#73 蓮の打倒お見合い術 その1
対お見合い同盟結成から一夜明けた火曜日の昼休み、俺達は中庭で作戦会議を開いていた。
「ひとまず、土曜のお見合い当日までにできることを考えなくちゃだね」
「そうだな。……ただ、相手は誰か分からないから、特定の個人に刺さりそうな対策も取れない。だから、万人に対応できる作戦を考えようと思う」
「そんな作戦があるの?」
矢野の問いかけに、俺は首を振った。今言ったのは、核心に触れない誰にでも言える解決策だ。
その内容を具体的にする為に、全員の力を合わせたい。
「要は、渚と相手の関係を進展させなきゃいいのよね?」
「そうなるな……。なんか方法でもあるのか?」
「言ったでしょ? 私は、これまでいくつものお見合いを蹴ってきたの。それでも、どうしても行かなきゃいけないことが何度かあってね。その時の秘技を伝授するわ!」
かつて、ここまで頼りがいのある蓮がいただろうか。いや、いない。(個人的には選挙の時に世話になったが……)
たしかに蓮は、これまで全てのお見合いをふいにした、翔太一筋の乙女だ。ネット上のよく分からない入れ知恵よりも、結果を出した友達の情報の方が有力なのは明白。俺は暗闇に光が差したと、蓮に続きを話すよう求めた。
「それで、その秘技って――」
「……落ち着きなさいって。いい? これはロールプレイが大事なの。――光、あんたお見合い相手やりなさい」
「え?」
急な指名に思考が追いつかない。
……俺が、お見合い相手?
「実際のお見合いを想定して、今から渚には経験を積んでもらうわ。光をお見合い相手だと思って、ね」
「ちょっと面白そう! 渚ちゃん、光君、頑張って!」
「うん、分かった……!」
「……そういうことなら了解だ」
俺が敵役というのは少し納得がいかないが、翔太にやられるのも複雑だし、同性でやるのも勝手が違うはずだ。ここは腹を括るとしよう。
「じゃあ、まずは顔合わせのところからね」
「顔合わせって何するんだ……?」
「食事しながらのお見合いだから、お互いが席に着くシーンよ。ここで早速、秘技の一つ目が使えるわ」
「では、先生。一つ目の秘技をお願いします」
翔太の仰々しいお辞儀を受けて、蓮は満更でもなさそうに胸を張る。
「一つ目は、”挨拶は下手くそにすること”よ」
「はぁ……」
本当に大丈夫か?
思わず漏れた声に、蓮が鋭い視線を飛ばす。
「何か文句でも?」
「いや、案外普通……というか細かい技なんだなって」
「何言ってるの、挨拶で第一印象は大きく変わるのよ! まずは雑な挨拶で好感度を下げる、これが鉄則なんだから」
「下手くそな、挨拶……」
響きを確かめるように、小野寺は伝授された技を呟く。
「そうよ。……渚、やってみて」
「う、うん……」
小野寺はそう言うと、俺に向き合った状態で目を逸らした。その仕草に、以前の小野寺を思い出す。
前は、俺以外と話す時は目を合わせられなかったけど、いつの間にか相手の目を見て話せるようになってたんだな。ふと、親みたいな視点で感慨に浸ってしまう。
そして――
「あ、どうも……」
「ぐっ……!」
他人行儀全開といった、小野寺の素っ気ない挨拶に、俺の心は容易く打ち砕かれた。
辛い……! 辛すぎる……! 今まで仲が良かっただけに、落差が心にくる……!
俺は胸を押さえ、その場でうずくまる。
「ま、間宮君?! どうしたの?!」
「小野寺が、優しい……これは……幻覚、か……」
「幻覚じゃないよ! 私は本物! 本物の小野寺だよ!」
「渚、分かったかしら? これが秘技の力――」
蓮の声が遠くの方で聞こえる。蓮だけじゃない、周りにいるはずの皆の声が、膜を通したみたいにぼやけて聞こえる。
……この感覚、どこかで――
そうして俺は、意識を放り投げたのだった。
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