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助けたギャルが高嶺の花だった  作者: 大豆の神
そして二人は――
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#100 「Shall we dance?」って、断られたらどうするんだ

 日々の過ぎていく速度は、三六五日という長距離を走っているとは思えないくらい速く、あっという間に件の土曜日――小野寺と水族館に行く日を迎えた。

 そんなに肩肘張らなくていいと、翔太と蓮は言っていたが……


「やっぱり緊張するよなー……」


 そう、結局緊張するものは緊張するのだ。待ち合わせ場所に指定した駅のロータリーで一人、俺は落ち着かない時間を過ごしていた。

 秋も終わりが近づき始め、肌寒い日が目立つようになってきた。ソワソワと体を動かしていたいのは、寒さのせいなのだろうか。


「お待たせ……」


 ちょうど携帯で時間を確認している時のことだった。聞き覚えのある声が、頭上から降ってくる。

 顔を上げると、シックな装いに身を包んだ小野寺の姿があった。


 待ち合わせ自体は何度かしているが、こんなにも胸の跳ねる出会いは初めてだった。これまでと違い、今日は待ち合わせ場所で初めて顔を合わせることになる。これからの予定の為にわざわざ来てくれたという特別感が、合流して早々俺の心をじんわりと温かくしていた。


「いや、俺も来たばっかだから全然だ」


「そうなの?」


「ああ、俺が嘘をついてるように見えるか?」


 俺は自身の潔白を証明するかのように、ガバッと手を広げる。

 こうは言ったが、本当は二十分前には到着していた。でも、ここは男として見栄を張っていいところだと思う。


「……見えるよ」


「え?」


 俺が驚きの声を上げたのは、嘘を見抜かれたからじゃない。小野寺の温かな手のひらが、俺の頬を包み込んだからだ。


「ほら、やっぱり冷たい……ずっと外で待ってたんでしょ?」


 俺の顔を挟み込んだまま、小野寺は顔を近づけて俺に尋ねる。

 固定された俺は、迫る小野寺から遠ざかることはできず、ただ詰まる距離感に喉を鳴らすことしかできなかった。


「お、小野寺……?」


「ダメ、正直に言って」


 小野寺の吸い込まれそうな藍色の瞳に見つめられて、俺は無意識に口を開いていた。


「小野寺と出かけるのが楽しみで、早めに家を出ただけだ。……待ったなんて全く思ってない」


「そう、なんだ……」


 さっきまでの攻勢から一転、小野寺が途端にしおらしくなる。

 彼女の白い頬に紅が差しているのは、寒さが原因じゃないと分かる。


「それでも小野寺は、俺に『待った』って言ってほしいか?」


 自分の顔を捕らえた相手に強気に出るなんてすごい絵面だとは思うが、ここは目をつぶってほしい。


「ううん……てっきり光君、いいところ見せようとして早く来たのかと思ってたから……」


「うっ……」


 図星を半分突かれ、思わず呻き声が漏れる。

 それから小野寺は、俺から手を離すと真剣な眼差しで言った。


「私、光君にも楽しんでほしい。だからね、私だけじゃなくて二人が楽しいと思える日にしたいの」


 そんな小野寺の提案に、翔太の言葉が過る。


『見栄えだけに気を取られて、二人の時間を疎かにするなんて勿体ないじゃないか』


 ――どうやら翔太の言う通りのようだ。『誰かを楽しませるには、まず自分が楽しむことが大事だ』と、テレビかなんかで聞いた覚えがある。それなら俺も、小野寺との今日の時間を目一杯楽しむとしよう。


 俺は自分のわがままを伝えようと、小野寺に手を差し伸ばす。


「どうしたの?」


 俺の行動に、小野寺はもちろん疑問符を浮かべている。


「俺の顔触って、手冷えただろ? それに俺もほら……外でちょっと手冷えたし……」


「私、体温高めだから大丈夫だよ?」


「――っ分かったよ! 俺が手繋ぎたいから、手繋いでくれ! ……これで満足か?」


「ふふっ、よく言えました」


 お姫様は、手を繋ぐだけでも試練をお与えになるらしい。ったく、俺が仄めかした時だけ天然発揮するのやめてくれよ……。

お読みいただき、ありがとうがとうございます。

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