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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#119 光の中で愛を誓う

 ライブが終わって、俺の家で少し遅めの昼食を取った。これも小野寺の希望で、飛鳥と一緒に食事をしたかったそうだ。

 俺としては、もっと気の利いた店に行った方がなんて思ったものだが、楽しそうな食卓の風景に心配は吹き飛んだ。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です。クリスマスに小野寺さんとお出かけなんて、兄さんも隅に置けませんね」


「からかわないでくれって」


「否定、しないんですね」


「そりゃまぁ……否定のしようがないだろ」


 頬を掻きながら答える俺を、飛鳥はじとーっと睨みつける。

 そして、俺の額に手を当てると首を振った。


「熱は……ないですよね、知ってました。……兄さんがこんなに素直になるなんて、今日は雪でも降りそうです」


 ……似たようなこと、この前花森先輩に言われたばかりだな。(あの時の予報は雨だったけど)

 雨じゃなくて雪なら、今日降ってくれたら雰囲気が出そうなものだ。


「小野寺、出られそうか?」


「う、うん……!」


 小野寺は少したどたどしく返事をして、俺に続いて玄関へ向かった。


「じゃあ、行ってくるな」


「はい、このまま今夜は帰ってこなくてもいいですからね」


「ばっ……! 何言ってんだ!」


「ふふっ。では、小野寺さんも楽しんできてください」


「飛鳥ちゃん、ありがとう。行ってくるね」


 飛鳥の送り出し方に、ここが俺と小野寺の家かと錯覚してしまいそうだった。

 俺と小野寺を健気に送り出してくれる娘の飛鳥……うん、悪くないな。でも、やっぱり飛鳥は俺の妹でいてほしい。


「そういえば、次の目的地ってこうやって俺の家から行ったんだよな」


「うん、あの日は光君が途中で倒れちゃって……ふふっ」


「……その節はご迷惑をおかけしました」


 最初候補に挙がった時は、近場の商業施設にどうしてまたと思ったのだが、ライブ終わりの小野寺の言葉を聞いて納得した。


『光君と初めて会った場所に、もう一度来たかったんだ』


 小野寺はきっと、俺との思い出の場所を訪れたかったのだろう。自分で言っていて恥ずかしいけど、今ある情報から導き出せる結論はこれしかない。

 振り返ってみれば、話し合いの時に出た意見は水族館をはじめとした、一度俺と行ったことのある場所ばかりだった。今日一日で全部回るのは難しいが、この先いくらでも行けるはずだ。


 ……それに、俺の中でのメインは、あくまでイルミネーションだからな。

 目的のショッピングセンターにも、夕方からのイルミネーションがあることは調査済みだ。


 電車で数駅、降車後すぐに見える施設の様相からは、前に来た時とは全く違う印象を抱く。

 電飾の這う木々と柵、自動ドア越しに見える内装のどれもが、クリスマス仕様となっていた。


「わ……すごいね……」


 その中でも一際主張の強い木――二メートルを超すクリスマスツリーが、入店を歓迎してくれる。


「暗くなったら、このツリーも光るんだろうな」


「楽しみだね」


「そうだな」


「イルミネーションって、何時からなんだっけ?」


「十七時からだ。……あと二時間ないくらいか」


「それだけあったら、ゆっくり見て回れるね」


 今回は、文化祭の時みたいに買わなきゃいけないものがあるわけではない。俺達にとっては、ここに来ることが目的だった。イルミネーションが始まる十七時まで、ゆっくりとウィンドウショッピングを楽しむとしよう。


 事件が起きたのは数店舗目、服屋にいる時のことだった。


「これ、試着してみない?」


「え……俺がか?」


「うん」


 小野寺は、どこか気合いの入った様子で衣類の束を抱えている。

 こんもりとしていて全容は把握できないが、見たところ上着やズボンから小物までありそうな勢いだ。


「その山……全部試着するのか?」


「うん。ダメ……かな?」


 上目遣いの問いかけに、俺は思わず口元を手で覆い顔を背ける。そうしていなかったら、口角が目元まで届きそうな俺の間抜け面を小野寺の目に入れてしまっただろう。


 くっ、可愛すぎる……! 小野寺は自分の可愛さを分かっているのか? 分かってやっているなら、それはもう七つの大罪――色欲の罪に問われてもおかしくない。小野寺が捕まってしまう前に、なんとかしてこの可愛さの暴力を止めなければ!


「……分かったよ」


「やった……! ありがと」


「……ああ」


 跳ねるようにして喜ぶ小野寺の姿に、俺は何も言うことができない。

 だって考えてもみろよ! 「その顔、俺以外に見せるなよ」とか、恥ずかしくて言えるわけないじゃないか!


 そうして流されるまま、俺は小野寺の着せ替え人形となったのだった。


「最後は、このマフラーだよ」


「そ、そうか……」


 俺は今や、返す言葉を失った人形。今さらマフラーごときに心は揺さぶられない。


「俺、マフラーの着け方っていまいちピンときてないんだよな」


「いつもはどうしてるの?」


「首が暖まればいいやって、とりあえずで巻いてるだけだな」


「それなら、私が教えてあげるね」


 小野寺はそう言って、俺の懐まで距離を詰める。

 二つに折ったマフラーを俺の首にかけ、作られた輪に反対側の端を通すという簡単な工程。それにも関わらず、俺の心臓はとびきりの音を立てていた。小野寺が近くで、それも俺の首に手を回してるという状況は、俺にとって刺激が強いという次元ではなかったのだ。


「んしょ、んしょ……」


 ち、近い……いい匂いするし、なんか柔らかい……。――柔らかい? ちょっと待て小野寺、さすがにそれはまずいんじゃないか……?


「よし、できたよ! ……あれ、光君?」


「…………」


 動揺しきった結果口から出ていこうとしていた魂は、小野寺の決死の介抱の甲斐あって体に留めることができた。

 そんな事件もありながら、とうとうイルミネーションの始まる時間がやってきたのだった。


「すごい……見て光君、すごい綺麗だよ!」


 外の景色は壮観だった。辺り一面を照らす光の花畑は、この時期にしか見られない光景だ。

 もちろん、「小野寺の方が綺麗だよ」なんて甘言は俺の口から出るはずもない。


 ――それでも、今日ここで言わなければいけないことがあった。


「小野寺」


「……光君?」


 急な呼びかけに、小野寺はきょとんした表情を浮かべている。


「小野寺、聞いてほしいことがある」


「……うん」


 二人の視線が交錯する。こうして重なる瞳は、素顔の小野寺と初めて会ったあの屋上でのことを想起させる。あの時、小野寺は俺に友達になってくれと頼んだ。今度は俺が、俺から小野寺に気持ちを伝えるんだ。


「俺は、小野寺のことが好きだ。――俺と付き合ってほしい」


 見開かれた小野寺の目元は、何度か彷徨った後に再び俺のもとへ帰ってくる。


「……一つだけ、条件があります」


「……なんだ?」


「私のこと、幸せにしてくれますか?」


「――もちろんだ。絶対幸せにしてみせる」


「……うん、分かった。これからもよろしくね、光君!」

これにて完結です。

お読みいただき、ありがとうがとうございました。

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