#107 適材適所なんて言葉があったりする
「では、ちゃちゃっと作っちゃいますので、お二人はくつろいでてください」
「おいおい飛鳥、さすがにお兄ちゃんも手伝うぞ?」
「兄さんに料理を任せてもロクなことになりませんよね?」
「うっ……」
日頃料理に触れていないことが、ここで仇となった。
で、でも、そこまで言わなくてもいいだろ……?
俺は十五のダメージを負った。
「それなら、私が手伝うよ……!」
「小野寺さんはお客さんなので、ゆっくりしてもらいたいんですけど……」
「飛鳥ちゃん、ちょっといいかな……」
納得のいってない飛鳥の耳元で、小野寺が何やら話をしている。
ふんふんと相槌を打っていた飛鳥は、話が終わる頃には「へぇ~」という意味深な声を上げる。
「そういうことなら、小野寺さんにも手伝ってもらわなきゃいけませんね」
「飛鳥ちゃん、ありがとね」
「いえいえ、礼には及びませんよ」
一体どういうことで、飛鳥はどの立場なんだ……。
小野寺は認められた。この流れで、俺も名乗りを上げれば可能性があるのでは?
「飛鳥、俺も――」
「兄さんは大人しく座っててください」
「そ、そんなぁ……」
二度の拒絶で、俺はさらに二十のダメージを受ける。
俺のライフは残り十五。俺は醜くも、最後の力を振り絞って小野寺にすがろうとする。
「光君、ごめんね……」
「ぐふっ……!」
これにより俺のライフは底をつきた。回復の為、俺はリビングに退散する。
……しょうがない。はぐれ者の俺は、二人が料理している様子を眺めているとしよう。
ソファに腰を下ろし、キッチンに目をやる。
学校のある日は毎日小野寺に弁当を作ってもらっているが、その出来は日に日に進化しているといっていい。
しかし、その小野寺を以てしても飛鳥には敵わないようだ。小野寺は懸命に飛鳥の話を聞いて調理に励んでいる。疑似姉妹がお目にかかれるかと思いきや、二人はまるで先生と生徒のようだった。
「これで……すると、……喜びます」
「分かった……」
ここからでは何を喋っているか聞き取りきれない。だが、途切れ途切れに聞こえる内容は、とても料理中のものとは思えなかった。
「……は、……も好きですよ」
「そうなんだね……私も今度……」
うん、料理の話というより雑談なのだろう。
二人の接点はそう多くはない。こういう機会に距離を縮めてもらいたいものだ。
「あっ、小野寺さん!」
突然、飛鳥が大きな声を出す。その声は、もちろん俺のところまで聞こえ、俺は慌ててキッチンへ向かおうとした。しかし――
「捲った袖が落ちそうなので、袖上げ直してくれませんか?」
「うん、任せて」
どうやら野菜の水洗い中で手が離せなかったらしい。背後から抱きしめるようにして、小野寺が袖を捲る。
前にテレビで話題になった、キュンとするシチュエーションが目の前で行われていた。
飛鳥の背丈は、小野寺のものと比べるとそこそこ低い。その身長差が、完璧な構図を生み出していた。
「これで大丈夫そう?」
「は、はい……」
小野寺の整った顔が目と鼻の先にあり、飛鳥も動揺している。
妹よ、分かるぞ……あんな綺麗な顔が近くにあったらどぎまぎするよな。
謎の共感を覚え、俺は再びリビングに戻る。今回ばかりは、本当に俺の出る幕はなさそうだ。
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