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「目を覚ましたか、マスター」


 ベッドの上で目を覚ました僕に声を掛けてきたのは、真っ赤な鎧に身を包んだ男性だった。顔はフルフェイスの兜に包まれており、表情を確認することはできない。だけど、さわやかな耳当たりのいい声は、やさしい雰囲気を纏ったものだった。


「【忠義の竜騎士 ディルムット】?」


 部屋に備え付けられている椅子に腰かけていたのは、僕のドラゴンデッキのモンスターカードの【忠義の竜騎士 ディルムット】だった。


「マスターが寝ている間の見張りをしておこうと思ってな。許可なく出てきてしまったことは申し訳ない」


 ディルムットさんは椅子から立ち上がると、僕に頭を下げてくる。昨日はリサさんと食堂で別れたあと、部屋に戻ってすぐに寝てしまった。服を着替えることもせず、ベットの上で寝ている様子から相当疲れが溜まっていたのだろう。


「怒ってるわけじゃないから、顔を上げてよ。一晩中起きて見張っててくれたの?」


 僕はぐっすり眠っているのに、見張りをしていてくれたなんて申し訳なさすぎる。


「寝ている間が一番危険だからな。そんな顔をしないでくれマスター。俺が勝手にやったことだ」


「でも、僕なんかの為にそんなことしなくても……」


「『僕なんか』じゃないぞ。マスターだから、俺たちは大切にしたいんだ」


 ディルムットさんはベッドの横まで来ると、片膝をついて僕と目線を合わせてくる。兜越しに見える翡翠色の瞳は、やさしい目をしていた。


「疑問に思っていんだけどロアさんといい、なんで僕にそんなに尽くしてくれるの?」


「マスターがどれだけ俺たちのことを大切にしてきてくれたか、そのことを一番よく知っているのは俺達だ。これまでの恩義に報いるだけの行動をしていきたいと思うのは、当然のことだろう?」


「……大げさ過ぎないかな?」


「俺は『忠義の騎士』だからな」


 仮面越しに、彼は笑っていた。寡黙で無口な人かと思っていたけど、実際に話してみると印象がまったく違う。


 ロアさんのときもそうだったが、イラストに映っている彼らの印象と、実際の彼らの性格は大きくかけ離れている気がする。人を見た目で判断するなというのは、こういうことを言うのだろう。


「ところで、ディルムットさんってコスト5だよね? 昨日は僕のマナは4しか残ってなかったはずなんだけど、もしかして回復したのかな」


「ああ、マスターのマナは5まで回復している。マナが全て回復したのは、十二時を過ぎた頃だったな。俺より上のコストを持つ奴らはまだ出てこられないところを見ると、マナの上限は上がらないみたいだ」


 カードゲームの時のルールだと、自分のターンが始まる前に【装備品】や【魔術】で消費したマナは回復する。


 おそらくだが、この世界では深夜の十二時がマナの回復するタイミングとなっているのだろう。そのおかげで、僕のマナは5まで回復してディルムットさんが出てこられた。


 マナが回復することを知れたのはありがたい。これで【装備品】や【魔術】のカードも心置きなく使うことができる。


 それにしても、ゲームとは違う部分がこの世界では色々とある。本来ならターンの始めにはマナの上限も1ずつ上昇していくのだが、そちらはこの世界では適用されないようだ。


 あとは手札という概念がなく、僕はデッキの好きなカードをいつでも使用することができる。正直に言ってルール違反も甚だしい。サッカーで例えるなら、ボールを手で抱えて相手のゴールに飛び込むくらいの反則技だ。


 さらに、僕は召喚したモンスターをいつでも呼び戻すことができる。モンスターがカードに戻れば、マナは返ってくるので、実質的に僕は好きなカードを召喚し放題というわけだ。


 これから僕のマナの総量が増えれば、さらにこの能力は強くなっていくに違いない。


 ということは、魔物を倒してレベルアップして、マナを増やしていくことが今後の課題になっていきそうだ。


「俺はそろそろ戻る。また会おう、マスター」


「うん、ありがとうね。ディルムットさん」


 光に包まれた彼は一枚のカードとなり、僕の右手に戻っていった。


 それと同時に部屋のドアがノックされる。


「ハルト、もう起きてる? 私は朝食を食べにいくけど、一緒にいく?」


「行きます」


 簡単に身だしなみを整えリサさんと合流する。階段を下りて、併設されている食堂に朝食を食べに向かうのだった。朝食の値段は三百ゴールドだった。目玉焼きとベーコンを挟んだ耳付きのサンドイッチだった。もちろん、朝食も美味しかった。


「昨日の予定通りに、魔道具屋にマジックポーチを買いに行くでいいよね?」


「はい、それでお願いします。」


 朝食を食べ終えた僕たちは、街に出かけた。向かうは、魔道具屋だ。


 十分ほど街中を歩いて、目的の建物にたどり着く。中に入ると、所せましと見たことのないモノがいっぱい並んでいた。


「マッジクポーチって、結構するんですね」


 お目当てのマジックポーチの値札を見て驚く。三十センチほどの大きさのポーチでも、六万ゴールドもした。僕の泊っている部屋の一か月分の値段と一緒である。


「そうね、駆け出しの冒険者が最初に突き当たる壁でもあるからね」


 リサさんでも一日一万ゴールド稼げたらいい方だという。駆け出しの冒険者には手が出しづらいものには違いないだろう。


「でも、これからは絶対にあった方がいいから買っておいて損はないよ」


「中に物を入れても重さも変わらないなんて、絶対にあった方が便利ですよね」


 マジックポーチは体積の十倍以上のモノが入れられる上に、袋の重さは変わらないそうだ。そんな役立つものを買わないわけにはいかないだろう。幸いにも、僕には購入できるお金があるのだから。


 結局、僕はマジックポーチを購入した。他に欲しいものもなかった僕たちは、店をでて街の広場に移動する。


「次はどこにいく? それとも、適当に街を探索する?」


 リサさんの提案も魅力的だったが、僕には他にやりたいこともあった。


「僕は魔物を討伐しに行きたいです」


「魔物の討伐? どうして?」


「僕はマナの総量をもっと上げたいんです。僕のマナが足りないせいで、召喚できないモンスターがまだいっぱいいるんです」


 半分以上のモンスターはまだ召喚できない。せっかく実際に会うことができるのだから、僕は彼ら全員と会ってみたいのだ。


「そういうことなら魔物討伐に行きましょう。ついでに、ギルドで良さそうな依頼があれば一緒に受けちゃおうか。昨日作ったハルトのギルドカードも取りにいかないといけないしね」


「はい、いきましょう!」


 冒険者ギルドに移動した僕たちは、昨日と同じくエルザさんのいる受付へと向かった。


「おはようございます、エルザさん」


「おはようございます」


「あら、おはよう二人とも。これを取りに来たのかしら」


エルザさんはカウンターの下から、銀色の一枚のカードを取り出す。


「これがハルトくんのギルドカードね。失くしたら再発行に手数料が必要になるから気を付けてね」


「わかりました。ありがとうございます」


 彼女からカードを受け取り眺める。この世界の文字が書かれているが、相変わらず読むことはできなかった。リサさんに後で尋ねてみたのだが、表面には昨日質問されたことがほとんどそのまま書かれているらしい。一目見た時から思っていたが、免許証と同じ役割のようだ。 


 ちなみに、裏面にはギルドでの注意事項が書かれているらしい。内容は冒険者どうしてケンカなどするなという当たり前のことしか書かれていないから、気にしなくていいとリサさんに言われた。


「わからないことがあれば、また質問に来てね」


「エルザさん、森のクエストってまだ何か残ってますか?」


 クエストというのは、先程言っていたギルドにある依頼のことだろう。


「今あるのは常時張り出されているゴブリンの討伐依頼くらいね」


「なら、それを私とハルトで受けます」


「わかったわ。こちらで手続きをしておくから、討伐が終わったらまたここに来てね。あと、森の奥には入っちゃだめよ。タイラントベアーなんて見かけたら一目散に逃げてね」


「はい、気を付けることにします」


 エルザさんに見送られて、冒険者ギルドを後にする。僕たちはその足で昨日と同じ森に向かって歩き始めた。


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