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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#102 儚い君が消えてしまいそうで

「わ……綺麗……」


 水族館に到着し、俺達が館内で最初に遭遇したのは、虹色に輝く水槽とそれに投射された色鮮やかな映像だ。

 小野寺の言う通り綺麗ではあるのだが、俺としては今一つ盛り上がりに欠けていた。


 水族館って、もっとでかい水槽がいくつもあるイメージだったけど、ここはそうじゃないのか?

 最近話題になっていると飛鳥が勧めてくれたので即決したものの、俺自身も初見で楽しみたいと展示に関する情報は一切仕入れていなかったのだ。しかし俺は学んだ、予習をしないというのは期待外れと隣り合わせだということを。


 そんな先行きへの不安は、予想外の形で裏切られることになる。

 ウェルカムスペースに相当するそこを抜けると、ありえない光景が俺の目に飛び込んできた。


「これってメリーゴーランド、だよね……」


「みたいだな……」


 どうして水族館にメリーゴーランドがあるんだ! 夢の国でも目指そうとしてるのか?!

 ……おっと、冷静になるんだ俺。あまりに度肝を抜かれたせいで、思わずツッコんでしまった。


「回ってるのは馬……じゃないよな、さすがに」


「うん……海の生き物みたい」


 これには小野寺も虚を突かれたのか、視線を彷徨わせている。

 謎のアトラクションを乗り越えた先には、これまた幻想的な演出の施された水槽が、ぽつりぽつりと展示されていたのだが……


「き、綺麗だね……」


「……そうだな」


 小野寺、気持ちは分かるぞ……隣接してるメリーゴーランドが気になりすぎて、水槽の中に集中できないんだよな。……俺も全く同じ状態だ。

 だが、俺達は知らなかった。この先で、さらなる強敵が待っていることに。


「海賊船……」


「これもアトラクションなんだって」


 今、俺達の目の前にあるのは宙吊りにされた巨大な海賊船。精巧に作られたこの船はオブジェではなく、アトラクションだという。

 利用客が乗り込み、振り子のように左右に動き始めた海賊船を見て俺は思った。初見で来て良かったかもしれないと。事前に調べていたら、こんな体験はできなかったはずだから。


「すごいな……」


「うん、すごいね……」


 圧倒的な驚きを胸に、口から出る感想がこれしかないことを許してほしい。

 それからフードコーナーを抜けると、いよいよ水族館としての本気が顔を覗かせた。


「すげぇ……」


「うん……」


 眼前に広がる空間はクラゲの水槽に埋め尽くされている。広さとしてはそこまでないにも関わらず、鏡張りになった壁と天井が無限に続く景観を作り出していた。

 そして水槽に漂うクラゲ達は、色彩に富んだ光に照らされ幻想的な生物を体現しているかのようだった。


 俺達は、その中でも一際目を引く中央の水槽に興味を持った。


「クラゲって、ちゃんと見ると全然見た目が違うんだね」


「こいつは他のやつに比べて、体が大きいな」


「きっと、ここの主役なんだよ」


「せっかくだ、主役と一緒に写真でも撮るか?」


「いいの?」


「もちろんだ」


 俺は小野寺から携帯を受け取ると、水槽と並ぶ小野寺にカメラを向ける。

 夜景を思わせる暗さが、小野寺の姿を神秘的に映し出す。


 ――シャッターを切ったら、小野寺は消えてしまうんじゃないか。極彩色の中でたゆたうみたいな彼女の姿に、そんな錯覚を起こす。


「……小野寺」


「何?」


「俺も一緒に映っていいか?」


 なんとなく怖かったのかもしれない。今日までの全部が幻で、起きたら忘れてしまう夢で。俺の隣に小野寺がいないことが。非現実的な世界に、俺は毒されてしまったのだろうか。


「うん、いいよ」


 微笑みかける小野寺は、当たり前だけど何も変わらない。

 俺は近くの人に撮影を依頼すると、小野寺の手を掴んだ。


「光君……?!」


「今は、離さないでくれ」


「……分かった」


 小野寺の存在を右手にしっかりと感じる。不思議と、さっきまでの胸騒ぎは収まっていた。それに、鼓動もやけに落ち着いている。

 もちろん、この後シャッターが切られても、小野寺は消えることはなかった。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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