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「うぅ……食べ過ぎたかも」


 昼食が終わり再び王都に向けた馬車の移動が始まった車内で、リサさんはお腹を押さえて苦しんでいた。せっかく、楽しい旅が始まると思ったのに、台無しである。


「あれだけ食べたらそうなりますよ。自業自得です」


 サンドイッチ、ラーメン、寿司、カステラ。いくらなんでも食べ過ぎだ。気分が悪くなるのも仕方ない。


「ハルト……横になりたいから膝枕して」


 僕の肩にもたれ掛かってるリサさんが無茶な注文をしてくる。


 座席は二人掛けなので、彼女が横になろうとしたら必然的に僕の膝の上に頭を置くしかない。


「嫌です。横になるのは我慢してください」


「そんな……」


 リサさんを膝枕してあげるなんて僕には無理だ。ただでさえ、肩が密着していて心臓がどぎまぎしているのに、これ以上密着されたら心臓が破裂してしまう。


 そもそも、ソフィア様もいるのに、彼女には羞恥心というものがないのだろうか。


「ソフィア様。となりに移動してもいいですか?」


「ええ、こちらにどうぞ」


 リサさんを壁際に押し退けて、対面の座席に移動する。これで彼女も横になることができるだろう。


「うぅ……ハルト……」


 捨てられた子犬のような瞳をこちらに向けてくる。僕が悪いことしたみたいになるからやめて欲しい。


「しょうがないですね……ソフィア様、回復魔法を使える人を呼んでもいいですか?」


「そのような人物も召喚できるのですね。私も是非お会いしてみたいので、ぜひお呼びください」


 ソフィア様から了承を得ることができたので、僕はデッキからロアさんを呼び出す。デッキから引き抜いたカードは、一人でに僕が座っていた座席まで移動する。光の粒子が少女の形を作っていく。


「ロア、ただいま参上しました!」


 ロアさんはピンク色のツインテールを揺らしながら、右手でピースサインを作って右目に当てていた。決めポーズを取りながら登場したロアさんは、相変わらず元気そうだ。


「リサちゃんは本当に困ったお姉ちゃんですね。ほら、横になってください」


「うぅ……」


 ロアさんに膝枕され、リサさんは座席の上で仰向けになる。ロアさんが銀色のスタッフをかざすと、緑色の粒子がリサさんの体を覆っていく。


「気分はどうですか?」


「かなり楽になったよ。ありがとう」


「では、報酬を頂きましょうか」


 ロアさんは右手で、膝枕しているリサさんの髪の毛を撫で始めた。栗色のセミロングの髪が弄ばれていた。


「ちょっと、ロア。くすぐったいって」


 リサさんは、体をくねくねと揺らしながら身もだえる。ジャケットの隙間から、普段は見えない、日焼けしていないリサさんの綺麗な白い肌が見え隠れする。


 見てはいけない光景な気がしたので、僕は窓の外の景色に視線を移した。


 ああ、どこまでも草原が広がっていて綺麗だな……


「リサさんもマスターに劣らず綺麗な髪の毛をしてますよね……ふむふむ、マスターが触りたくなる気持ちもわかりますね」


「へぇあ!?」


 ロアさんの発言に、意味の分からない声がでてしまった。あまりにも大きな声を出してしまったので、隣にいたソフィア様も体をビクっと揺らしていた。


「ハルトは私の髪を触りたかったんだ? 言ってくれたら、いつでも触らしてあげたのに」


 リサさんは顔を横に向けて、口角を釣り上げて悪そうな笑みを浮かべている。


「べ、別にそんなことは……」


 リサさんの髪を触ってみたいと思ったのは、ただの興味本位である。叔父さんが僕の髪を気持ちよさそう

に触るから、僕も触れてみたいと思っただけのことだ。


「ちなみに、マスターは髪を触られるのも好きですよ」


「ロアさん!」


 彼女を呼び出したのは失敗だった。さっきから僕の個人情報が次々と流失している


「では、私が撫でさせていただいてよろしいですか?」


「ソフィア様が僕の髪を?」


「駄目でしょうか……?」


 悲しそうな顔をしながらこっちを向くのは辞めて欲しい。僕が悪いことしているみたいじゃないか。


「……少しだけですよ」


 面と向かって髪の毛を触られるのは恥ずかしいので、僕は再び窓の方に顔を向ける。後ろ髪がソフィア様の方に向けられている状態だ。


「ありがとうございます。それでは、触らせていただきますね」


 ソフィア様の細長い指が、僕の髪を梳いていく。


「本当に男の子とは思えませんね……美しい黒髪です」


「あれ? ソフィア様は僕のことを男と認識しているんですか?」


 髪を撫でたいなんて言うから、僕のことをてっきり女の子だと認識していると考えていた。事実、キャロリーナさんは僕のことを女の子と認識していたみたいだったし。


「はい、最初に報告を受けたときは耳を疑いましたけどね。あっ……すみません」


「女の子に間違えられるのは、慣れてますから……」


 人間諦めが肝心であると、この年で学ばされた。この世の中にはどうにもならないことも存在するのだ。


「その見た目で男の子っていう方が無理があるよ。私よりハルトの方が可愛いし」


「リサさんも十分可愛らしいですよ。自信を持ってください」


「女の子扱いされたことなんてないから、わかんないって」


「そんなことありませんよ。マスターがリサさんに抱きしめられたときの、おっぱ――」


「わああああああ!」


 車内に僕の絶叫が木霊する。すぐさま馬車が止められて、騎士の人たちが様子を窺いに来たのは、言うまでもないだろう。本当にすみませんでした……


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