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コインロッカー

開いてくれてありがとうございます

楽しんでください

視界を覆っていた赤が、すっと引いていく。

ぐにゃりと歪んでいた世界が、元の形に戻って――

「……っ、ぅ……」

マフは思わずよろけた。

「いっ、た……なにこれ、ちょっと気持ち悪……」

足元はしっかりしたコンクリート。

見上げれば、見覚えのない天井と、蛍光灯。

「……駅?」

「到着だ」

リグがふん、と鼻を鳴らす。

「え、でも……ここ……」

マフは周囲を見回す。

改札、ベンチ、券売機。

確かに“駅”ではあるけれど――

「……仕事場じゃ、ない……よね?」

「は?」

リグの耳がぴくっと動く。

「ちゃんとイメージしたのか?」

「したよ!?したけど……なんか、隣の街の……」

「それが原因だろ」

ぴしゃりと切り捨てる。

「イメージが曖昧だと、座標がズレる。基本だぞ」

「えぇ〜……」

マフはがっくりと肩を落とす。

その横で、アイカが深いため息をついた。

「……ほんと、使えないですね」

「えっ、私が!?」

「誰がどう見てもそうでしょ」

冷たい視線が刺さる。

「まぁいいです。ここ、公民館の隣の駅ですし。歩けば着きます」

「え、そうなの!?」

ぱっと顔を上げるマフ。

「……最初からそうしろって話なんですけどね」

「うぅ……」

リグは肩の上でくるりと尻尾を揺らした。

「オレのせいじゃねぇからな」

「はいはい」

アイカはそっけなく返すと、くるりと背を向ける。

「じゃあ、ここまでです」

「え?」

マフが目を瞬かせる。

「送るのは“近くまで”って話だったんで」

「え、もう帰るの!?」

「当たり前でしょ。暇じゃないんで」

リグも小さくあくびをする。

「じゃーな」

「えぇ!?ちょっと――」

止める間もなく。

ふっと、赤い光が一瞬だけ揺れて――

二人の姿は、跡形もなく消えた。

「……行っちゃった」

しん、と静かになる駅構内。

「まぁいいか……近いって言ってたし」

マフは気を取り直して歩き出す。

その足元に、ひょこっとゴンザレスが並ぶ。

「結局歩きかよ」

「まぁまぁ」

「最初からそうしろっての」

「それはほんとにそう」

くすっと笑いながら、改札を抜ける。

外に出ると、夕方の空気がひんやりと頬を撫でた。

「……あれ?」

ふと、マフの視線が止まる。

改札の近く。

コインロッカーの前で、しゃがみ込んでいる人影。

見覚えのある、ピンク色。

「……レイン?」

声をかけると、その人物はゆっくり振り向いた。

「んー?」

気だるげな目。

間違いない。

「何してんの?」

マフが近づくと、レインはロッカーの中を覗き込みながら、

「んー……忘れ物探してたー的な?」

と、軽い調子で言った。

「的なってなに」

「細かいことはいいじゃん」

ひらひらと手を振ると、レインは何もないロッカーの中を優しく撫でる。

「てかマフじゃん。もう来たの?」

「来た来た!……でもちょっとズレて駅に来ちゃった」

「へぇ、あいにゃんのやつやらかした?」

「いや、たぶん私」

「でしょーね」

即答だった。

「えぇ……」

ゴンザレスが小さく笑う。

「わかりやす」

「うるさいなぁ」

レインはロッカーの扉をぱたん、と閉めて立ち上がる。

「まぁいっか。ちょうどよかったし」

「え?」

「一緒に行こ。公民館」

「あ、うん!」

マフはこくこくと頷く。

二人は並んで歩き出す。

駅を出て、少し先。

住宅街を抜けた先に見える、見覚えのある建物。

「……あれだよね?」

「そそ」

レインはポケットに手を突っ込んだまま、ゆるく歩く。

「今日ちょっとめんどいかもだから、気をつけてねー」

「え?」

マフが首を傾げる。

「めんどいって……何が?」

「さぁ?」

にや、と笑うだけで、答えない。

いい性格してる。

「も〜!」

文句を言いかけて、でもやめる。

(……なんか、ちょっとだけ)

さっきの“ズレ”といい。

レインの様子といい、

ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。

「……まぁいっか」

小さく呟いて。

マフは、公民館の扉へと手を伸ばした。

ありがとうございました

また読んでください

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