アムール川 Амурские волны(The Amur waves)
アムール川 Амурские волны(The Amur waves)
帰国の朝、ホテルをチェックアウトすると請求はなかった。金銭には貪欲なこの国で奇異である。振り返ると楊海花が立っていた。許してね、空港まで送るわ。ここでいい、お前のことが忘れられなくなる。海花は黙って小さな包を俺に渡す。後で見てください。彼女は玄関でタクシーの運転手にクンコウと言って100元を渡す。空港はクンコウか。残った2500元を差し出すと海花は首を振る。
あなた、500元しか使わなかったの。日本では使えない。でも土産でも買ったらと頬にキスする。
あのう、空港まで割勘させてくださいませんか。流暢な日本語でロシア女が話しかけてきた。楊海花の目が釣りあがる。眼鏡をかけた女は荷物を持って乗り込んでくる。私、日露戦争の研究のためにきました。少し、話をさせてください。さあ、運転手さん車出して。
楊海花はずっと見送っていた。胸が熱くなる。しかしこの闖入者は二人の未練を断ち切ってくれたのかもしれない。出国手続きを済ませて待合ロビーに向かう。割勘済んでませんね。いいよ。では何か飲みましょう、私おごりますから。ロシア女が追いかけてくる。
喫煙できる珈琲店に入る。ロシア女は学生証を見せる。ロシア語のHはNだ。ナターシャ?あなたはロシア語話せますか。ニエット。どうして読めるのですか。『アムール川の波』を歌うために勉強したことがある。どうして歌いたいのですか。メロディーが日本人の心を捉えるのだろう。
http://www.youtube.com/watch?v=dOeHsMJaULk
でも貴方の場合それだけでないでしょう。よく質問がポンポンと出てくるな。失礼しました、立ち入りましたね、でも恋も政治も相手を自分の思う方向に動かそうとする点では同じでしょう。それは言えるな、で君の意図は何だ。
ソヴィエト連邦はロシア革命にはじまり、1991年に崩壊しますね、連邦の意義を考えるには歴史を読み解くことから始めるのが良いと考えました。まず帝政ロシアの崩壊は日露戦争が一つの原因となっていると思うのです。ニコラス皇帝は開戦中止を命じますが、軍部はこれを無視しますね、これって日中戦争と似ていませんか。大きな外圧が働いたと?そうです。
珈琲がきた。俺が飲むのにつられてナターシャがカップを近づける、熱、とカップを置く。眼鏡が曇る。ハンカチで拭く。素顔は美形だ、よくみると身体もいい、となると男の態度も変わる。単にスケベでは説明できない。これは自然の摂理だ。
ユダヤ資本か戦争屋か。両方でしょう、後者がより大きく働いたと思われます。で戦争屋とはどんな奴だ。存在ははっきりしているが正体は見せない奴かしら。状況証拠は確証を残さぬ。そうなんです。有史来の戦争は奴らが起こしている。え、どうしてそれを。貴方は学者?見ての通りスケベなオジさんだ。
あんな女とセックスするより私と話している方がいいでしょう。話もいいがセックスもいい。スケベね。今度私の家に来なさい、私が相手しますから。君経験あるの。あんなの誰でもできるでしょ。これ名刺です、貴方の名刺ください。今持っていない。日本の男が持っていないはずないでしょう。渋々一枚取り出す。メルアドもケータイもあるのですね、私の携帯書いておきます。
時間はまだ一時間ある。少し気が紛れてきた。ところで大連の風はどちらから吹きますか。海から。西、東どちらから。両方。女はどちらから来ますか。北から。日本に行く時はメールいれますね。俺の子供生むなら滞在費を全部持ってやる。考えておきます。
失恋を癒すのは新たな恋しかない。アムール川の岸辺に立てるのはいつの日ことであろうか。
完




