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2-32 バックアップをインストールしました




 ぺちぺちぺちぺちぺちぺち。


 何かが肌を軽く叩く音が聞こえる。



「ぐーぐー……」


「……………」



 ぺちぺちぺちぺちぺちぺち。



「ぐーぐー……うっ、ぐぅっ」


「……………」



 ぺちぺちぺちぺちぺちぺち_____



「おはよう……ぐーぐー」


「…………イラッ」



 ぺぺちーん。



「_____はうあ!」



 ケロックは目を覚ました。



「ほっぺが痛い。誰のしわざだ」


「おはよう、“僕”」



 痛む頬を押さえて身体を起こすケロックの目の前に_____“ケロック”がいた。


 もちろん、今しがた目覚めたのも“ケロック”なのは間違いない。であれば、そんな彼の顔を覗きこみ朝の挨拶をしてくる“ケロック”はなんなのだろうか?



 あたりを見渡してみると、自ずとその答えが見えてくる。

 床も壁も天井もない、どこまでも続く真っ白な空間。ケロックはそこにポツンと浮いている円卓の真ん中に寝かされていた。

 スキル【天の声】の派生スキル【超高速脳内会議】。

 今となっては、親の顔よりも見た光景である。



「……あれか。僕が気絶したから【天の声】が避難させてくれたのか」


「なんでそう思うの?」


「なんでって……あれ?」



 ここが【超高速脳内会議】なら、一番に出迎えてくれた目の前の“自分”は、恐らく並列思考の結果生まれた『複製コピーのケロック』___通称【コピック】なのだろう。

 しかし、この時点で大きな矛盾が生じている事に、ケロックは気づいた。



「……え、君、なんでいるの?」



 通常【コピック】は、ケロック自身が「並列思考を行う」と意識した場合のみ、【天の声】のサポートを受けて初めて独立させる事が出来る。ケロック本人と【天の声】にのみ許された、【超高速脳内会議】の『管理者権限』と呼ばれる権能だ。

 しかしこの場でオリジナルを出迎えたのは、特に独立させた覚えの無い【コピック】であり、仮に【天の声】が無理矢理引きずり出したとして、今も一言も発さないのは不自然だ。


 つまり目の前の『コピック』は、誰の手も借りずに独立し、勝手に【超高速脳内会議】を展開して、ケロックを召喚した事になる。


 謎の【コピック】は、自分の疑問だから全てお見通しだとばかりに答える。



「何から説明しようかな……まず、君は死んだ」


「死んだ」


「まあ、ゾンビだからもう死んでるんだけど。“おおケロックよ、死んでしまうとは情けない”」



 アンデッドにとって最も縁遠いジョークから話し始め、【コピック】はさらに続ける。



「君がショックでボケーッとしてる間に君の頭が叩き潰されちゃったせいで、【天の声】が思考を維持出来なくなったんだ」


「あ、確かに途中から文字化けしてたような」


「そう。だから“僕”が来た」


「いやいやいや、だから君ダレ?」



 答えになっていない質問に辟易(へきえき)するケロック。それを見てコピックは申し訳なさそうな顔をする。



「まだるっこしくてごめんね。結論からだと混乱するかもと思って……端的に言うと、僕は君の“バックアップ”だよ。気軽に【バロック】って呼んでね」


「……“バックアップ”」


「ルイの治療をした時の事を覚えてる? 【アカシックレコード】の話を参考にしたよね」



【アカシックレコード】…… ケロックの前世の世界で、現在までのあらゆる出来事、感情、思考が記録されているとされる記録層である。


 魔力との結びつきが強い今の世界では、魔法陣などに使われる魔術文字であらゆる事象が再現出来た。ケロックが会得した【創造魔法の基礎】がこれにあたる。

 それゆえに『この世界を構築するあらゆる情報が、魔術文字として【アカシックレコード】のように記録されているのではないか』という仮説を立てられるのだ。



「実際、君の仮説は間違いじゃなかった。この世界にも【アカシックレコード】に通ずる概念的な記録層が存在する。その名も【真理の渦(ナーガリー)】」


「なーが、りー?」


「そう。君は【創造魔法】の一端に触れた事で、わずかだけど【真理の渦(ナーガリー)】にアクセス出来たんだ。

 常に世界の出来事が絶えず記録され続ける情報の渦………君はその特性に着目して、万が一に備えて君の脳を象った仮想メモリ___“バックアップ”を作った。だからここに【天の声】はいない。君の本物の脳は絶賛修復中だからね」


「いやいやいや、スケールがデカすぎて……」


「まあ無意識にやってたっぽいし、僕も詳しく話すの大変だからさ。

 説明はこれくらいにして、本題に入ろう」



【バロック】は一息ついたかと思うとふわりと浮き上がり、円卓を囲む椅子のひとつに腰掛けて、ケロックに向き直った。





「それでは【第一回・チキチキ魔王化オーディショーン】!!」


「「「わーーーー」」」


「お、お前ら……」



【バロック】が謎イベントの開会宣言をすると、いつの間にかケロックが乗る円卓を囲む者達がいた。正真正銘ケロックのコピー達である。



「【チキチキ魔王化オーディション】とは、君が未来を選択しやすいようにみんなで一生懸命考えた進化イベントです! みなさん意気込みをどうぞ!」


「面白そう」


「ダルい」


「死にたい」


「逃げたい!!」


「やる気充分みたいだね! それじゃあ始めようか!」


「どこがだよ、1人を除いてボイコット寸前じゃん」



 基本的に負の感情で独立している【コピック】達。ちなみに開会宣言をした【バロック】以下は順に【(ワル)ック】【(ダル)ック】【(ヤミ)ック】【ヘッジホック】である。改めて見ると全員ロクでも無かった。



「称号【魔王の種】と脳機能障害のせいでイカれちゃった【天の声】さんが、必死こいて提案してくれた進化先を振り返ろうか! まずひとつ目!!」



【バロック】の掛け声とともにホワイトボードが出現し、そこに文字が浮かび上がる。







(ひでりがみ)

…天候を操る邪悪な亜神。風のように速く走り日照りをもたらすとされている。頭部はなく、胴体に単眼のみが付いており、そこから手足が一本ずつ生えている。


“自我は要らぬ。邪神の傀儡として大義を成せ”


 成長性-中 強化率-高






「いきなり特級呪霊出た」


「はい、このイカれたやつは〜……【闇ック】にシミュレーションしてもらいます!!」


「良いからさっさと殺して」


「えっ、そういう感じでやってくの?」



 最初に呼ばれたのは、影のように真っ黒なシルエットの【闇ック】。主人格の卑屈な部分が前面に押し出されており、今もイベントに否定的なくせに無抵抗で自暴自棄になっている。



「こちらとしてはやりやすくて良いよね、シミュレーションスタート!!」


「あっ待って心の準び……っがっ、アッアッアァァアア!!!!」


「「「怖っ!!!」」」



 闇ックの身体からバキバキと鳴ってはいけない音が鳴り、骨格から顔面に至るまで変形していく。他のコピック達も『自分もこんな目に遭わされるのか』とトラウマを植え付けられたようだ。


 そして生まれたのが_____




『コロシテ………コロシテ………』


「「「うわぁ……」」」



 猿の毛皮を纏った肉塊に、大きな単眼。上からは一本だけ腕が生え、下からは足が同じく一本だけ生えている。それ以外は目も鼻も口もない。SAN値直葬まっしぐらである。



「コイツに意志は存在しません。大いなる意志によって動かされるだけの肉人形です。ただ全てを捨てて生きたいのならオススメ物件。傀儡だから何やらかしても心が痛まないですよ〜」


「いや、本当に意志無いの? めちゃくちゃ死を懇願してるけど……」



『殺してくれないのなら滅べ』


「え_____」



 怪物の目から、眩い熱線が迸る。


 一瞬の熱を感じただけで_____ケロックの意識は再び暗転した。















「_____はい、復元完了。みんなオリジナルから順に感想どぞ」


「ゾンビからああなるの? 想像つかないんだけど」


「ビジュアルがキモい」


「人選ミスだろ」


「オマエヲコロス」


「怖いようわぁあん!!」


「判断材料少ないし、まあしょうがないよね。次いこっか。こちら!!」









(こう)

…神にしか調伏できない邪悪な神獣。【飛僵(ひきょう)】が耐え難い怒りに囚われた際に進化する。鬣や鱗などを生やした犬のような見た目をしており、口から炎と煙を吐き散らながら暴れ回る。


 “全てを拒絶せよ、過去や繋がりに至るまで”


 成長性-皆無 強化率-測定不能。






「選択肢の中で最強格! これは………【ヘッジホック】君かな?」


「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」


「……絶対テキトーに選んでるだろ」



 先ほど見せつけられたトラウマにより泣き叫ぶのは、ケロックの心の野獣ハリネズミ【ヘッジホック】。卓越した危険察知能力を持ち、逃げるためなら何だってする彼だが、今回は勇気を振り絞って精神を消耗させているようだ。気のせいか、背中の針が抜け落ちるペースが上がっている。



「一番弱気な【ヘッジホック】君でやればバランス良いと思うんだ。それじゃ、シミュレーションスタート!!」


「ごめん怖いやっぱ無理ギャァアァァアア!!!!」



 闇ックと同じく、身体からバキバキと鳴ってはいけない音が鳴り、ずんぐりむっくりだったハリネズミボディが筋肉で膨張していく。


 そして生まれたのが_____



『ハルルルル……』


「「「…………」」」



 唸り声とともに口から火の粉をもらす、巨大な犬らしき怪物。全身の体毛は逆立ち、まばらに鱗で覆われている。鼻先からナマズのような一対の髭を生やし、下顎から首にかけて鬣に覆われている。全身からオーラとともに吹き出す体液は、どこかに垂れるたびに『ジュゥッ』と触れてはいけない音をたてていた。

 そして、相対するだけでわかる。見た目以上に生物としての格が違う。



「口から炎。垂れる汗や尿は猛毒。単純な筋力はドラゴンに匹敵し、神通力を使う。何者にも侵されない最強の力を得られるよ」


「大丈夫? さっきとは別の意味で意識残ってる?」



 ケロックが恐るおそる近づくと、【犼】は身体をびくりと震わせて威嚇を続ける。こっちの並み居るケロックたちもびくってなる。



『……オマエラ、怖イ!! 来ルナ!!』


「もっとビビりになっちゃった」


『敵ガ怖イ! 愛モ怖イ! 失ウノモ怖イ! ダカラモウ何モ要ラナイィイイ!! ぐるるぁああああ!!!!』


「「「えっ」」」



 ばくばくがつがつもぐもぐむしゃー。

















「_____はい、復元完了。【ヘッジホック】君には刺激が強すぎたみたいだけど、みんなどう思う?」


「論・外」


「やっぱりビジュアルが終わってる」


「企画として破綻してる」


「毎回破滅オチならさっさと殺して欲しい」


「自分が自分じゃなくなるのが怖かった……」


「話し合うまでもなくダメそうだね。んじゃ次いこっか」






幽煉ゆうれん

…“情”に引かれ、“理”を捨てた者の進化。実体を捨て、記憶の連鎖としてこの世に残る。触れられず、理解もされず、それでも誰かのために在り続ける存在。


“役割を終えたと感じたら、これを選んでください”


成長性:無限大 (憑依先に依存) 強化率:ほぼゼロ』




「諦めと他力本願の境地! これは【怠ック】にやってもらおうかな」


「……………………あ゛?」


「これは……適任かな」



 椅子に腰かけず、背もたれに腹を乗せてぶら下がりヨダレを垂らすのは怠惰なケロックこと【(ダル)ック】である。

 瞳孔は全開、焦点は両目真逆。極限まで面倒くさいが故に合理的かつ最短距離の意見を出す。称号【七大罪:怠惰】で強化されてないかコイツ。



「はーい、シミュレーションスタート」


「……お、お、お? (スゥ〜…)」


「「「消えた!?」」」



 時間も惜しいとばかりに声をかける【バロック】。【怠ック】はもちろん無抵抗。

 しかしこれまでと違い、その姿は目の前からかき消える事になる。



「えっ、待ってどこどこどこ」


「おいおい死んだぜアイツ」


「え? 死んだ? 何それ羨ましい」


「【怠ック】君どこ!? うわぁあああん!!」



「あ、そうそう。彼はただの概念になったから、見えないし喋れないよ。なんなら同一人物だから記憶やスキルに変化も無いよね」


「「「じゃあなんでやったの」」」













「_____はい、復元完了。いまいち実感湧かないだろうけど、みんなどう思う?」


「要は喋れない【天の声】みたいなもんだよね? 楽だけど…うーん…」


「他人を裏から操る感じは嫌いじゃない。けど、認識されないのは…うーん…」


「生物として死ぬのが一番楽だって事に気づけた」


「【怠ック】も死が救済だって気づけたんだね……」


「いなくなるの怖いけど……何も感じなくなればOK、なのかな?」


「さすが他力本願の塊、おおむね好評だね」



 もはや全員【怠ック】で良いんじゃないかと思うぐらいの連帯感。最初からそうだけど、それで良いのか主人公。



「でもね、みんな気づいた?」


「何がよ」


「君たち、全員泣いてるんだよ」


「「「えっ」」」



 指摘されて互いに顔を見合わせ、慌てて目元を拭うケロックたち。無意識のうちにその目には涙が流れていたようだ。



「えぇ〜、何コレ……」


「ムカつくなぁ」


「涙拭くのも……めんどくさい……」


「何で? これは……救いじゃないのか?」



「僕、わかるかも。みんな怖いんだよ」



 困惑する面々の中で、ハリネズミの姿をした【ヘッジホック】だけが、自分がぴすぴす泣いている理由を理解していたようだ。



「僕たち怖がったり、めんどくさがったり、死にたがったり、色々あったけどさ。なんだかんだで協力してルイを助けたじゃない。彼女が人生の主人公になるためなら、何でも出来る気がしてたと思う」


「それはそうかもしれない……」


「さっきの【幽煉】てさ。触れられず、理解もされず、それでも誰かのために在り続ける存在。理想的に見えるけど、僕は“怖い”って思っちゃったな……」


「「「…………」」」



 今さら何を言っているのだろうか。散々他力本願ムーブかましておいて、何を恐れる必要があるのだろうか。

 しかし、この時のケロックたちの胸に、ある人物との約束が蘇っていた。




『ケロック、君にはボクの一番の理解者になって欲しい! もっとボクを救って欲しい!!

 ボクも君の理解者になりたい! 君の心に寄り添いたい!!

 (つがい)だろうが親友だろうが、形は何だって良い! 君にとっての主人公のボクが一緒にいたいから言うんだ!


 だからさ、これからのボクたちの関係について、お互い考えよう? 最低でも、それが決まるまでは一緒にいてくれるよね?』



 傷だらけだった少女の、無垢な約束。ここに来てなぜ思い返すのだろうか。







「……やっぱり“僕”は、『人間』なんだよ。ゾンビになっても」



 場が静寂に包まれた中で、【バロック】がおもむろに話し出す。



「自分もどこかで【幽煉】が正解だと思ってた。でも、君たちが泣いてるのを見て気づいちゃった。君たちはまだ、『帰りたい』って思えてるんだ。すごい羨ましいよ」


「……【バロック】?」


「君たちの経験と記録は、ここ【真理の渦(ナーガリー)】に“バックアップ”として更新される。“僕”がここに居続ける限りね。帰るわけにはいかないんだよ」



 そう言って俯く【バロック】の顔を、ケロックはまじまじと見つめる事ができた。

 “僕”の顔つきは、こんなに精悍だっただろうか? かつてこんなに血色が良かった事があっただろうか?



「……誰?」


「僕は君と同じ“僕”だよ。だから最後の提案」



 ケロックの姿をした、自らを“バックアップ”と名乗る少年は、最後に腕を一振りしてホワイトボードの文字を書き換えた。







飛僵(ひきょう)

…ゾンビの中でも膂力と拳法に秀でた“キョンシー”の上位種。本来はキョンシーが長い年月をかけて辿り着く姿であり、高い跳躍からの空中戦を得意とされている。


 “その身をより人に近づかんとするならば、より人と異なる事を知れ”


“その身 人ならざれど、人と共にあるべき姿と知れ”


 成長性-高 強化率-中






 それは選択肢の中で最も弱く、最も人に近い姿。



「正直、こうして説明文を見るだけだと、これを選んであの場を凌げるかどうかは賭けに近い。ステータスが多少上がるだけで、スキルの数は今の状態からほとんど増えないだろうね。

 でもね、これから色んな人との約束を守るには、必要か選択だと思うんだ」


「色んな人? ルイだけじゃなくて?」


「覚えてるでしょ、母さんとの約束」




 それは、母と交わした最期の言葉。



『・・・フニちゃんの事、しっかり守りなさい。お兄ちゃんなんだから』


『……わかった』




「……っでも、母さんは」


「わかってる。“僕”だって認めたくないよ」



 現実のあの場には、母であるルナリアの姿がない。

 父であるファランは失意の中で、愛する妻の名を呼び続けている。


 最悪な答えが待っている事は、容易に想像がついた。



「ただ、母さんが『お兄ちゃんなんだから』って言った以上、フニランの側には“兄”として立たなきゃいけないよね」


「……最初から、選択肢なんて無かったって事?」




 やっぱりというか、目の前の“バックアップ”はケロック本人と本質的に別人だ。これまで出会ったコピー達とも一線を画している。


 最後に【バロック】は、今のケロックがした事のない、子供らしい満面の笑みで_____




「君が“僕”で良かった」




_____ とん   と胸を押した。





 重力も、踏ん張る床も無いかのように、ケロックの身体は回転し、どこかへ落ちていく。










 どこまでも真っ白な空間は途切れ途切れになり、何度か蛇の鱗のようなものが見え隠れしたかと思うと_____彼の身体は“宇宙”に飛ばされていた。




 先ほど感じたものとは異なる、無限の昏き闇。その中で金剛石や草の露など、この世のあらゆる輝きをあつめたような星々の集合体が、銀河の河床として繋がりあっている。



『見える? 君の知ってる“宇宙”とは似て非なるものだよ。これら全てが、可視化された無数の【真理の渦(ナーガリー)】なんだ』



【バロック】の声が響く。自分とよく似た声で、きっと自分とよく似た顔で、全く異なる表情をしているのだろう。



『その中でも大いなる意志として存在する、最も大きな【真理の渦(ナーガリー)】の化身……【銀河海蛇ギャラクシーサーペント】』



 宇宙の輝きを寄せ集めたような巨大な何かが、とぐろを巻いて鎌首をもたげ、こちらを覗き込んでいる。

 ああ、あの輝きの中のひとつだけでも触れられる事が叶うのなら、更なる叡智がこの手に収まるに違いないのに。



『次に目を覚ました時には現実に戻るんだけど、この姿をよく目に焼き付けておいて。生きとし生けるもの全ての帰る場所がここだから』



 景色が、意識が、輝きが遠のいていく。



 そんな中で最後に聞こえたのは。








『後のことはよろしくお願いします。あなたに女神の祝福があらんことを』


『そして、クロムハーツ家の新たな一歩に、僕から精一杯の願いを込めて』


『________ケロック・クロムハーツ』






 あの日“生前のケロック”が遺した、手紙の中の一節だった。
























《_____()?》



「……うん。これで良かった。女神様がくれたチャンスにしがみついた結果だしね。ありがとう」



(いな)。始原感情プロトコルに準拠し、魂の補完措置として運用を試みたに過ぎない》



「それでも、あなたと女神様のおかげで、ここにいるのは間違いない」



《是》



「さて、こっからどうなると思う? あなたの事だから、全部知ってるんだよね?」



《否。身共が知るは結果のみ。経過は分岐点を増殖させ“毎回”更新される》






《そして、全ては螟ァ縺?↑繧句?迺ー縺ョ荳ュ縺ォ》



「そうだね、僕ももう少し頑張ろうかな」











 同じ座標に位置する、世界の裏側の記録層【真理の渦(ナーガリー)】。

 それら全てを囲み絡み包み込むように、さらにいくつか不可視の次元が転がっている。




 ケロックがそこにたどり着くのは、はるか先のことだ。


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