止まらないけど
開いてくれてありがとうございます
楽しんでください
「忘れ物はない?」
「はい。」
「ご両親には連絡した?お迎えは来ないの?」
「連絡はしました。お迎えは…い、忙しいので…」
「そう…」
レインとシホがお見舞いに来た次の日。
マフは退院することができた。
特に体に問題はなく、大きなショックからの気絶だったと、病院の先生から説明を受けた。
退院する日、面倒を見てくれた看護師さんは凄く心配してくれた。
なにせ、相手からしたら女子高校生が倒れたのに親は見舞いにもこないのだ。
「本当に大丈夫?無理しちゃだめよ?」
「はい。ありがとうございました。」
マフは深くお辞儀をすると、体の向きを変えて家へ歩き出した。
すると後ろからボソッと
「最近の親はダメねぇ…」
という言葉とため息が聞こえた。
マフはカバンの持ち手をギュッと握り締めながらトボトボと帰路を沿っていった。
三日ぶりに家のドアを開ける。
家の中はひんやりしていて、マフはまるで知らない家のような気分になった。
「…ただいま」
靴を脱いで、廊下に足を乗せる。
木で出来た廊下は小さくミシッと音を立てた。
その音に気づいたのかリビングのドアの隙間から、ゴンザレスがひょこっと顔を出す。
「おやぁ?帰って来たんだ。おかえり!」
ゴンザレスの声は相変わらず不気味なほどに呑気で明るい。
「大丈夫だったぁ?僕が呼んであげたんだよ?救急車!急に倒れるんだもん。びっくりしたよー」
「…ごめん」
「いーよー」
マフはカバンをソファーにポンッと置く。
すると、置いたカバンが『ぷるるるるるる』と鳴った。
マフの体がびくっと跳ね上がる。
「あ、きゅあふぉんじゃない?」
そういうと、ゴンザレスがマフのカバンを漁りだす。
「え?仕事?もう?今帰ったばっかなのに?」
「そんなの関係ないよ。」
ゴンザレスは『ぷるるるるるる』と音を出しながら振動するきゅわふぉんを手渡してくる。
マフは差し出されたきゅわふぉんをそっと手に取り開く。
「…もしもし。」
『あ、出た。もしもーし』
電話に出ると、電話口から飄々とした声が聞こえてくる。
「…れいん?」
電話の相手はレインだった。
どうしてレインなのか。レインはなぜ自分のきゅわふぉんに電話をかけられるのか。
そんな事聞く間も無く、レインはマフに淡々と問いかける。
『そうそう。今どこ?家?』
「うん…」
『よかったー。じゃ、今回こそマジの初仕事。西宮駅まで来て。大至急。じゃ、切りまーす』
「え、ちょっ」
レインはマフの返事をまたず、一方的に電話を切る。
「仕事だね。ほら変身して。」
電話が終わり、ゴンザレスはそう言うと、マフの腕の間から勝手にきゅあふぉんの画面を操作し、きゃわふぉんの画面は『変身!』に切り替わる。
「まって。今から変身するの?ここから西宮まで結構あるよ?」
マフの焦る言葉に、ゴンザレスは
「言っても隣町じゃん。すぐだよ」
とぶっきらぼうに返す。
ゴンザレスは意思を変えるつもりはないらしく、それを感じ取ったマフはしぶしぶ変身を承諾することにした。
しかしマフの指はいざ、画面の『変身!』のボタンを押す寸前に止まった。
「…またあの変身なの?」
ゴンザレスは「?」と不思議そうな表情をする。
「当たり前じゃん」
そう言われるとマフの気持ちはズッシリ重くなる。
今でもまだ覚えている感覚。
もがいても息のできない苦しみ。
思い出すだけでも意識が遠くなりそうだ。
「…ッ」
「何やってんの早く押してよ。まったく。ノロマなんだから」
ゴンザレスは呆れ顔でマフをこずく。
それでもマフは動かなかった。
そんなマフを見てゴンザレスはボソッと「仕方ないなー」と呟くと、マフの止まった指を掴み体重をかける。
「ちょっと!?」
マフの指は画面へと落ちていく。
世界が一瞬止まった気がした。
いや、こんな世界止まっていたほうがよかっただろう。
いずれ誰もがそう思う。
ありがとうございました
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