フィクサーとドラゴノイド
『_____称号に……【魔王の種】が、追加されました……』
棒立ちになったゾンビの少年に、文官風の若い男が口を開く。しかし、ケロックの耳には届かない。
『実績の解除により、個体名:ケロック・クロムハーツの存在進化を開始します。
一時的に種族を“ゾンビ (変異種)”から“ゾンビ (王種)”に変換。スキル統合フェーズに移行します』
少年の反応がない事を確かめると、若い男は騎士の1人に声をかける。重装揃いの騎士たちの中で、さらに体格の大きい人物だ。
『スキル【嗅覚】を入手しました。
スキル【嗅覚】を【触覚】【視覚】【聴覚】【味覚】と統合します。
…………統合に成功。スキル【五感】を入手しました。
スキル【第六感】を入手しました』
ケロックの前に躍り出たその騎士は、何やら大仰な身振りで喚き立てている。相当腕に自信があるのか、正々堂々と名乗りをあげているようだ。
『称号【魔王の種】から“提案”が発生。
スキル【重力魔法の基礎】を取得しました。
スキル【重力魔法の基礎】を【平衡感覚】【深部感覚】【歩法】【デウス骨法】【音魔法の基礎】と統合します。
………統合に成功。いくつかのスキルに分岐します。
一部スキルが【音魔法】と【重力魔法】に進化しました。
新たにスキル【発勁:魔】を入手しました。
ユニークスキル【全人未踏】を入手しました。
称号に【武闘家の心得】が追加されました。
派生スキル【呼吸法】を入手しました』
斧槍が振るわれる。騎士の剛腕によって重量のある先端の斧刃は音速に迫り、棒立ちとなった少年の左肩を易々と通過する。
『称号【魔王の種】とスキル【鈍感】の実績を基に申請を開始します。
…………申請が受理。スキル【鈍感】が消滅し、称号に【七大罪:怠惰】が追加されました』
切り落とされた左腕が地に落ちるか否かといったタイミングで、今度は騎士の左手にある大楯が、少年の脳天に叩きつけられる。
確かな重量と厚みを持って、潰れたカエルのように大地とサンドされる少年。頭は潰れ、手足はひしゃげ、背骨も砕け散る。
『スキルの統合処理が終了。これより中断していた存在進化を再開します。
所持スキルと称号の他、ステータスや実績も含めまとめて各種進化条件と照合します。
…………進化条件をクリアしました。以下の分岐した項目から進化先を選択してください。
【飛僵】
…ゾンビの中でも膂力と拳法に秀でた“キョンシー”の上位種。本来はキョンシーが長い年月をかけて辿り着く姿であり、高い跳躍からの空中戦を得意とされている。
“その身をより人に近づかんとするならば、より人と異なる事を知れ”
王種【屍尢】へと至る可能性がある。
成長性-高 強化率-中
【魃】
…天候を操る邪悪な亜神。風のように速く走り日照りをもたらすとされている。頭部はなく、胴体に単眼のみが付いており、そこから手足が一本ずつ生えている。
“自我は要らぬ。邪神の傀儡として大義を成せ”
邪神獣【犼】へと至る可能性がある。
成長性-中 強化率-高』
大楯から解放された直後、すかさず斧槍の突きが放たれる。少年の小さな細い右足は根本から貫かれ、余波で腰から離れて弾け飛ぶ。
『称号【魔王の種】から“提案”が発生。
新たに称号【七大罪:憤怒】を追加する事で、さらに上位種への進化が期待できます。
【犼】
…神にしか調伏できない邪悪な神獣。【飛僵】が耐え難い怒りに囚われた際に進化する。鬣や鱗などを生やした犬のような見た目をしており、口から炎と煙を吐き散らながら暴れ回る。
“全てを拒絶せよ、過去や繋がりに至るまで”
成長性-皆無 強化率-測定不能。
窶懈?諤停?昴↓霄ォ繧貞ァ斐?縺セ縺吶°?
“??怒???に身を委??ますか?』
(_____いいよ、もう……“選ばない”)
『……?』
(怒りはある。けど、もう疲れた。めんどくさい)
『縺ェ縺懊◎繧薙↑莠九r?』
(ルイも強くなった。フニランも彼女が守ってくれるし、きっと乗り越えられる。僕と違って)
『縺ゅ↑縺溘?豁サ繧薙〒縺ッ縺ェ繧峨↑縺』
(無理だよ。僕の心はそんなに強くない。
だからこうならないように気をつけてたんだ。こうして折れるってわかってたから)
簡単な事である。ケロックは万能ではない。
絶望に打ちひしがれていたルイジアナを救ったのは、出来そうだったから。必死に守ろうとしてたのは、守れなかった時に向き合うのが怖かったからだ。
『……謇ソ遏・縺励∪縺励◆。縺翫d縺吶∩縺ェ縺輔>
【幽煉】
…“情”に引かれ、“理”を捨てた者の進化。実体を捨て、記憶の連鎖としてこの世に残る。触れられず、理解もされず、それでも誰かのために在り続ける存在。
“役割を終えたと感じたら、これを選んでください”
成長性:無限大 (憑依先に依存) 強化率:ほぼゼロ』
最後に提示された進化先は、ずいぶんと毛色が違った。スキル【天の声】や、記憶から昇華した【竜巫女の声:オルディナ】と比べて……より概念に近い存在だろうか?
自我を捨てた少年に、それでも最良の“残り方”を提示する存在があった。
(ごめんね、【天の声】。短い間だったけど、楽しかったかもしれない……ありがとう)
騎士は斧槍を持ち上げ、力任せに振り下ろす。
今度は少年の脳天めがけて。
「_____言ったでしょ? 『最低でも、関係に名前がつくまでは』ってさ」
ケロックの視界を、青い光の蒸気が埋め尽くした。
「貴様ぁ!! 女の分際で神聖な決闘を穢すとは何事かぁ!!!」
目に見えぬ速度で割り込まれ、斧槍を弾かれてもなお怯まない、全身甲冑の巨漢騎士。鎧の厚みは凄まじく、片手でそれぞれ長物と大楯を振り回すのだから、恐らく膂力に相当の自信があるのだろう。
ケロックを背に庇いつつ騎士に相対するのは、青く輝く【竜闘気】を身にまとうルイの姿。
少年のような精悍な顔つきながら、小さな身体に未だ寝巻き姿であるため、辛うじて少女である事がわかる。しかし、斧槍を軽く払ったのはその細腕であり、睨め付ける視線は見た者に戦慄を覚えさせるほどの冷たい炎が宿っていた。
「動かない相手を一方的に痛めつけるのが決闘ですか」
「当然だ! そこの下賤なゾンビ風情が、エリートたるワガハイの動きに反応できるはずがない!!
そもそもゾンビは絶対悪! 徹底的にすり潰さねばならぬため、公平性や手加減など一切不要!!」
「絶対悪、ですか。であれば、この惨状を引き起こしたあなた達が正義だとでも?」
「問答無用! ワガハイは王家直属のヒンソ騎士団が第三席『大楯のカマセ・ケルベロス』!! 国家反逆罪を犯したアイゼンヴァルト辺境伯を討ち倒し、王国一のタフガイとして名を馳せる男!! 冥土の土産としてその身に刻むが (バゴォン!)なぐぉわっはぁあああ!!??」
名乗りをあげながら長い前口上を唱える正騎士カマセを、あえてルイは見送った。そして、相手が攻撃しようと斧槍を振りかぶる瞬間を狙い、砲弾の如く渾身のタックルをぶつける。
カマセが咄嗟に構えた自慢の大楯は、大きく凹みながら粉砕される。なんなら彼の腕の骨もまとめて破壊していた。
「オレの腕がっ、ミスリルの盾ガァああ!!!」
「……ボク相手にその体たらくで、王国一だのお父様を超えるだの宣うのはやめてくれませんか?」
圧倒的な体格差がありながら、倒れ込む騎士カマセを冷めた目で見下ろすルイ。容赦がない。
そんな彼女の背後から、2つの影と4つの凶刃が迫る。
「第五席『暗殺のモーブ』!!」
「第七席『高速のコーザ』だ…」
ばききん!!
「ぶべらぁ!?」
「うぅぶふぁ!?」
「名乗って不意打ちって意味あります?」
足元に落ちていた斧槍つかみ、毒々しい紫色のナイフ2本と薔薇の模様が入った細剣2本を、横薙ぎ一振りで粉砕し持ち主ごと吹き飛ばす。『スピード自慢って背後に回りがちだなぁ』とか思いながら。
「第四席『土遁のアサヂエ』が取ったでござるよ!」
そんな意識の隙を見逃さず、ルイの足元の地面から女性の細い腕が生えて、そのまま右足首を掴み拘束した。
続けてもう片方の手が生えて、半ばで折れた毒剣を引っ掴み、ルイの無防備な足に突き立てようとする。
ぱきぃん、と。
心地よい音が鳴り、毒剣はさらに根本まで折れた。
「……え?」
「ああ、やっぱり刺さんないよね。えいっ」
「あっ」
ルイが右足を軽く上げただけで、簡単に拘束が外れる。そして………
「ふんっ!!」
どごぉん!!!
「ござるぅううううっ!?」
ルイはそのまま地中にいるアサヂエの背骨ごと、大地を踏み砕いたようだった。どんな浅知恵も圧倒的な力の前には無意味である。
そんな彼女の無双っぷりを見て、のんびりと拍手を送る者がいた。
「いやーお見事お見事。もしやあなたは、かの有名なアイゼンヴァルト辺境伯家の薄命のご令嬢、ルイジアナ・トッカータ・アイゼンヴァルト様でしょうか?」
「まずはあなたが名乗ったらどうですか」
「これは失礼しました。お初にお目にかかります、私の名はベントレール・クラバルカ。子爵位であり、この国で宰相の副官をしています」
「なるほど、あなたがこの人達の指揮官ですね。このふざけた状況をご説明願えますか?」
「そうですね……あなたにも無関係とは言い難いので、お教えしましょう」
そう言ってベントレールは、自分の斜め後ろに座る男を一瞥した。
男は騎士達に両腕を拘束され両脚を切断された状態で、虚ろな表情のまま俯き「ルナリア……ルナリア……」と呟き続けている。
すっかり変わり果てた姿になったケロックの父、ファラン・クロムハーツである。
「『斥候王』ファラン・クロムハーツ……王家に剣を捧げた身でありながら、国宝『次元門』を盗み出す。さらには任務中に帝国と接触し、大渓谷を渡る独自のルートに先導して侵攻を手引きした大罪人。
しかし彼は『次元門』を暴走させ、村ひとつを次元の狭間に食わせて消滅させた大罪人です」
「・・・・・」
「しかし我々は、この男を唆す別の存在がいると見ています。そう! ファランの息子のように振る舞い、そこでボロ雑巾のように転がっている彼! ケロック・クロムハーツこそがこの大規模なテロ犯罪の黒幕なのです!!!」
「黙れよもう」
恍惚した表情でパートナーをこき下ろす優男に、ルイの口調からオブラートが消失する。
「聞かなければ良かった。吐き気がする。動機を知りたかったけど、あなたみたいな人から本音を聞ける気がしない。そのイカれた妄想を現実に変えるのが上手みたいだから。本音にしたって大したことないんだろうけど」
「大したこと……ない?」
ルイ自身でも信じられないぐらいの罵詈雑言が飛び出してくる。
思い込みの激しい目の前の男には、どうせ届かないだろうとも思っていたのだが、今ので少しだけ琴線に触れたようだ。張り付いたような薄笑いの仮面に、今までと異なる感情の影が差している。
「あなたごときに何がわかるのです」
「何も。どうせ話す気ないでしょ、建前の方が都合が良いもの。自分の本性なんて誰かの目の前で認めたくはないだろうし、だからこっちも勝手に推し量ってるんだけど」
そこまで話したところで、ルイは何かに気づいたかのように「ああ!」と声をあげた。
「アーノルドに似てるんだ! 当然知ってるよね? 神官長から報告受けてない? 貴族の誇りと野心に溢れる立ち振る舞いをしておきながら、真の目的はごく個人的なものだった、ボクの元婚約者候補。
あなたはもう少し誤魔化すのが上手いみたいだけど、初対面のボクでもわかるって相当だよ?」
「……妄言が過ぎるようですね」
愛国心溢れる中央政府のエリート官僚。しかし彼からは、明言されない滲み出る野心を感じられる。ベントレールが耳にする自分の印象など、こんなもののはずだ。
「何を根拠に仰るのですか? 今あなたが語った私の評価、初めて耳にする内容ですが」
「お父様から聞いてるよ、ベントレールさんの印象。『若いのに愛国心溢れる男だが、腹の内に爆弾を抱えた悲しい野心家』だってさ。直接口にしないだけで、ある程度見る目のある人にはバレてるんじゃないかな?」
「……なるほど、一理ある……かもしれませんね。“文武両道、質実剛健のアイゼンヴァルト”とは良く言ったものです」
ベントレールは何かを諦めたかのようなため息を吐いていた。あのうさんくさい笑顔の仮面など、とっくに外していたようだ。酷く冷めた顔をしている。
ルイからすればほとんど煽り文句のつもりだったのだが、思わぬ反応が返ってきたので動揺してしまった。
ベントレールはなおも続ける。
「仰る通り、ほとんど私怨です。野心にしたって、発言力が上がればやりやすくなるから上を目指しているだけ。
今回の件で言えば、クロムハーツ家の裏の薪置き場に『次元門』を仕掛けた、というわけです。なぜか一番殺したいヤツが生きてましたけどね、相変わらず逃げ足の速い……」
そう言ってファランを一瞥するベントレールの目から感情は読み取れなかった。何らかの処置を施されたのか、ファランの出血も止まっていた。しかし相変わらず俯いて、「……ルナリア……ルナリア」とうわ言のように呟き続けるだけだ。
「それ以外はご想像通り。アーノルド殿の襲撃も帝国の侵攻も、全て私が裏で手を引いていた事です」
「……それだけ? 理由は?」
「逆に聞きますが、動機って必要でしょうか? 『私がやった』『私怨だった』『正当性は建前でしかない』って事だけわかれば充分では?
とりあえずあなたが納得したいだけなら、これ以上はご勘弁願いたいですね」
「なぜ、ここまで話しておいて……」
「気紛れです。あなたがあれだけ講釈たれてくれたので、隠しても無駄かと思いまして」
どういう心境の変化なのか、ベントレールは自らの行いを明確に自白した。肝心の動機については伏せたままで。
(うそ、何これ……問い詰めてるのはこっちだよね? なんでこの人、全部コントロールしてるみたいな空気出せるの?
なんか、考え、が、まとまらない……)
「ベントレールさん、あなたは……」
「ルイジアナ嬢。今あなたは、この場で優勢か否かを考えましたね?」
そんなルイの動揺を知ってか、ベントレールがすかさず言葉を被せてくる。
「王直属の騎士団の第3席までを相手に、手傷すら負わない。もはやあなたを止められる者はこの場にいない。そう思っても仕方ないでしょう。
しかし、ウェルムート神官長はそれが命取りになった。あまりにも上手く行き過ぎて、自らの優位性を確認せずにはいられなかったのです」
返す言葉が出せない。この男の話振りでは、先ほどまでのルイの無双など、大した事ではないかのように聞こえてしまう。手駒を失っても問題ないほどの、今の自分相手に特化した切り札が用意されているかのように。
そして、この場でその事を示唆するような発言も、気づかない内に逃げ道を塞がれているんじゃないかと、ルイの不安をさらに煽ってくる。
そんな緊張感のある会話の中で、遠慮がちに割り込んでくる者たちがいた。
比較的軽装な若い女性騎士と、赤い羽根飾りの付いた豪奢な装いの男性騎士である。
「あのー、ガチな空気で口挟むの悪いっスけど、【転移門】の準備が出来ましたっス」
「副官殿、時間稼ぎは充分。後は某に任せるのである」
「おやおや、時間稼ぎは否定しませんが、有意義な時間でしたよ?」
【転移門】……異なる座標への瞬間移動を可能にする魔術だ。それなりの準備がいる上に、転移する距離に比例した魔力量と時間を要する。
ここまでの追及を逃げるための時間稼ぎに使われたと思い、ルイは慌てて手を伸ばす。
「待てっ! 逃がさな_____」
「逃がさないのは某の方である」
伸ばした腕に、瞬く剣閃。
一瞬の冷たさと、続いてやってくる痛み。燃えるような熱。
(…………血!?!?)
鮮血が吹き出す腕を押さえて、踏み出そうとした足でそのまま地面を蹴り、全力で後退する。蹴飛ばした勢いで土砂が舞い上がり、いつの間にか正面にいた男への目眩しになる。
「……ふむ、なかなかに小癪。腕を落とすつもりで斬ったのに、硬いのである」
男は先ほどまでベントレールのそばにいた騎士だった。豪奢な鎧についた土埃を手で払い、先端がカールしたカイゼル髭で不満そうな顔をしている。
(全く見えなかった……いや、それよりも)
今の力を手に入れてから、壁を蹴飛ばし骸骨兵を粉砕し、坂道を転げ落ちたり毒ナイフを突き立てられても、ルイの身体には傷一つつかなかった。
それが今、力なく下がる右腕の前腕部に、やや斜めに入った切創から出血し、指先を伝って地面に染み込んでいく。
皮一枚だが、ルイが初めて体験する明確な刃物のダメージだった。
(痛い……勝手に斬られないとたかを括って、全く覚悟してなかった……)
スキル【金剛力】と【竜闘気】により、無敵に近い膂力と硬度を身につけた彼女にとって、この負傷は完全に予想外であり精神的に大きなダメージとなった。
ベントレールの『神官長はそれが命取りになった』という言葉が、ここに来て効いてくる。
『ルイちゃん』
(……お母様)
母の記憶から生まれたサポートスキル【竜巫女の声:オルディナ】。よほどの事態である事を察しているのか、いつもの『やっほー』のようなのんきさはなく、娘の名前を呼ぶだけに留めているようだ。
【オルディナ】はルイにはない自らの記憶から、現状を分析し宿主に伝えていく。
『気をつけて。小手先ばかりのお綺麗な王宮剣術がベースっぽいけど、ここぞの一撃に凄絶さを感じる。それにあの剣……』
(うん、わかる。すっごい嫌な感じがする)
相対する騎士の剣にはきらびやかな装飾が施されており、一見すると実用性に欠けた宝剣のようである。しかしその刀身にはルイの身体に刻まれたような魔力紋が施されており、虹色の光が波打つように輝いていた。
「おや、この剣が恐ろしいであるか、ご令嬢。さすがは竜の血族であるな、副官殿が某を起用したのも頷けるのである」
ルイの視線に気づいた騎士が誇らしげに剣を掲げる。彼の口ぶりから察するに、明らかにルイ1人に特化した切り札であるのは間違いない。【転移門】発動の時間稼ぎをしていたとはいえ、この場にいるルイとケロックの事を見逃す気はさらさら無かったのだ。
「魔剣『デュランダル』……【竜殺し】の概念魔法が組み込まれた国宝である。たとえ貴殿が竜鱗並の表皮を誇ったとて、この剣は易々と切り裂くのである」
概念魔法とは、“反射”“切断”などの概念を押し付ける、非常に貴重な魔法である。神の力の代行とも呼ばれており、その特性ゆえに実現はほぼ不可能に近い。
しかし『デュランダル』は“竜種にのみ効果を発揮する”という縛りを付与した事で【竜殺し】を成立させた、下手すれば国一つ購入できるレベルの一品である。
戦闘技術においては圧倒的に格上。しかも国宝クラスの魔剣持ち。
それだけの準備を“不治の病を克服し竜の力が覚醒したルイジアナ”という、通常であれば想定し得ない相手への対策として用意してきたのだ。ベントレールのそれはもはや常軌を逸している。
「逃がす気は無いが、逃げぬのならば騎士の礼に倣おう。
王家直属の正騎士! ヒンソ騎士団団長『ドラゴンスレイヤーのワンダ・ワンヒット』である!
魔王ケロック・クロムハーツ! 逆戝ルイジアナ・トッカータ・アイゼンヴァルト!
王命に従い直々に賜ったこの『デュランダル』で、某が引導を渡すのである!! キェえええええええいィ!!!」
『来るよっ』
「……っ、こんなとこでぇえええええ!!!!」
竜殺しの魔剣と竜の拳が衝突する。
ケロック・クロムハーツ。未だ目覚めず。




