07
――晴れて小学二年生となりました。
退院したのは一月。
あの時は本当に大変だった。
オネエ執事はわたしが雇用することになったところまでは良かったけれど、住む家について色々と揉めることとなった。
花房家が暮らしているマンションは、オートロックのない都内から少し外れた3LDK。花房の両親と桜空の三人家族。そこにわたしとオネエ執事がお邪魔するのは厳しい。
運よく、隣の部屋が空いているから……と話をもってきてくれたけど、オネエ執事がセキュリティ面が不安だと断固として許さなかった。
言っている意味は理解できるが、なんていうかさっ。
二言目には「貴方方にはお任せできないわね。いいわ、お嬢様とふたりで暮らします」
って言うのは良くないと思うんだ。
これに折れてくれたのは大人の花房のご両親だ。
ただ、オネエ執事の言うセキュリティ水準をクリアする家を用意するのは、自分たちには無理だと告げ、彼がひとり家を手配した。
両親の遺産に手をつけることになったが、これは仕方がない。
が、ここで大問題が発生。
……ゲームの中で見たことのある地下室付きのお屋敷でしたよ。
わたし、心の底から思いました。
泣いていいですか、とね。
とはいえ、セキュリティ面が安全なのは喜ばしいことだったりする。
養子縁組の末、わたしは冷泉院家の者ではなくなったとはけれど、万に一つという可能性があるからだ。
――絶対に守る。そして幸せにする。
気持ちを新たにわたしは公立の小学校へと通うことになった。
ランドセルがまあ似合わない。
オネエ執事は「ふふ」と頬に手をあて笑うだけ。桜空に関していえば、黒いランドセルにするかとか言いだした。何色でも違和感ありまくりだと思うよ!
まあ、そんなこんなで毎日、オネエ執事と桜空と手を繋いで通うことになったんだけど、学校生活……学校は……あーまあ、うん。なんていうか……――
「……おはようございます」
朝のざわめきが、わたしの登場と共にシンと音が引いていく。
わたしは先生じゃないのにクラスメイトたちは、自分の席へ着き机から一限目の教科書を取り出し黒板を見つめるのだ。
そしてチャイムが鳴る。
そうです、わたしは常に遅刻ギリギリに登校しているんです。
だ、だってさ。
わたしの登場にあわせ、楽しそうにお喋りしていた声がやんで、いっせいにみんな席に着くんだよ。
申し訳ないというか居たたまれなくなって、この選択をしたわたしは悪くないと思うんです。
でも二年になってから半年ほど続くわたしの日常と思うと……切ない。
いいんです、いいんです。
大人だからひとりぼっちでも平気なんだよ。
寂しくなんて……寂しいに決まってるじゃないかー!
でもさ、この無表情は中々直らないのですよ。さらにこの見た目。浮きまくり。悪目立ちする目鼻っていうのか、とにかく作られた美貌って感じで、漂う雰囲気が小学校二年生ではない。
所作ひとつとっても厳しいオネエ執事のもと躾られているので、みんなと違う。気安くそりゃ話しかけられませんよ。
気付けば遠巻きにされ、ひとりぼっち。正確に言うと桜空が会いに来てくれるので、ぼっちではないけど……。
思えばオネエ執事や義母さんから聞かれたことがない。
定番の「友だちはできたの?」って。
大人たちは分かっていらっしゃるのね……。
太陽の光りが今日も眩しいです。




