のことを意識してくれてた方が、宣戦布告に乗ってくれやすそうじゃないですか?」
今回の作戦で一番最悪の結末は、俺の誘いを弥勒寺先輩が意に介さないことだ。それを回避する為、俺という存在を弥勒寺先輩の中で排除するべき敵と認識させる必要があった。
「たしかに、彼の性格だとそうかもしれないけど……」
「……危なくないよね?」
「うーん……正直それは保証できない……」
だって弥勒寺先輩のこと詳しく知らないし……。急に知り合いの不良を連れてきて襲われたりしたら、俺に勝ち目はない。
「物騒なことになるのも怖いし、早めにマラソン大会のイベントを告知した方が良さそうね。そうすれば、弥勒寺先輩も勝負の舞台にそこを選ぶだろうし」
「内容ってもう決まってるんですか?」
小野寺の質問は最もだ。花森先輩は、すでに案が固まっているような口振りだった。
「おおよそね。あなた達の推薦してくれた最上先輩、すごいデキる人だから」
すごいな……話が決まってから一日しか経ってないのに…………あれ?
「話し合いって放課後にやるって言ってませんでした? けど、花森先輩は今……」
ここにいる。今日の放課後に話し合いを設ける時間はなかったはずだ。
「言ったでしょ? あの先輩、本当に優秀なの」
「まさか……」
俺は驚きというよりも、恐れに近い感情を抱いていた。
「昨日の話しの後、最上先輩がいくつか候補を出してくれてね。LINEで軽くやり取りをするだけで終わっちゃたの」
さすがと言うべきなのだろうか。文化祭の時から思っていたが、仕事の手際が良すぎる。もしかしたら俺は、とんでもない先輩とお近づきになったのかもしれない。
お読みいただき、ありがとうがとうございます。
面白い、続きを読みたいと思ったら、☆評価や感想などを頂けると励みになります。




