死んでました
これまでのあらすじ
妹らしき女の子にドン引きされました
「ルシル! うちの子は大丈夫なの⁈」
「落ち着けルナリア、今診るんだから。とりあえず部屋には入らないように」
死んだはずの我が子を抱きしめたいという、母親として当然の気持ちはわかる。しかし原因不明の蘇生となると、安易に接触させるわけにはいかなかった。
ルシルことチェルーシル・リシルは、そんな友人をなだめて部屋から追い出したのち、診察を再開すべくベッドに腰かける少年に向き直った。
ルシルは絶海の孤島を祖とするエルフーン族の末裔だ。細くちぢれた白い髪と、側頭部から上に伸びる若草色の巻きヅノが外見的な特徴である。
長命で草と風の術に長けたが、今はほとんど滅んでいる。彼女自身は大陸で育ち、医術と魔術を生業にしているが_____
(年寄り臭い私の過去より、今、目の前の“異常”を診る方が私の性に合っている)
彼女の目の前には、血の気のない顔の少年がぼーっと座っている。
さっきまで開ききっていた瞳孔。まるで生気は感じられないが、ぼんやりと彼女のことを見つめ、焦点も安定しつつある。
首に触れた。脈はなく、温もりも感じられない。
口元に手を当てるが、息が当たることはない。
生物に必要な反応を、一切感じ取ることができない。
(……うん、目以外全部死んでるな。死にたてホヤホヤだな)
なんとも失礼な発想だが、決して冗談ではない。
現に彼は数時間前に死んだ。ルシルが医者として看取ったはずだった。
彼の死因となったのは【魔喰い】と呼ばれる現象である。体内の増え過ぎた魔力が暴走し、発熱・内出血など、様々な形で身体機能を乱れさせるという症状だ。
母親であるルナリアには伝えてないが、長い間危険な状態だった彼の体は組織が崩壊しかけていて、下手すれば周囲の魔力も巻き込み大爆発を起こす可能性もあったのだ。
結局、何とかして心臓マヒでおさめたに過ぎず、膨大な魔力に蝕まれた小さな命は、夜が終わると同時に天に召される事になった。
未熟ながら、医師として最善は尽くしたつもりだった。
一度死んだ人間が自然に復活……とは考えにくい。
肉体のあらゆる生命活動が停止している以上、少年の肉体は「蘇生とは別の要因で動き出した」ということになる。
そしてこの世界には、死体が動く現象が存在する。ルシルが現状を説明するのに充分な現象が。
彼は、【ゾンビ】になったのだ。




