#33 ゴリラからの試練……?
「それでは、始め!」
監督官の号令で、問題用紙に手をつける。
一日目の最初の教科は現代文だ。俺達のクラスの担当教師は、あのゴリラだ。ああ見えて授業の段取りは上手く、きちんと授業中にノートさえ取っていれば、テストで迷うことはない。だから勉強会でも、ノートを中心に対策が練られた。
『②の時、少女に対して何を思っていたか。以降の文章から抜き出しなさい』
こういう形式の問題は、答えが傍線の二行前後にあるものだ。勉強会で学んだ、解き方のコツがここで活きてくる。
これまでにないペースで答案用紙を埋め、俺は学んだことが身についていることを実感していた。
そして最後の大問――
『この物語を通じて、主人公はどうするべきだったと思うか。自分の意見を書きなさい』
ゴリラが作るテストの最終問題は、毎度小論文風味のものになっている。といっても、俺はまだ三回しかテストを受けたことがない。この”毎度”というのは、先輩方から聞いた話だ。
今回の物語は、異国の地にやってきた主人公が現地の少女と恋に落ちるというもの。主人公は四苦八苦の末に帰国することになってしまうのだが、そのことを少女に伝えることができなかった。そして、人づてに事実を知った少女は半狂乱に陥り、主人公はそんな彼女を国に残したまま、後ろ髪を引かれる思いで帰国することになる。
――この物語で、主人公はどうするべきだったのだろうか。
しっかりと帰国する旨を少女に伝える、と言うのは簡単だ。しかし自分に置き換えてみた時、同じことが言えるかは怪しかった。新しい環境で運命かのような出会いを果たし、仲を深めていく。その過程に、俺は自分の現在を重ねていた。
物語の後半では、突然相手と別れなくてはいけなくなってしまう。その時俺は、彼女に――小野寺に思いを伝えることができるのだろうか。そう思うと、全く筆が進まなかった。
「そこまで! 後ろ席から答案を回収してくるように」
余裕を持って取り組んでいたはずが、結局最後の問いを埋めることはできなかった。
まさかゴリラも、ここまで感情移入している生徒がいるとは思うまい。
一教科目からとんでもない目に遭った。これでは試験というよりも、試練といった感じだ。
「間宮君、どうだった?」
次のテストまでの休み時間、小野寺が俺の席に顔を出した。
「おかげさまで絶好調だ。本当にありがとう」
「良かった。蓮ちゃんは大丈夫かな……」
小野寺はかなり心配している様子で、不安げな眼差しをD組側の壁に向けていた。
「翔太が教えてたんだし、大丈夫だろ。あいつは今まで、俺達二人を相手にしてたデキるやつなんだ」
「そうだね。蓮ちゃん頑張って……!」
壁越しのエールは、蓮に届いたのだろうか。
小野寺がここまで思ってくれてるんだ。蓮、しくじるんじゃないぞ。
俺は自分のことを棚に上げて、心の中で盟友に発破をかけた。
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