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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#91 運命の紺の縄

「それで、間宮君は何を買いにいくの?」


「マラソン大会に備えてランニングを始めたので、その為の靴と縄跳びですね」


「縄跳び……?」


 俺の返答に花森先輩は疑問符を浮かべている。


「ランニングを毎日するのは体に良くないみたいで、走らない日は縄跳びで持久力をつけるんです」


「へぇ……」


 そう補足すると、花森先輩は感心したような声を上げた。


「牧野君が先生なら、心配いらないよね」


「うーん……俺は少し不安だな……」


「どうして?」


「だって、昨日軽く走っただけで筋肉痛がひどいし……」


 定期的な運動が大事だという話は聞くが、まさかここまで体が衰えるとは思っていなかった。階段の上り下りで息を切らす日もそう遠くないのかもしれない。


「大丈夫だよ! まだ時間はあるし、えっと……私も応援するから……!」


 小野寺の鼓舞を、慰め程度に感じる人もいるだろう。しかし、俺に限ってはそうならない。好きな人に応援されて頑張れない男が、この世のどこにいるというのだ。


「それは心強いな。……できれば当日も応援してもらえるとありがたいんだけど」


「もちろんだよ、任せて!」


 出会ってから数ヶ月経って、小野寺のこういう力強い一面を目にする機会が増えた。

 小野寺が素を出し切れていなかったとはいえ、”高嶺の花”だなんて言い出したやつの気が知れないな。あえて名前をつけるなら、荒野に咲く――


「光君、難しい顔してどうしたの?」


「……いや、なんでもない」


 そんな調子で雑談をしている間に、目的のショッピングセンターに到着した。

 花森先輩の帰りやすさも考え、俺の家よりも学校に近い方を選んだ。


「ここって……」


「何か見覚えでもあるの?」


「ハロウィンの時、ここに買い出しに来たんです」


 この間のハロウィン――矢野に仮装を買わされ、小野寺に名前で呼ばれるようになった日のことが頭を過る。

 あの時、俺も酒入りチョコで酔えば小野寺のことを名前で呼べたのだろうか。……いや、それだと二人して酔っ払って会話が成立しなくなりそうだ。それに、俺はきっとチョコでは酔えない。あの手のお菓子で酔うのはヒロインの特権なのだから。


 店内に入って最初に進路の確認をする。

 今日の買い物は俺一人じゃない。二人を連れてあっちこっち移動するわけにはいかなかった。


「まずは縄跳びからだな……」


 館内の地図によると、ここからはスポーツ用品店の方が近いらしい。俺は自分が先導することを意識しながら歩き始めた。

 そして、無事に大人用縄跳びを見つけたのだが……


「結構色んな種類があるのね」


 大型商業施設に店舗を構えるだけあって、コーナーはさすがの品揃えといったところだった。

 持ち手の素材、縄の素材、重みや回数測定など、商品によって様々な特徴が見られる。


「光君、見て……!」


 小野寺が差し出したのは、一見普通の縄跳び。しかし、その縄跳びには”縄”がなかった。


「これ、どうやって使うんだ……?」


「縄がないから室内でも使えるみたい。飛んだ回数は、持ち手が数えてくれるんだって」


 室内でも飛ぶんだったら、うるさそうなものだけど……。

 それに今回は公園での使用を想定している。数も自分で数えられるし、縄があった方が使い慣れている。結局、なんの変哲もないスポーツ用縄跳びを選ぶことにした。


「あとは色だな」


 この商品、縄跳びには過剰なくらい色のバリエーションがある。


「赤、黄、ピンク、オレンジ、青、紺、緑、黒……虹みたいで綺麗だね」


「そうだな」


 同じ景色を見ていても、人によってその捉え方は異なる。俺のつまらない物の見方から見える世界と、小野寺の豊かな感性で見る世界は全然違うのだろう。彼女と一緒にいると、その世界の断片を覗き見ることができるようで、心躍る気持ちになる。


「せっかくだし、小野寺さんに色を選んでもらったら?」


「私ですか?」


「うん。だって、間宮君は小野寺さんの為に頑張るわけでしょ? トレーニングで折れそうになった時、縄跳びを見てもう一度立ち上がるの。『俺は、小野寺の為に勝つんだ……!』ってね」


「その無理矢理の低い声は、俺の真似ですか?」


「どう? 似てた?」


「いえ、全く……」


 けど、花森先輩の話は、あながち冗談というわけでもなかった。

 挫けそうになった時、奮い立たせてくれる物があった方が頑張れる気がしたのだ。


「小野寺、選んでくれるか?」


「いいの? 私が選んじゃって……」


「むしろ、小野寺だから選んでほしいんだ」


 俺の言葉を受けて、小野寺は縄跳びの列に向き合う。


「じゃあ、紺色……。私の好きな色だから……」


 俺と小野寺を繋ぐのは、運命の赤い糸ではなく紺色の縄跳びとなった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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