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後編

「5、500年でございますか」

思わずといったように、ジョルジュが尋ねる。

『左様。長寿の我々にとって、1000年の眠りは必須。儂はまだ300年しか眠っておらぬ』

「はあ」

『故に、あと500年は慣れ親しんだ此処で眠りたいのだ』

「なるほど。ドラゴン殿は、500年は此処から動かれぬと」

『然り』


 ジョルジュは考える。ドラゴンは後500年の間、此処から動かない、つまり街道が封鎖されたままということだ。これでは王命を果たすことができない。

 しかし、ドラゴンに対して「動け」と言えるほどの度胸は無かった。


「ならば、ドラゴン殿。御相談がございます」

『申してみよ』

「ドラゴン殿の周囲を、我々人間が行き来しても宜しいでしょうか」

「お、お館様!?」


 あまりに突飛な提案であった。ドラゴンの周りを人間が歩くなど、正気の沙汰とは思えない。

「周囲と言っても、今の我々の距離よりは遠くを考えておりますが・・・」

『どれほど近くに人間が来たとしても、儂が目覚めることはないだろう。しかし・・・』

「しかし?」

『儂の眠りを邪魔するとなれば別だ』

 ドラゴンから気迫とも言うべき気配が発せられた。気圧されそうになりながらも、ジョルジュは口を開く。

「もちろんでございます。我々は隣国へと行くだけ。ドラゴン殿の眠りは保たれることを約束いたしましょう」

『ならば良い。人の子が周囲で何をしようとも自由だ』

「ありがとう存じます」

『儂は再び眠りにつく。会うことはあるまい。ジョルジュ・ヒイロよ』

「良き眠りを。ドラゴン殿」


 そうしてドラゴンは瞳を閉じた。ジョルジュは家来たちに戻るよう指示を出す。

「お館様。よくぞドラゴンと話されましたな」

「自分でもよくもまあ、口が動くものだと感心した。しかし、これで街道の件はどうにかなりそうだな」

「周りを通るという事でしょうか?果たして民が、そんなことをするでしょうか」

「そこについては考えがある。帰ってから協議をしよう」

ジョルジュたちは馬を留めていた場所へと戻り、城へと帰って行った。


「お館様。御無事に戻られまして」

「うむ。街道の件で早速、会議を開く。皆を集めてくれ」

「かしこまりました」


 ジョルジュは早速、家来たちを集めて先ほどのドラゴンとの会話を話した。

「という訳で、ドラゴン殿との交渉は相成った。そこで、私は街道の迂回路を作ろうと思うのだ」

「迂回路ですか」

「ああ。ドラゴン殿が眠っておられる街道を旧街道とし、迂回路を新街道とする。新街道はドラゴン殿が遠目で見えるあたりに作ろう。人というものは、見えないものに対して恐怖を覚えるからな。遠目にでもドラゴンが眠っている姿が見えた方が、逆に安心するであろう」

「本当に、人がその新街道を通るようになるでしょうか」

「何。最初は怖々と通るだろうが、何もないと知れれば日常となるだろうよ」


 そうしてジョルジュは旧街道の途中から新街道の造成に着手した。初めのうちは怖々と工事をしていた人工達も慣れればスイスイと工事を進め、わずか1カ月ほどで新街道は完成したのであった。


「街道の入り口に看板を立てよう」

「看板でございますか?」

「ああ、『眠っているドラゴンを起こすな』とな。一応、ドラゴン殿には安眠をお約束申し上げたからな」


 こうして、ヒイロ領と隣国を繋ぐ街道が整備された。ジョルジュは『新街道』と呼ばせようとしたが、人々は『ドラゴン街道』と呼び、遠目にドラゴンを見ながら足早に去って行く街道となった。

 しかし、ジョルジュの言う通り人は慣れるもの。3回、4回と通るうちに、ドラゴンがピクリとも動かないことに慣れ、しばし、佇んでドラゴンを見ていく者まで現れ始めた。


 その報告を聞いたジョルジュは閃いた。

「ならば、ドラゴン殿にもう少し近づかせて頂こうか」

ここにヒイロ領名物。旧街道を使用してドラゴンへと近づく『ドラゴン見学ツアー』が誕生したのである。 

『ドラゴン見学ツアー』は貴賤関係なく大好評であった。皆、恐る恐るドラゴンに近づき、その吐息を体験し、興奮して帰って行った。ヒイロ領はドラゴン効果で経済的に潤っていった。

「すべてはドラゴン後ののお陰。これは是が非でも、ドラゴン殿の安眠を守らなくてはならぬな」

「そうでございますね」


 その後、ジョルジュは『ドラゴンと交渉せし者』という仰々しい異名で呼ばれることとなり、ヒイロ領は隣国にも名が轟く立派な領となった。

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