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「ハルト様、リサ様。今晩泊って頂くことになる民家にご案内します」


 ソフィア様のお付きの騎士の一人が、僕たちに話しかけてきた。ディルムットさんがキャロリーナさんを気絶させてしまったときに、彼女を引き取ってくれた女性だ。


 ロアさんをここで待っているべきかと考えたが、彼女は僕がカードから呼び出した存在なので、いつでも呼び戻すこともできることを思い出す。この場から離れても問題ないはずだ。太陽も傾いてきたことだし、暗くなる前に宿泊させてもらう場所に移動するべきだろう。


「お願いします」


「こちらになります」


 長身の騎士の人に先導され、彼女のあとをついていく。目的地までの時間を尋ねると五分くらいかかると言われたので、世間話のつもりで彼女に語り掛けてみた。


「ソフィア様とキャロリーナさんって、普段からあのような感じなのですか?」


 キャロリーナさんが奇行に走った理由もソフィア様はなんとなく察しがついていた。反対に、ソフィア様の為に、キャロリーナさんは自分の命をいとも簡単に捨てる覚悟をしていた。


 僕の目には二人はとても深い部分で繋がっているように見えたのだ。


「我々は一年前にソフィア様の専属の護衛部隊として発足致しました。その当時は二人とも事務的な会話しかしておられませんでしたね。お二人が本格的に今のような関係になったのは、半年前くらいからでしょうか」


 彼女たちは初めから仲がよかったわけではないそうだ。半年前に何かあったのだろうか。質問を重ねようとすると、隣にいたリサさんが先に口を開いた。


「半年前に何かあったのですか?」


「大きな出来事があったわけではありません。強いて述べるとすれば、日々の積み重ねだと思います。

 以前のソフィア様は体が不自由だったということもあり、引っ込み思案な性格だったと聞いております。

ご自身の性格を変えたいと考えたソフィア様は、身体が良くなられてからは、人と積極的に関わり合いを持つようになられました。民の生活を拝見するという形で、アーノルド王国内の各地に出向き、民と交流をするようになられたのです」


 女性騎士はそこで一息ついて、話を続けた。


「話は変わるのですが、王族に関わらず、貴族や騎士たちの中では権力を手に入れた者は、目下の者に対して尊大な態度を取ることがあります。隊長はそんな人間が大層苦手でした。比翼部隊が結成するにあたって、隊長に任命されたのも、上からの命令で渋々受けたそうです。

 そんな権力者が嫌いな隊長でしたが、旅先で誰隔てなく接するソフィア様を見て、認識を改めていきました。その認識が変わり始めたのが、半年前というお話しです」


 王族なのに変に威張らないソフィア様のことが気に入ったということか。彼女は僕やリサさんにも、上から目線で話かけてくることはなかった。むしろ、僕たちのことを気遣ってくれていることが多かった気がする。


「ソフィア様もキャロリーナ様も、私のような平民上がりの騎士に対しても、優しく接してくれます。今回のように時たま隊長は暴走されることもあるのですが……ハルト様もお二人の人柄の良さを知って頂ければと……」


 それまで饒舌に話していた長身の騎士はしどろもどろになる。キャロリーナさんの突拍子もない行動を思い出しているのだろう。彼女も彼女で色々苦労していそうだ。


「ハルト様、リサ様、目的の場所につきました」


 丁度よく目的地にたどり着いたようだ。たどり着いた家は、木造の平屋だった。入り口には男女二人が立っていて、僕たちの姿を見ると近づいて来た。


「それでは、私はここで失礼します」


「案内ありがとうございました」


 女性の騎士は一礼すると、その場から去っていた。入れ替わりに、二十代過ぎの夫婦に迎えられた。村長の息子さんとその奥さんだそうだ。家の中に招待してもらうとすぐに、食事が用意されたテーブルに案内される。料理はどれも美味しそうなものばかりで、肉料理が多かった。


「うわぁ、どれも美味しそう……」


 リサさんは涎を垂らしそうな勢いで目を輝かせている。昼間にあれほど食べたというのに、食欲旺盛な人である。


 かくいう僕も食欲をそそる匂いに誘われて、気が付けば用意された食事の前に着席していた。旦那さんには「村の病人を救ってくれたことを感謝します」としきりにお礼を言われ、奥さんには「遠慮せずに好きなだけ食べてください」と言われたので、お言葉に甘えて食事を堪能させていただくことにした。


 肉料理は素晴らしいものばかりだった。話を聞けば、この村で飼っている家畜の肉らしく、集落ほどの小さなこの村は自給自足の生活をしているそうだ。


 夫婦の二人との会話では、気になった村の情報がもう一つ出てきた。


「この村には温泉があるんですか?」


「はい、村の奥にございます。貸切にしておりますので、ご自由にお使いください」


 平原のど真ん中のこの村に、温泉があるとは想像もしていなかった。過去に火を使う魔物に、村が襲われたことがあるらしい。冒険者の活躍により無事に討伐されたようだが、魔物の体の一部が、村の泉に落ちたそうだ。


 それからというもの、その泉から湧き出る水は温泉として適した温度のお湯しか出なくなったそうだ。その一件以来、開き直った村の人たちは温泉として利用し始めたらしい。


「王都にある公衆浴場も似たような原理を使っているそうだよ」


 リサさんが補足で説明してくれた。どうやら銭湯のような施設もこの世界にあるみたいだ。スタツの街にもあったら便利だったのだが、今のところは王都にしか存在していないらしい。


 食事を終えたら、是非温泉に向かってみることにしよう。久しぶりの湯船は気持ちいいだろうな。

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